プレゼントを選ぶことが苦手だ。だから人に物を選ぶときは、もっぱら知り合いに頼りきりでいる。幼馴染の誕生日には、友人に、友人の誕生日には、幼馴染に、というように。
 私が選ぶということに価値があるとどれほど説いてもらっても、苦手なものは苦手で、今年も友人の力を多分に借りたというわけだ。
 八月九日。幼馴染の部屋の壁のカレンダーの印は、月頭に私がつけた。今日はわたしの幼馴染の、誕生日だ。


 ノックもせずに開かれた扉に、部屋の主である幼馴染は驚きもしなかった。
「おはよ」
 おはようと返す。目当ての袋を差し出して、言う。
「誕生日、おめでとう」
「ありがとう」
 読んでいた本をおいて、幼馴染、ミキが差し出した袋を受け取る。
「開けていい?」
「うん」
 目の前で包みが開かれる。別に緊張もしないのは、アドバイザーの意見を信用しているからだ。少なくとも、自分の頭で考えるよりずっといい。
 包みを開ききった幼馴染が無感動な声を上げる。事実の確認程度としか認識できない声だけど、それも毎年なので、気にならない。
「ペンだ」
「うん」
「瀬戸原と?」
「うん。今年は『普段使えるもので、ちょっといいもの』」
「言いそう」
「あと今年限定モデル」
「あー、ぽい」
 良い色、とミキが言う。私もそう思う。灰色がかった緑に近い青。横文字で示されたその色の名前はもう覚えてはいなかったけど、ミキが持っていたらさぞかしらしいだろうなあ、と思った色だ。実際ミキが手に持ってみせるとそれは実にしっくりくる。ミキは原色よりは、こういう複雑な色味の方が似合う。と思う。これは、私が頼った友人であるピリカもそう言ったから、たぶん正しい。

「ありがと、毎年」
「ううん」
 私が誕生日を覚えている知人は、本当に少ない。ミキと、ピリカと、あとすこし。だから別に負担にもならないし、毎年祝ってもらってるから、これはお互い様だ。
 カレンダーに勝手に印をつけることからはじまった、毎年のやりとりが終わる。
 毎年のやりとり。それが終わったことを確認して、それから、と口にする。来たときから下げていた紙袋が、差し出す私の手からミキの手に移る。誕生日プレゼントはもう渡したから、こっちはおまけだけど。


 促されるままに紙袋から物を取り出したミキが、怪訝な顔をした。
「ブックスタンド。……100均だけど」
 黒く塗装がされているだけで凝った形をしたわけでもない、本当に何の変哲もないブックスタンド。それを受け取ったミキは反応を決めかねているようだった。当然だろう。突然だったから。だから説明を付け足す。

「店で見かけて、必要かなと思って、だから買った」

 幼馴染は本を読む。とてもたくさん。たぶんお小遣いのほとんどを費やしているくらい。
 漫画も小説も読むうえに捨てることもしないものだから、幼馴染の部屋の本棚はとっくの昔にその容量の限界を迎えていて、一部は私の部屋に置かれているし、それでも収まりきらないから幼馴染の部屋の床にはあちこち本が積まれている。私はそれを見るたび「ああミキの部屋だなあ」と思うけど、不便であるのは幼馴染やおばさんの反応を見るにたしからしい。だから。これがあったら、すくなくとも塔の下の本を取るために上の本をずらすような真似をする必要はないだろう。そう思って買ったものだった。

 私の言葉に、幼馴染はすこし目を見開いていた。珍しい表情だ。それに私も驚いて、そのことにミキも気がついたのだろう。それから、何かを耐えかねて飲み込むみたいに、ミキが目を瞑った。ぎゅっと。

「……ありがとう、大事にする」
「あの、そっちはおまけ」
「うん、ペンも」

 ありがとう。そう言ってミキが続ける。
「せっかくだから、読書記録でも始めようかな」
「書く時間、勿体無いね」
「それもそうだ」

 とりあえず本は整理する。そういってミキが薄く笑う。すこし照れているようだった。すこし非合理的な、らしくないことを幼馴染がいったのがおかしくて、私もすこし笑う。

「これは今年の誕生日は、期待しててもらおうかな」
「毎年してる、よ」
「それはそれで、プレッシャー」
「ごめん」
「ううん」

 でも、今年は、ね。これは気合い、入る。
 そう続けたミキの言葉の意味がわからなくて、首をかしげる。ミキは笑っていた。

「うれしいよ、みゃーこ。すごく」

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