会う人会う人に死ぬな死ぬなと言われて、「死にませんよ」と返した。
別に死にたいなんて一言も言っていないし、考えてもいない。
ただ、なんだか日常に力が入らないだけで。
腑抜けの虫が体内にホームステイしている感じ、と言ったら通じるだろうか。

こういうのを、なんて言えばいいんだろう。

あんまり、言葉が自由ではないから。こういうときはいつも困る。
今の気分では考えるのも面倒で、幼馴染の面倒くさがりが移ったみたいだった。

日曜日の昼下がりは、哀しいに似ている。
昔そういったら、幼馴染は不可解そうな顔をした。「まあ、みゃーこがそう思うなら、」
そうなんじゃないの。続いた言葉は、たしかこんな感じ。たぶん。
日曜日の昼下がりは、まどろみにも似ているけれど、まどろむことと哀しいは別物。
こういうこと言うから、意味わからんって言われるんだろうなあ。

「ミキー」「なーに」
床に座り込む幼馴染は、漫画から目を離さない。
丸くなった背中に、自分の背を預けて伸びた。うまい具合にはまるのだ、これが。
「重いです」「太った?」「俺に聞くのそれ」「うん」
幼馴染の方が、私よりよっぽど私の健康状態を知っている。
「太ったかな」「そうでもないんじゃない」「そっか」

あくびを一つすれば、ミキもまた一つあくびをした。「あ、移った」
そして私ももうひとつ。
「よし、取り返した」「そういうもんだっけ」「そういうもんです」
他愛ない会話が終わって、ミキがまた漫画に集中する。
仕方がないので、すごすご定位置のベッド上に戻った。
静かになった部屋で、また無気力が顔を出す。

「あー…、」
こういうの、ほんとなんていうんだっけ。
漫画の頁が、また一枚進む。ぱさり。

ああ、そっか。

「死にたい、だ」

それもわりとライトでガチな方の。軽い気持ちで境界線を飛び越えられるような。
結論はすとんと腑に落ちた。腑抜けていたわりにまだ底は残っていたらしい。
そりゃ死ぬなとも言われるはずだ。うんうんと一人で内心頷いていたら、
コト、と硬いものが床に置かれる音がした。
視線を向ければミキが振り向いてこちらを見ている。
瞬き一つ、二つ。

「やっと気付いたか、馬鹿みゃーこめ」「うむ」

心配かけて、申し訳ない。
そんな気持ちを込めて、畏まって礼。ミキも真顔で頷いた。

「猫原碧、復活です」
「よろしい」


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