診察台の上に体を投げ出し荒い呼吸を整えていると、流しで手を洗う謙也の後ろ姿が目に入る。どういった意図で彼がこんなことをしたのか全く理解ができない。こんなとこ、さっさと着替えて逃げ出したい。けれど、自分の体液と汗でべたつく体では外に出ることもできない。更に、自慰行為で感じる以上の気だるさを持て余してしまっている。なんだろうこれ、普段のSEX以上に体力を消耗した気分だ。

と、流しで濡らしたらしいタオルを謙也に手渡された。これで体を拭けということだろうが動けずにいると、汗でぺっとりと額に張り付いた前髪を指でそっと払われた。その感触に体に痺れが走る。まだ体は敏感なままなようだ。

「拭いたろか?」
「・・・いらんお世話っすわ」
「無理せんでええのに」

もっと休んでいたいと訴える体に鞭打ち体を起こすと、苦笑いする謙也の視線から逃れるように背を向けタオルで体を拭う。精を吐き出しまさに精根尽き果てた状態の自分の物に触れると、想像以上に過敏なままだったようで、思わず肩が震えた。

いまのが謙也にバレてないといいが・・・と、思いきって謙也の方に向き直ると、誤魔化すように口を開いた。

「謙也さん・・・」
「ん?」
「(ん?やないわ!)・・・なんすか、これ」
「あぁ、一応前立腺も調べとかな〜って思うたんやけど」
「・・・なんかそれ以上のことされたような気ぃするんは思いすごしっすかねぇ?」
「あぁ〜、せやなぁ、ちょぉやり過ぎたわ・・・すまん」

それなりの謝意と後悔が感じ取られる言葉とともに、情けない顔をした謙也は俯いた。

「何したかったか知らんけど、後輩やからって人の体で遊ぶんは違うと思いますわ」
「なっ!ちゃうわ、遊ぶわけないやん!」
「じゃあなんすか。これ」

下半身丸出しで凄んだって格好がつかない。けど目の前の謙也はションボリとしているから、一定の効果はあげているようだ。

「・・・言っても引かん?」
「内容によりますわ」
「そ、それやと言いづらいやん・・・」
「言わへん、ちゅう選択肢はあんたにはあらへん。ちゅうか引くような内容なん?」

あー、とかうーとかさっきまで人の体を弄んでいた人物とは180度人が違ったようなヘタレな謙也の姿に、憤りが小さくなっていくのが感じられる。自分はどうも昔からこの先輩には甘い気がする。向こうも自分には相当甘いのは昔も今も変わらないのだが。

「ほな、怒らんし、引かんから言うてみ」
「・・・興奮しました」
「は?」
「『あー、俺財前の中に指入れてる。財前のちんこが目の前にある』って思って興奮して、暴走しました!」
「・・・・謙也さん・・・ホモ?」
「ちゃうわ!昔も今も可愛い子が好きやし、巨乳が好きや!」
「じゃ、なんやねん。あれか。最近忙しくて溜まってたとか?」
「・・・それは否定できん・・・けど・・・それだけちゃうねん」

いじけたような顔から急にキリっとした男前の顔になるからドキリとした。顔だけはいいのだ、この人は。・・・顔だけでもないか。

「言うてまうぞ」
「やから言うてくださいて」
「俺、昔っからお前んことエロイ目で見てる」
「・・・・」
「ほら、引いたやろ」
「・・・それ決め顔で言うことちゃうやろ」

引いたとか引かないとかそんなことより、重大な事言われた気がする。昔からって・・・

「俺、中学ん時からお前で抜いてた。そら、AVとかも使うてたで。けど、いっちゃん興奮するんがお前やねん・・・」
「・・・とんだカミングアウトしよったな、謙也さん・・・」

驚いたけど、さほどショックでもなければ引いてもない自分がいる。

「ほな、謙也さんは今日も今ので抜くん?」
「いや・・お、お前が嫌なら止めるし」
「やる気満々やんか!なんそれ・・・くっ・・・あははは・・・」

なんだか可笑しくなってきて笑いがこぼれてしまった。謙也はショック過ぎて笑いだしたと思ったのか、オロオロしている。が、自分にとっては、謙也が余りにも謙也らしくておもしろすぎる。なんだろう、この気分。自分って意外とリベラルな思考の持ち主だったのかと感心する。嫌でもなければ気持ち悪くもない。むしろ・・・。

「ほな謙也さん俺んこと好きなん?」
「そら、好きや。昔っから。知ってるやろ?」
「そういう意味で好きかどうかは知りませんでしたわ」
「今知ったやん」
「うん」

この状況を受け入れてしまったらむしろ清々しい。

「な、謙也さん今彼女おるん?」
「今?おらんけど」
「俺もおらんねん。なぁ謙也さん、ちょうどええし、俺らセフレから始めませんか?」
「はぁ?おまっ!なんちゅうこと言うねん!俺の財前はそんなこと言いません!」
「キモっ!あんなことしといて今更純情ぶるんすか」

顔を真っ赤にして喚く謙也の手を取って自分に引き寄せた。顔を寄せて唇を合わせると、赤かった顔がもっと赤くなって面白い。

「なぁ、俺男は好きやないけど、謙也さんは嫌やない気がするんすわ。けど男の体が平気かどうかはわからへん。経験ないしな」
「財前・・・」
「やから謙也さんとSEXできたらその辺クリアやと思うんで」
「軽っ!なんか軽ない?」
「うーん、そうすかね・・・良く考えたらさっきの結構気持ち良かったし。新たな扉を開いたっちゅうか。・・・まあ、嫌ならいいんすわ」
「や、嫌やない!」

握っていた手を振り払われたかと思ったら抱きしめられた。なんかわき腹に硬いもんが当たってるのは気のせいだろう。

「俺、お前のとこ大事にする!肛門のケアも一生する!」
「なんか変な言葉が聞こえましたけど・・・」
「取りあえず、来週CFしたるから心配しなや」

そうだった。そんなこんなでうっかりしていたが、自分は検査のためここに来たのだった。

「それなんすか、専門用語、止めてもらえます?」
「あぁ、ケツから内視鏡入れてお前の腸内くまなくチェックしたるから」
「・・・それ、断ってええっすかね?」
「何言うてんねん。便潜血でたら必須の検査やで。それになんかしらんけど、俺指名で何回も検査受けにくる患者さんが何人かおんねんで」
「・・・それ、明らかにそっち系のマニアやないすかね・・・」
「知らんけど上手いっちゅうことやろ。不安やったら麻酔してボーっとしとる間にちゃちゃっと終わらせるし」

・・・それ、やっぱり何されるかわからんから断っておこう。





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