トレイントレイン


ガタン、ガタン。不規則な電車の振動と音。
日曜日の朝早くからどないして電車に乗っとるんかと言えば、今日は練習試合をしにいくから。うちよりコートの数が多いから、ちゅう理由で相手の学校にお呼ばれしたわけで、至極面倒やとか思うとると、「財前なぁ、あっち着いたらそないぶすっとしとるんとちゃうで」と、白石部長に言われた。

「別に、ぶすっとなんしてへんっすけど」
「やー、面倒やって顔に書いてあんで」
「アホなこと言わんといてください、これが俺の普段通りの顔っすわ」

白石部長は「まぁ、愛想笑いも大事やって覚えといた方が得やで」と笑う。ほんまめんどい人や。

電車の揺れが心地よくて、もし今座っとったら確実に寝とるやろなぁなんてつり革を掴みながら考える。実際、目の前に座っとる千歳先輩は盛大に船こぎしながら眠っとるし。
千歳先輩の間抜けな寝顔を見つめとると、「なぁ光、今日はダブルス全勝しよな」と謙也さんに声を掛けられる。

「まぁ、あんたの頑張り次第なんとちゃいます」
「な…っ、ほんま自分可愛ないなぁ…!」
「はぁ、すんません、生まれつきなんで」

ああ、なんやほんまに色々めんどい。この電車に乗っとる人の大半はこれからどっか出掛けたりとかデートやったりとかするやろに、何が悲しくてジャージ集団の一員にならなアカンねん、俺。

そないなこと考えて気だるさマックスの中、練習試合全部勝ったら白石部長にぜんざい奢ってもらえへんかなとか思い付いて、それとほぼ同時に下半身に違和感を覚えた。
尻をまさぐられとる感覚、どう考えたってその犯人は、俺の斜め後ろに立っとる謙也さん以外考えられへん。こないな電車の中で、男相手に痴漢働く変態なんてそうそうおらへんやろし、そもそも俺の周りには同じテニス部員しかおらんわけやから、こんなん一目瞭然や。

「…ちょっと」
「なん?」

一応睨みきかしたつもりやのに、謙也さんはなに食わぬ風を装いながら俺の尻を撫で続ける。なんやこの人、アホなんはずっと前から知っとったけどほんまに頭おかしいんとちゃうか。

「なんや光、どないしたん?」

謙也さんが、非常にうっとい感じににやにやしながら聞いてくる。せやけど俺らの周りには普通に部員やら顧問やらが居る状況なわけで、そこで声を大にして咎めるわけにもいかへん。後々、面倒なことになりかねんしな。穏便に済ますにこしたことはあらへんねん。

どうにかして身体をよじって抵抗すると今度は隣に立っとる白石部長に身体が当たってしもうて、不思議そうな目で見られてまう。あああ、もう、どないしたらええねん。
俺の周りは部員でぎゅうぎゅうで、せやから誰かにこの光景を見られることがあらへんのが、不幸中の幸いちゅうやつやろか。

「っ、」

その時、さっきまでは撫でるだけやった謙也さんの手が、揉みこむみたいに動き始めた。俺の奮闘なんて水の泡らしい。
必死になんでもないふりして、謙也さんの手に与えられる刺激に耐えた。せやのに謙也さんは面白がるみたいに俺の耳元に唇を寄せて、わざとらしくそこで呼吸をしてくる。謙也さんの熱い息がかかって、身体が震えてまう。ちくしょう、周りに居るやつもちょっとは不審がれや、…せやけど気付かれたらやばいか、あー、もう。

「っ、は、…」
「…ひかる、」
「うっさい、話し掛けんなや…!」

完全に楽しんどるわ、この人でなし。いつもは超がつくくらいのへたれのくせに。
そのとき、目の前の千歳先輩が寝とるのをええことに、謙也さんの手が前に回ってきた。半勃ちになっとる性器をジャージ越しに撫でられて、腰が跳ねる。

「ちょ、っ…!ほんまに、」
「大丈夫やて、光が静かにしとけば」
「っ…くっそ、後で覚えときや…!」

こしょこしょ、内緒話するみたく言われて、それでまたぞくぞくしてまう。ああ、俺はアホや。せやけど謙也さんはもっともっとアホや。


「っ、…ぁ、」

謙也さんの指が、俺の性器をしごく。ゆるゆると形をなぞるみたいにされて、俺はもう必死につり革を掴んで、膝から崩れそうになってまうのを堪えた。

「っ、ん、ん…」
「は…、ひかる、」
「ん…」

さっきまで撫でられとった尻のとこには、謙也さんの熱が擦りつけられる。ジャージ越しでもわかるくらい固くなっとるそれに、興奮してしもとる自分が居るのがわかって嫌になる。

