Peace has been recovered
ジェットファイアーおじいさんがスパークのある場所へと手を持っていく。その様子がスローモーションのように流れていく。
「おじいさん!」
<我が同胞の孫よ!達者であれ!オートボットに栄光あれ!>
そう言ってジェットファイアーおじいさんはスパークを自分の身体から取り出して息絶えた。まるで私のおじいさんのときのようだ。
<ジョルト!>
<はい!>
おじいさんのスパークをジョルト氏がオプティマス氏につないで彼の命を吹き返そうとしている。みんなその様子を固唾をのんで見守っている。
オプティマス氏はビクビクと震えて、再び息を吹き返した。 その場にいた全員がワッと盛り上がる。オプティマス氏はゆっくりと立ち上がり、ピラミッドの頂上にいるザ・フォールンとメガトロンを見た。
<うおぉぉぉおおお!>
彼の雄叫びが上がり、ジェットファイアーおじいさんのパーツが彼にくっついていく。
そうして完全のおじいさんのパーツがオプティマス氏にくっついた時、彼はおじいさんの性能を受け継いだのか、飛べるようになったらしく、ピラミッドの真上へとたどり着き、それからザ・フォールンと激しい戦闘を繰り広げた。
「……勝った」
誰かの声がポツリと響き渡った。何かの装置は破壊され、メガトロンとスタースクリームは撤退していく。
「やった!」
どうやら人類の平和は守られたらしい。安心したのか、私の身体から力が抜ける。そう言えば、仕事が終わってからここに来たからすごく疲れてる気がする。
「……はぁ、」
<大丈夫ですか?>
「はは、」
ジョルト氏に問いかけられたが正直答える気力もない。体力も精神力も使い果たしてしまった感じだ。
あぁ…そうだ。ジェットファイアーおじいさんの顔のパーツはあるだろうか。彼のパーツを持って返っておじいさんと同じ墓に入れてあげようと思うんだけど…。
「あの、ジェットファイアーおじいさんのことですが…」
<はい。彼がどうかしたんですか?>
「彼の、フェイスパーツを実家に持って帰っても良いですか?実家に彼の同胞だった方のフェイスパーツがあるんです」
<え…!?うーん…僕には判断が難しいですね。それより…ずいぶんと疲労が溜まっているようですので、一度休んではいかがでしょう?>
「良いですか?ちょっと昨日仕事が終わってから連れ去られたので休んでなくて…」
<でしたらまずは休息を取りましょう。先生たちには僕から話しておくので>
「ありがとう、ございます…」
ジョルト氏は私に手を差し伸べてくれて、私は彼の手の中で少しの間眠ることにした。そう言えばジャズ氏が話したがっていると言っていたけど…ごめんなさい。疲労には勝てませんでした。
***
ずっと暗い海の底に沈んでいたかのような感覚があり、そして今度は段々と浮かび上がってくるような感覚になりゆっくりと目を開ける。
ジョルト氏の手の中で眠っていたはずだけど、今私がいるのはどこかの病室のようだ。個人部屋なんて贅沢な…。そんなお金私にないんだけど…。
そう思っていたら、ガラリと病室のドアが開いて白人の男性と黒人の男性が入ってきた。誰だ。
「お嬢さん、目が覚めましたよ!」
そう言って白人の男性が後ろを振り向いて誰かに言えば、病室の中にお母さんが勢いよく入ってきた。いつものほほんとしてるのに、瞳いっぱいに涙をためてこちらを見ている。
「詩織っ!」
お母さんはベッドの縁に跪いて顔を近づけてくる。どうやら大分心配させてしまったらしい。後ろからはお父さんも病室に入ってきている。
「君の身に何があったか覚えてるか?」
ちょっと口の中がカラカラだから声が出せない。小さくうなずけば、そうか…と白人の男性は眉を下げた。それで…この病院はどこの病院だろう。
白人の男性と黒人の男性がいるってことは日本じゃないのは確かだけど…。そう思いながらお母さんを見ればお母さんは涙を拭いながら言った。
「米軍基地の軍病院ですって」
「……、」
「軍人さん?の中にあなたに感謝したいって言う人がいるらしいじゃない。だから軍の人が手厚く看病してくれてるのよ」
……間違ってない。間違ってはないんだけど、色々突っ込みたいことがたくさんあってなんて言えばいいか分からん。
「目が覚めたなら一度検査を受けてもらいたいので、少し席を外してもらっても良いですか?」
「えぇ。お願いしますね」
そう言って両親は別の軍人さんに連れられて部屋から出ていく。私の前には車椅子が準備され、それに座るように言われた。
「自分で歩けますけど」
「いや、ちょっと歩く距離が長いからな」
「そうですか」
そう言って白人の軍人さんに車椅子を押されながら長い廊下を行く。っていうか、これ外に出ないか?
