まーくんは、わたしの神様です。あ、まーくんって、幼馴染の男の子なんですけど。

 小学生のころ、男の子によくからかわれました。
 そのころからどんくさかったんですね、わたし。鉛筆とか定規とか盗られたり、後ろから押されたり。
 そういうとき、助けてくれるのはいつもまーくんでした。
「やめろ、バカ」って言って、必ず男の子たちを追い払ってくれたんです。
 まーくん、そのころからカリスマだったんですね。みんなまーくんの鶴の一声で大人しくなるんです。なくなった鉛筆も、定規も、まーくんがいつも持ってきてくれて。わたしのひざこぞうの砂を払って、「大丈夫か」って聞いてくれて。昔からやさしいんです、まーくん。

 あと、中学年くらいのころに陸上少年団に入ったんですけど……。ちなみに理由は足が速かったら、男の子から逃げ切れるかなあっておもったからです。その考えからしてちょっとどんくさいですね。
 そしたら当然のようにまーくんも一緒に入団したんですけど、始めたばっかりのわたしは体力なんかなくて、走るのでもなんでもいつもいちばん後ろでした。
 そしたら、まーくんもわたしに合わせて走ってくれるんです。「大丈夫か」って言いながら。まーくん、すっごく足が速いんですよ。それなのに、カントクに怒られたってわたしに合わせて走ってくれるものだから、わたし、申し訳なくて申し訳なくて。一生懸命、少しでも速く走れるようにって頑張りました。
 そしたら、すごいですね、努力って。あんなに運動音痴だったのに、地区大会で入賞できるくらいになったりして。わたしが短距離で結果が出せるようになったのも、今も陸上を続けてるのも、そういう意味ではまーくんのおかげですね。

 中学生のころは、部活でいろいろありました。
 少年団の経験があったから、陸上部に入ったんですけど、わたし、先ほど話したとおりまーくんのおかげでかなりすばしっこくなってたから、すぐ選手に選ばれたんです。
 でも、そういうのって、やっぱり目立つから。
 よく、靴を隠されました。ばれないように足を引っかけられたり、たまに部活終わりに制服が水浸しだったりで。
 困ったなーって思ってたんですけど、まーくんとのことも悪く言われたりしてたから、わたしまーくんに迷惑かけたくなくて、まーくんには言えなくて。
 でもある日の部活のあと、恥ずかしながらバケツの水をぶっかけられまして、あんまり直接的だったから、びっくりして、糸が切れたというか、びーびー泣いちゃったんです。ざまあみろって笑ってる先輩たちがこわくて、陸上で鍛え上げた足で泣きながら家に帰って、ご飯も食べないで、お母さんに心配かけちゃって。
 そしたらその夜、まーくんが部屋に来ました。お隣なんです、わたしたち。
 それで開口一番、まーくんが「大丈夫だから」って、それだけ。何が大丈夫なのか、冷静に考えるとさっぱりなんですけど、ちっちゃいときからの刷り込みがあるから、まーくんが言うなら大丈夫だって思った記憶があります。
 次の日は、水を浴びて乾かさないまま寝たせいか、熱を出しちゃって、一日寝込んで、その後学校に行ったら、陸上部の先輩が車に轢かれたって話題で持ちきりでした。
 なんでも、二度と走れないらしいとか、いや歩けもしないらしいぞとか、植物状態らしいとか、全部噂なんですけど、とにかくそれくらい重傷だったらしくて。

 そのせんぱい、わたしへの嫌がらせの主犯格的な立ち位置の人だったんですけど、わたしが代表になったせいで、リレーのメンバー落ちしちゃった人なんです、それで、その人がいなくなってからは、部活での嫌がらせは無くなりました。これはいけないことなんですけど、正直な話、安心したのを覚えてます。
 でも、安心してる自分が後ろ暗くて、まーくんに相談したんです。そしたら、「いいんだよ、それで」「お前は何も悪くないんだから」って笑ってくれて。あと、「でもこれからは隠し事もなしな」って。迷惑じゃないからって。ほんとうにどこまでもやさしいんです、まーくん。
 それ以来、部活も楽しくて。

 あ、でも、二年生のとき、陸上部の顧問が変わって、その先生はちょっと嫌でした。
 指導のときに体を触ってきたり、そういうの。なんとなく嫌だって、みんな言ってました。
 秋くらいに、部員が順番に面談だかミーティングだからひとりずつ呼び出されることがあって。明日の部活の後、って先生に言われたとき、なんだかほんとうにいやで、まーくんにそう言ったら、やっぱり「大丈夫だ」って言ってくれました。
 次の日、仕方ないから練習後部室に残って、先生とふたりきりになって、嫌な予感って当たるものですね、本当に嫌なことをされそうになったんです。ぞっとして声も出なくて、そうしたらなぜかまーくんが駆けつけてくれました。夜の七時過ぎですよ、しかも陸上部の部室。普段なら学校に残ってるはずないのに、まーくんが。
 それで顧問の先生を突き飛ばして、怖くて震えるわたしを慰めてくれて。ほかの先生たちが来ても、わたしずっとまーくんにしがみついてました。その間まーくん、わたしよりずっと苦しそうな顔で「ごめんな」っていうんです。
「ごめんな」
「大丈夫じゃなかったな」
「ごめん」って、ずっと。
 まーくん、助けてくれたのに。わたし、いやなことされそうになったけど、されそうになっただけで、されなかった。まーくんが助けに来てくれたから。
 だからそう言いました。
「大丈夫だよ」
「まーくんが来てくれたから、平気」
 まーくん、震えてました。俯いてたから顔は見えなかったけど、もしかしたら泣いてたのかなって思います。

 その後知ったことなんですけど、顧問の先生、わたしより先に呼び出した子たち、みんなに酷いことしてたみたいで。みんな怖くて泣き寝入りするしかなくて、わたしもまーくんが来てくれなかったらきっとそうなってて、だからやっぱりまーくんはわたしのこと助けてくれたし、わたしは「大丈夫」だったんです。ほんとうに。

 あ、余談ですけど、高校に入るときは個人的に修羅場でした。……馬鹿だったんですね、要は。
 中学の定期試験はずっとまーくんに泣きついてなんとかなってたくらいで、わたし本当にばかで、ほんとうはここに入学できるはずもなかったんですけど、ここ陸上も強いし、まーくんもここに行くって言うから、どうしても来たくて。そしたらまーくんが毎日勉強を教えてくれて、おかげで無事入学できました。中学の先生みんな目まんまるにしてましたよ。かくいうわたしもです。それくらいの奇跡でした。
 しかも、まーくんなんて、毎日毎日一日中わたしの面倒見てたのに、新入生代表であいさつしててわたし目玉飛び出すかと思いましたよ。たぶんちょっと飛び出してたと思います。まーくんハイスペックすぎてやばいです。


 こんなふうに、まーくんはとにかくすごく頭が良くて、すごくやさしいんです。
 そんなすごいまーくんなのに、いつもわたしを助けてくれる、神様みたいな人で、わたしはさながらその信奉者でしょうか。

 だから、まーくんを傷つけるようなひとがいたら、わたしが怒りの鉄槌を下してやります。
 部活のおかげで足は速いし、高校受験でちょっと頭も良くなりました。ばっちりです。どれもぜんぶまーくんのおかげなんですけど、とにかくまーくんに手出ししたことを後悔させてやるんです。

「お前の幼馴染マジ怖い」
「え?」

信者はどっち?



(即興小説トレーニングより加筆転載/お題:フォロワーの稲妻/制限時間:1時間)

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