俺たちは今日も浪費する。時間だとか若さだとか、いろいろな言葉をもって示されるもの、つまり命を。

 追いかけたことなんてなくて、ただ受け入れるか逃げるかの二つに一つ。手元にあったはずのものさえなくしてばかり。代わりに手に入るものはない。
 別の誰かのための心臓で生かされている俺。生きたいと叫ぶ心はそのわりに具体的なプランなんか示してくれなくて、残された時間なんてものを蛮勇にも似た形で無駄にすることだけが限りある命を節制して怯えて暮らす誰かに対しての小さな謀反だった。
 なんて、嘘。
 別にそんな大層なことは考えてなんかない。むしろ俺のしたことといえば考えることの放棄だけだ。向き合うのをやめたこと、それが結果としてあの人たちのやわいところを引っ掻くことになっただけで。問題に向き合って怯えて抵抗をしていた頃よりも今の方が抵抗の意味を為しているのだから笑ってしまう。両親はもう俺と目を合わせない。合わせられない。

 答えの出ないことを考えて苦しくなりたくない。叶うならもう何も考えたくない。考えて息が出来なくなるくらいならただの葦でいい。人よりちょっと馬鹿でいたい。そんでいつも笑ってられたらいい。真摯でないと詰られても、それが自分を騙すことになっても。
 思い詰めて思い詰めた先に行き着いたのはそんな結論で、へらへら目を反らしてわらって、俺はもう16歳を越えてしまった。

 初めての子供は生まれつき心臓が悪かった。気が動転した若い夫婦。シンイショク。ドナー。テキゴウリツ。突然降りかかる知らない言葉。だから彼らは決断をした。ドナーを作ること。本当バカ。道徳の授業受けろバカ。ついでに生物の授業も。でもその不道徳非人道それこそがつまり愛とかいうやつで、誰がどう説いたって、その時の彼らは同じ選択をしただろう。俺はその事実に何度だって打ちのめされる。
 生まれた子供と産まれた子供。子が宝だというのなら、宝はどっちなんていうのは聞くまでもない話だ。
 恨んだところで不道徳を裁く法はない。産まれた子供も、生まれた子供も、その親も、誰もが等しく救われない。神様が居ないから。
 だから俺は考えることを放棄した。


「あー、夏だ」
「ですね」

 空は青。窓から吹き込む風だけが涼しくて、サイコーの空模様。まさに真夏の始まり。

「どっか行きてー」
 出来るなら遠く、せめてここじゃないところ。望むくらいは自由なはずだ。親の庇護下にあるコーコーセーには叶わない望みでも。

「そうですね、こんな天気だと特に」
「だろー?」
「でも古橋くんはまず期末を乗り越えてください」

 じゃないと来る夏休みも来ませんよ、と友達の幼馴染、友達じゃない女の子が横で笑う。もう二人は飲み物を取りに行った。

 こんな良い天気なのに部屋に籠って何してんのって悲しくなるけど、学生の本分だ。テストが近い。
 コーコーセーの身には目の前にあるテストの方がジンセーの悩みよりよっぽどセツジツで、俺はその事実にちょっとだけ慰められる。この時期だけは馬鹿でいたいなんて言ってられない、賢くなりたい。
 目の前の英文がぐるぐる回る。ヒゲンテーヨーホーって何。
 俺の絶望的な表情を気にも留めずに猫原さんが口を開く。ふるはしくん。

「問2、間違ってます」
「……まじで?」
 もうやだ助けて神様。祈ってみても応えてくれるのは目の前の彼女だけだから、神様は今日もお休みらしい。

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