「すまない。君を見るのは人間の医者じゃないんだ」
そう言われて何となく納得した。多分黄緑色のレスキュー車なんだろう。彼はそういうのを見るのが得意そうだから。
そう思いながら、車椅子を押されて着いた場所は広いラボのようなもの。彼らが乗れるほどの大きな診察台にいろんなコンピューターがある。
<やぁ。もう起きても大丈夫かい?>
「はい」
<それじゃあ、検査を始めていこう>
そう言って黄緑色のレスキュー車…多分ラチェット氏だろう…がこちらに近づいてきた。何をするのかと思っていると、彼の目からなにかの光線が出てきて彼はすぐに離れた。
「……?」
「やつはあのカメラアイで人間や奴らの内部を見ることができるんだよ」
そういうことか。すごい機能が備えられているなぁ。ラチェット氏はふむ、と頷いてまた私に近づいてきた。
<バイタルは特に問題はないようだ。ただ…脱水気味で栄養が不足している>
「……はぁ、」
<あとは君の身体に眠っているエネルゴンについて調べたい。一度あの診察台の上に横になってもらっていいだろうか>
そう言ってラチェット氏は手を差し出してきた。彼の手に乗って診察台に行くということなんだろう。特に抵抗もなかったため彼の手に乗る。
そうしたらいくつか吸盤のようなものを貼り付けられてその機械の大本のコンピューターの電源が着く。
<あぁ…やっぱり君は簡易的なオールスパークになっているようだ。これはいつからかな?>
「いつから…多分、幼少の頃だと思います。5歳とか6歳とか…」
<君は今いくつかな?>
「23です」
私が現在の年齢を答えれば私をここまで連れてきてくれた白人と黒人の軍人さんにはぁぁぁああ!?と叫ばれてしまった。
「俺はてっきり15,6かと…」
「オレも。サムよりは年下だと思ってた…」
……日本人、というよりアジア人が幼く見られるのは知ってるから良いんだけど、まぁ…そこまで驚かれるとちょっと傷つく。
「まぁ…それはおいておいて…15年以上もよくバレなかったな」
「そういう環境にいなかったので」
<そうだな。今彼女のエネルゴンは彼女の身体を生成する一部となっている。もちろん、彼女が望めばこれをオプティマスにやったように我々の生命活動を維持することも可能だ>
「彼女がディセプティコンの手に渡ればこちらとしては痛手だな」
「そんなに強大な力はありません。せいぜい死なないようにエネルギーを流し続けるくらいです」
「それでもあいつらからしたら喉から手がでるほどほしいだろうよ」
黒人さんの言葉にそんなものか、とぼんやり考えていると段々と眠くなってきた。
「お、おい、ラチェット、お嬢さんは大丈夫なのか?」
<あぁ。少し疲れてしまったんだろう。寝かせてあげてくれ>
「……それなら、病室に戻ります、よ」
<無理はしない方が良い。私のラボに君が問題なく眠れるスペースはあるから少しそこで休むと良い>
今回はラチェット氏の行為に甘えようか。私は、すみません、と小さくつぶやいて目を閉じた。
Peace has been recovered
(平和は取り戻された)