背後に壁が迫り、目の前には笑顔の幸村が立っていて、完全に逃げ場を失った。
冷や汗が背中を伝い、もう駄目だと諦めかけた瞬間、それまで作ったような笑顔だった幸村の表情が少し崩れた。
「フフッ、驚いた?冗談だよ」
「……へ?」
「そんなに嫌がってるのに無理矢理しないよ」
からかわれたのかと怒りより先にホッとした気持ちが先に立ち、光はその場で腰を抜かした。
そして一呼吸置いてふつふつと怒りが湧いて出る。
だがそれを口に出して再び機嫌を損ねられると困るので黙っておく。
「……関西人に笑えん冗談は勘弁してくださいよ」
とりあえず控えめな抗議をすると、幸村が助け起こしてくれる。
「ごめんごめん。嫌がってる姿が可愛いからついからかいたくなって」
「趣味悪……」
どうぞと促され、部屋に備わったライティングボードの椅子に座らされ、落ち着いて室内を見渡す。
一般家庭とは程遠い広さの部屋に改めて居心地の悪さを感じる。
謙也の家も広いがそれを上回る広さと豪華さがある。
「めっちゃ金持ちやったんっスね…ただもんやない雰囲気ある思とったけど」
「金持ちなのは親で俺じゃないよ」
「……金持ちなんは否定せんねんな…」
呆れた表情を浮かべる光を見て幸村が再び小さな声を上げ笑い始める。
今度は不思議そうな顔をする光に幸村が真面目な表情を向ける。
「そんな風に遠慮なく言ってくるのって蓮二以外で初めてだったから凄く新鮮だよ」
「はあ…そうっスか」
「蓮二のは五月蝿い小姑って感じだけど、君は俺と同じ目線で話してくれるから」
頂点に立つ人間の思わぬ孤独な一面を見せられ、光は幸村を見る目が少し変わった。
だが、だからといってこの状況はおかしいと再び迫りくる幸村の体を押し返す。
「ちょっ、ほんま止めてくださいって!!」
「本気で嫌なら殴ってでも止めればいいよ」
「で、きるかアホ!!」
「フフッ、いいね。その調子だよ。強気な目がいい」
ドSに見せかけたドMかと心の中で突っ込みつつ、力の籠った幸村の手を跳ね除ける。
だが細い体に中性的な面差しからは想像がつかない馬鹿力に光の動きはあっさりと封じられた。
「本当に嫌?嫌ならはっきりそう言ってくれていいよ。もう君には近付かないから」
「え……あの」
そこまで引かれてしまうと逆に気になってしまう。
光が答えに窮し押し黙っていると、腕を引っ張られベッドに座らされる。
「なんっ、何でそんな両極端なんっスか……普通に、友達とかでええやないですか」
「友達の君なんていらないよ。全部手に入れたいから」
「そんっ…な事、言われても……」
「どうする?俺を殴って止めてみるかい?」
じっと目を見つめられ、思考も動きも凍り付いた。
対戦相手が五感を奪われるなどと言っていたが、俄かに信じ難かった。
だがこうして対峙すると理解できた。
「な、殴るとか……出来るわけないやないっスか」
「それはイエスと受け取るけど、いいよね?」
やはりはっきりと答える事など出来ないでいると、沈黙を肯定と受け取られてしまい、幸村はゆっくりと光の体に覆いかぶさってくる。
「え、あの……わっ、ちょ!!」
いきなりシャツの裾から手を入れられ、慌てて手首を掴んだがそれより一瞬先に胸元を弄られ力が抜けてしまった。
「もう止めても無駄だよ」
「んんーっっ……!!」
器用に乳首を弄られ、くすぐったさの奥に僅かに快感が湧いてきて、それがじわじわと光を追い詰める。
「フフッ…可愛い。普段強気な君が乱れるところが見られるなんて嬉しいよ」
「ほんま、悪趣味や…!!」
シャツを器用に剥ぎ取られ、灯の下に晒された肌を首筋から順に唇を押し当てられ、舌を這わされ、
だんだんと思考が麻痺してこのまま流されてしまっても構わないような気持ちにさせられていた。
だが手が下半身へと伸びてきた瞬間我に返る。
「まっ、待って待って待って!!!」
「何?ああ、キツかった?ごめんね気付かないで」
「は?!違うわアホ!!!」
光自身気付いていなかったが、すでに性器は形を変え始めていてそれに気付いた幸村が嬉しそうにズボンのファスナーを下ろした。
そしてそこから顔を出す半勃ち状態の光の性器に指を這わせる。
