病院は白い。なんて、嘘だ。知ってる。
それを言った人はきっと健康だ。
基本フィクションの病院に触れている。せいぜい風邪と予防注射でしか病院と縁がない。そういう人間。
あるいは、病院に居てもなにかすることがある人間。
どちらにせよ、とにかく、手持無沙汰にあの壁を眺めたり、天井を睨みつけることのないような。
目を瞑っても鮮明に思い出せる。白くない壁。
日に焼けて、くすんだ色。灰がかったような、黄色みを帯びたような。
あそこに勤める彼らがどんなに清潔を心掛けているかはよく知っているつもりだ。事実どこもかしこも掃除が行き届いていた。
けれど、そうではなくて、これは見た目としての問題。くすんだ天井は血の通わない肌の色によく似ていた。
病院に馴染まないもの。聞かれたら俺はこう答える。健康な人間と、白い色。
そして、今年十八になる俺は笑えるくらい白が似合わない。
俺の中に沁みこんだ病院の空気が白を拒絶しているのだ、なんて馬鹿なことを考えるくらいの似合わなさ。
そして、うちの高校の制服は学ランだ。
「……」
ワイシャツ一枚とか、絶対考えたやつは馬鹿だと思う。もう少し選択の余地があってもいいはずだ。上半身全部白。馬鹿。逃げ場もない。ほんと似合わない。
俺としては年中学ランを羽織ってもいいくらいで、実際俺なら体質を理由にそうすることも可能なんだけど、暑さに弱い俺だとそれはそれで命にかかわりかねない。わざわざ特別措置を要求して「やっぱり暑いから脱ぐ」、なんて格好悪くて嫌だし。
鏡に映る自分を見る。案の定今年も夏服は似合わないし、俺が身につけるとそれは白いだけで死装束のように見えた。
その白いシャツの袖からは、脂肪も筋肉も少ない、これまた白い腕が覗く。同年代に比べて頼りない腕。ぐ、と手を固く握った。
ああ、もう。何もかもが厭わしくて嫌になる。この夏は、何度暑さにやられることになるだろう。
夏は嫌いだ。
大嫌いで、それでも高校生活最後の夏が、もうすぐ始まろうとしていた。