「は、…っ、ん、」
「光、前見てみ」
「…な、に、」

謙也さんに言われるがままに、ずっと俯いとった顔を上げると、千歳先輩と目が合うた。え、え、おかしい、せやかてついさっきまで間抜けな顔して眠りこけとったやんか。
千歳先輩は俺らの様子を見て驚くでも引くでもあらへんで、それどころかさっきまでの面影なんてあらへんくらい意地悪い顔して笑うた。

「たいが面白かこつしとっとねぇ」
「っ、や…!け、謙也さ、」
「もうええやん、今さら隠したって遅いし」
「ん、んぁっ、あ、やめ、やめて、」

さっきまでジャージ越しにいじっとった手が、ジャージの中に突っ込まれる。直接触られて、待ち望んどった刺激に身体が痙攣してまう。

「っ、あほ、ええ加減に、…っ、ぁ、ぁあっ、」
「せやかて光の、」
「ん、ん…や、ぁ、あ…っ」
「ほら、こないぬるぬるでがちがちになってしもて」

言いながら、謙也さんは俺のジャージとハーパンをずり下ろす。嘘、嘘やろ。
はしたなく勃起したそこを外気にさらされて、顔と身体に一気に熱が集まる。イヤや、こんなんイヤやのに。

千歳先輩は笑いながら俺らんこと見とるし、ふと横に視線を移すと、白石部長も俺らを見とった。頬は赤くて戸惑ってて、せやのにどことなく熱を孕んだ視線に、興奮が増していく。
それに白石部長だけやない、きっと、他のやつらもみんな俺らのこと見とる。痛いくらいの視線を感じて、もう頭がおかしなりそうや。恥ずかしいことさせられて、見られとるんや、俺。

「っ、ちょ…や、ややぁ…!」
「なん、興奮しとんの?」
「ち、ちゃう、ぅ、」
「電車の中で触られて、見られて。気持ちええねんな、光」

ぐちゅぐちゅ、俺の下半身から濡れた音が響く。謙也さんの手が、指が、焦れったいような、せやけどたまらんくらい気持ちええ刺激を与えてくる。

「は、あ…、ぁ、」
「イって、光」
「や…っ、はぁ、あぅ、ぅ、」

もう声なんてとっくに我慢出来てへんし、膝も震えてまともに立てへん。謙也さんの手が、千歳先輩と白石部長の視線が、気持ちええ。ああ、いく、いく、






「…る、光?」

肩を叩かれて顔を上げると、謙也さんが不思議そうに俺を見とった。

「なぁ、俺の話聞いとった?」
「え、ぁ、…すんません、聞いてへんかったすわ」
「なんや、立ったまま寝とったん?ほんま変なとこ器用なやっちゃなぁ」

あはは、と無駄に明るい笑い声、目の前には千歳先輩のだらしない寝顔。隣に居る白石部長は、やかましい遠山に「電車ん中で騒がんとき、終いには毒手やで」と脅しをかけとる。

ああなんや、夢、やったんか。まあせやろな、現実的に考えて電車であないなこと起きるわけあらへんし、……ええ、なあ、ほんまに電車ん中であんなんされたらどんな具合なんやろか。されてみたい、なんて、口が裂けたって言われへんけど。

俺にちょっかい掛けるんも飽きたらしい謙也さんは、隣に立っとるユウジ先輩と談笑を始めた。俺は謙也さんとのこと考えとるせいで悶々としとるちゅうのに、なんやおもろない。
せやから、俺は携帯を開いた。送信履歴の一番初めにあるアドレスを選んで、メールを作る。今日の練習試合、もし全勝できたら、俺んこと今日だけ好きにしてええですよ、……送信。

そのすぐあとに、携帯を開いた謙也さんが盛大に身体を跳ねさせて、むせこんで、顔を真っ赤にしながら俺を見る。そないな謙也さんの顔を見て、俺の心臓もなんやどきどき言うとる。

ほら、電車ん中で恥ずかしいことするなんて、絶対絶対、気持ちええに決まっとる。






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