「あ、ぁっ、あかん謙也さんっ……も、我慢でき、んぁっ」

ぴくぴく身体を揺らしながら定まらない視線でなんとかカメラの姿を探す。指定された右サイドから俺を捉える2カメを視界に入れると、耳元から謙也さんの切羽詰まった声が響いた。

『っ……おま、そんなエロい顔して…んっ、どんだけ俺を誘惑したら気が済むねん…』
「はぁ、やって……んんっ、ちゃんと見て…全部見て、欲しいねんもん…」
『はっ……お前もすっかり変態やなぁ』

初めてこのスタジオでやらしい事してから半年が過ぎて、俺はすっかりこのセックスで得る快感に溺れきってしまっていた。
渋っていた当初が嘘のように自ら誘い、服を肌蹴て、カメラに向かって大きく足を開き自分自身を扱きあげる。それをモニタールームで見ている謙也さんが同じように興奮してくれているかと思うと最早羞恥心なんてない。
椅子の背凭れに体重を預けて息を整える。意識的に内腿から力を抜いてなんとか達してしまうのを防ぎ、今度は持参したローションで濡れた指を後ろへと移動させる。

「見える?俺、もう指三本入るようなったんすよ…?」

椅子の上に足を上げて、前も後ろも全部見えるように背を後ろに倒す。途端、謙也さんの息を飲む音が聞こえて俺は満足気に指先を自分に埋めていった。

「うぁ、は……あ、も…こんなすんなり入るん、すよ…っ」
『ん、ぁ……ほんま、や。めっちゃ、よお見える』
「あ、あっ、ここ、ここ好き…っ」

一気に沈めた指で自分のいい所を好きなように刺激する。すっかり後ろだけでも感じる身体になってしまった俺は快感に身を委ね、口の端から垂れる涎にまで構ってなどいられない。
二本の指を抜き差ししながら残りの一本でそこを弄り、誰に構う事無く声を荒げる。スタジオに響く自分の声すら、気持ちを高める要因となった。

「ふあっ、あんっ、謙也さんっ……あっ、ああっ!」
『あ、かん……まだ、イったらあかんで、光』

いつからか、この時だけ呼ばれるようになった名前にも興奮を煽られる。勢いで強くいい所を押してしまって、身体がびくんと大きく跳ねた。

「あっ、ああっ……は、ぁ…」
『っ……イったらあかん、て』
「んん……っ、軽くイってもただけやし…」

肩で息をしながら視線を下ろすと、先端から少しだけ飛び出た精液が腹を白く汚していた。それを掬って眺めてから、カメラに掌を向けて微笑んで見せる。

「ほら、ちょっとだけ」
『ん……もう勝手にイったらあかんで』
「はーい」

返事をしてから掌を舐めて、口内に広がる青臭い味に頭がくらくらした。椅子に預けてた体重を逆にかけて今度はテーブルに突っ伏す。
後ろに片方だけ手を残して、もう片方は再び前へと移動した。

「んー…なぁ謙也さん、謙也さんの精液はどんな味なん?俺のと違う?」
『そんなん……舐めた事無いしわからん』
「あっ…ん、そうなん?……ふ、あ…舐めてみたい……」

前の手は優しく表面だけ擦りながら、後ろの手は極力前立腺に触れないようにして自慰行為を続けながらぼんやりと想像する。今目の前に謙也さんのものがあれば間違いなくしゃぶりついて舐め尽くすのにと。
ふと、テーブルにも飛んでいた精子に気付き迷いなく舐め上げる。謙也さんのを舐める想像をしていた所為か先程とは違う味に感じて、必死にそこに舌を這わせた。

「む、んん……は、謙也さ…あ、あっ」
『光、あかんって……エロ過ぎ、っ』
「は、やぁっ、も……ん、もどかし、っ」

ゆるゆる動かしていた手の微かな刺激に身体が余計に疼き出す。我慢出来ずに触れるだけだった手で握りこみ、激しく上下に動かした。

「あぁっ、んぁっ、謙也さん……っ、ふぁっ」

言われたばかりの事も守れずに達してしまいそうになった時、机に伏せていた顔が擦れてイヤモニが耳から外れる。あ、と思った時にはそれはベルトパックごと床へと落ちてしまった後だった。
途端、一気に気持ちが不安で満たされる。謙也さんの声が聞こえないと、不安で不安で仕方ない。
慌てて椅子から落ちて転んだ事を気にするよりも、イヤモニを手繰り寄せ耳に嵌める方が重要な事だった。

「やっ…謙也さんっ、謙也さんっ!」
『……光?そんなに慌てんでも、それぐらいで壊れへんって』
「良かった……あんたの声が聞こえんくなるの、嫌やねん…」
『お前……ほんま可愛いなぁ』

もの凄く甘い、愛しさが籠った声。その声で囁かれるだけで、傍にはいない謙也さんに抱き締められているような感覚を味わえる。それが俺はとても好きだった。
カメラの位置を確認してきちんと映っている事を確かめてから、そのままそこで足を広げる。身体も心も、もう限界を訴えていた。

「謙也さん、もうイきたい。謙也さんに見られながら、イってもいい?」
『ん…ええよ。俺ももう、限界近いわ』

言葉通り謙也さんも息が荒く、俺は耳に全神経を集中させてもう一度前を握りしめた。ローションや精液で汚れ滑りのいいそこは、自分の手の中で一層固くなり解放を待ち侘びて震えている。

「はぁっ、あぁっ、んっ、謙也さんっ」
『ふっ、あ…光、光っ……俺、もっ』
「あっ、ああっ、出る…んぁ、っ」

力任せに握っていたものから先程とは違い勢いよく精液が放たれて、途端に身体の力が抜ける。全身に余韻が回り、腕も足も小刻みに震えているのが自分でもよくわかった。
そのまま後ろに倒れそうになるのを腕で支えてなんとか堪え、虚ろな目でカメラに視線を送る。

「ぁ……けんや、さん…」
『っ…はぁ、光……』

恐らく同様に達したのだろう謙也さんの姿は見えない。でも、俺の姿は見てくれている。その事実に満足しつつも、裏腹に、俺は毎回最後に同じ問いかけを続けていた。

「いつになったら、俺をその手で抱いてくれんの……?」

その質問に、返事をくれた事は無かった。
代わりに、毎回その直後、謙也さんがモニターにキスしてくれていたって事を知るのは、まだもう少し先の話。





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