「違わないだろう?ほら、気持ちよさそうだよ」
「ううっ……んっんー!!!」
他人に初めて己の性器を触られ、快感を覚えるより先に衝撃が大きかった。
何故こんな事になっているのだ、どこで道を誤ったとぐるぐる考えていると、それまでの緩い快感から腰の抜けるような感覚に変化した。
「んう?!ええっ?!あっ…!!あっあ!!あ!」
何が起きたのか一瞬解らなかったが、股間に埋まる幸村の頭に自分の性器が舐められているのだと気付く。
「あっ!や…いややっい…や!ああっあ!」
「ん…可愛い。光君はここも可愛いね…フフッ」
屈辱的な言葉だと反論する事も出来ず、光は巧みな舌の動きにあっさりと精を放ってしまった。
「気持ち良かった?」
「はぁっ…は…」
一気に快感を与えられ、ぼんやりとする頭では複雑に考える事が出来ず、光は反射的に頷いてしまう。
「じゃあ次は俺の番ね」
こんな事をしろというのかと一瞬青くなったが、幸村は自身の性器を前立てから出すと力の抜けた光のそれに押し当てた。
「ん?!あ…ああっ」
光の痴態にすでに形の変わっていた幸村の熱い性器がごりごりと達したばかりの光を攻めたて、再び硬さを取り戻し始めた。
先刻出した光の精液が二人の間の潤滑油となり、卑猥な水音を立てる。
「んっ!あ!…は…ぁ!」
「光君」
少し荒くなった吐息混じりで名前を呼ばれ、不覚にもドキリとさせられる。
鼻先が合わさりそうな程の至近距離から熱の籠った目で見つめられ、光は自然と唇を強請っていた。
「そんな事されたら、止まらなくなっちゃうなぁ」
「え…あ…ああっ!あ!ん!!んーっっ!」
唇に噛み付くように深く口付けられ、息が出来ないままに下半身を激しく揺すられる。
互いの性器を擦り合わせているだけなのに、体の奥にまで入ってきているような錯覚が起きた。
そして眩暈がしそうな程の快感を与えられ、光は二回目の絶頂を迎えた。
それと同時に幸村も小さな声を上げ、達したようで性器に自分の物ではない熱を浴びる感覚がした。
荒い息を整え、幸村は光の頬や額に口付ける。
「これより先は君の口からはっきりと俺を好きだって言わせてからにするよ」
何を今更な事を言っているのだと呆れたが、もうそれ以上何かを言う気力も湧かず、光はそのまま瞼を落とした。




「どうやった?昨日は」
「お陰様で。上手くいったよ」
翌日、最後の合同練習の最中、笑顔で近付く白石に同じく曇りない笑みを幸村が返す。
「ほんまビックリさせられたわ。まさか一人に会いたいが為に俺ら全員招待やもんなぁ」
「フフッ、それだけ手に入れたかったって事だよ」
「まあええけどな…お蔭でうちはええ練習なったみたいやし。それにしてもえげつないわぁ幸村君……策士すぎやろ」
「あの子警戒心強そうだからね。普通に迫っても駄目だと思ったんだよ。あ、言っておくけど俺じゃないからね。蓮二の入れ知恵だよ?」
「人聞きの悪い。お前が困っていたから少し策を授けただけだ」
すぐ側に立っていた柳が不服を申し立てるが、誰の策にしろやっている事は詐欺紛いだと白石は呆れた。
「究極の二択を用意し退路を断ってしまってから、こちらならまあ良いだろうと思う側に常に精市が立っていれば
自ずと罠にはまるだろう、と言っただけだ。先に無茶な要求をすれば、後から多少無理な事を言っても妥協するだろう」
「それでほんまに上手い事いくから怖いわ……けど、財前に恋愛感情はないけど大事な後輩には変わりないんやから、
傷つけるような事だけはしたらんといたってや」
「そんなの当然じゃないか。君こそ俺が見ていないところであの子が変な目に遭わないようしっかり虫除けになっていてくれよ」
「フッ、この男が虫除けとは随分豪勢な事だな。だがそれは俺からも頼みたいところだがな。精市がご機嫌でなければ部活に支障が出る」
そんな事を言って呑気に笑う二人に、白石はとんでもない相手に目を付けられてしまったものだと、
コートで必死に練習している後輩に同情の目を向けたのだった。






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