今日は、薬を貰いに極楽満月へとやってきた。頭痛のお薬と冷え症のお薬は白澤様の所に限る。
「ごめんくださーい白澤様」
ガラガラとドアを開けると白澤様の横には女の子。
「あら…お邪魔でした…?」
どうやら、私は白澤様のアバンチュールを邪魔してしまったらしい。
「何よ!やっぱり他にも女居るんじゃないっ!最低!このゲス男!」
と、彼女は見事に白澤様を持ちあげドアの方へと投げた。だが、しかし運悪くドアを開けた桃太郎と鉢合わせしてしまったのだ。既に居なくなった白澤様を投げた女の子すげーと感心しながらも倒れている二人の元へと向かう。
「白澤様…桃太郎さん…大丈夫ですか?」
「イヤ、ほんと…怖いよね女の子って…いらっしゃいななしちゃん」
「は、はい…」
白澤様も懲りないですねぇ…。黙ってればいい男なのに…
「シャチホコみたいになってますよ」
桃太郎が言ったあと、体勢を立て直す。
「あ、仙桃獲ってきてくれた?謝々、ありがとね。ななしちゃんやっと僕と遊んでくれる気になったの?」
と、白澤はニコニコととんでもない事を言う。
「いえ、薬が切れてしまって…もらいに来たんです」
「なぁんだ、薬じゃなくて僕も貰ってよ」
「あ、桃太郎さん大丈夫ですか…?」
しつこいので、話を逸らす。どうも白澤様は口が上手い。
「あ、ゴメンね怪我は?」
ここでやっと桃太郎の事を気にかけ、白澤は桃太郎の頭に着いていた葉っぱをとる
「あ、大丈夫です。すみません」
「この葉っぱ何だか分かる?」
私は、よく分かる。あの葉っぱは鬼灯だ。鬼灯様が好きすぎて実家には庭一杯の鬼灯が咲いている。
「なんだろ、あ、ホオズキ?」
と、桃太郎。
「そう!酸漿、又は鬼灯。英名チャイニーズランタン、鬼は中国語で幽霊のこと。亡者が持つ赤い提灯ってこと。根っこは生薬鎮咳剤や利尿薬になる。だけど、毒でもある微毒だけど。昔遊女が堕胎薬として服用していたこともある、妊婦さんは食べちゃダメ」
「その通り、アルカロイド及びヒストニンを含みますので流産の恐れがあります」
聞き覚えのある声にななしはハッとした。
「そうそう…」
「もっとも貴方はたらふく食って内臓出るくらい腹下せばよいのです」
「伏せろ!!!こいつは猛毒だ!!!」
ホントに仲悪いな二人共…。
「鬼灯様!どうしてここへ…?」
「私は金丹をとりに…ななしさん、貴方はどうして此処へ?」
「薬を貰いに来ました。鬼灯様会いたかったです」
と、真正面から鬼灯に抱き着くななし。鬼灯と会うのはおととい一緒にラピュタを見た以来だ。昨日鬼灯は帰ってこなかったらしい。
「あのスケコマシに何かされませんでしたか?」
白澤様が絡むと鬼灯様が何もされていないか、と声や表情は変わらないが優しくなるのを私は知っている。
「ななしちゃんこんな冷めたやつやめて僕にすればいいのに」
「あたしはこの冷めた人が好きなんです」
「ざまぁ見ろ極楽蜻蛉。」
「いちいちムカつくなぁ!こいつ!」
「それより注文していた金丹は?」
「金丹…?」
聞きなれない単語を桃太郎が繰り返す。
「中国の妙薬です。」
「コレだよ」
と金丹を差し出す白澤、桃太郎が近寄り見てみると宝石みたいだ、と思う。
「医療研究の一環じゃなきゃこんなヤローに渡したくないんだけどさ。まァコイツ閻魔大王の補佐官だしねーななしちゃんなら大歓迎だけど」
と、話す白澤の前に鬼灯が立ち白澤の手の上に自分の手を重ねる。
「え……何?キモチ悪……」
あ…これは…と、ななしはおととい鬼灯と一緒に見た映画を思い出した。
そして
「バルス!!!」
「手がァ手がァァァァァ!!それは何か!?滅びよってことかオイ!!お前ジブリマニアか!!」
白澤様もノっているので、優しいなと感心した。やはり恨めないお方だな。
「この手は男の硬い手じゃなくて女の子な柔らかい手を握るためにあるんだ」
「さっきその柔らかい手とやらでぶん投げられてましたけど」
「あぁまたフラれたんですか」
「フラれてないもーん」
「さっきななしさんにもフラれてましたよね」
と桃太郎。
「忠告しても無駄でしょうが、貴方いつか奈落の底へ堕ちますよ」
とため息をついた鬼灯に
「それより金丹の代金5千元…10万円でいいよ」
さぁよこせ天下の日本銀行券、と手を叩く白澤。
「金盛ってんじゃねえぞ」
あぁ、こんな鬼灯様も素敵。とまた抱き着くななし。
高麗人参をとりに行く途中白澤は見事に視界から消え、助けに行こうとすると片手で鬼灯がななしの身体を止める。
「貴方は私のそばに居てください。いつスケコマシが襲ってくるか分からないので」
今日の鬼灯は、少しおかしい。こんな甘い鬼灯様は初めてだ。裏に何かあるのかもしれない、と恐怖を覚えたななしをよそに、地獄から這い上がって来た白澤に鬼灯は言った。
「私自らが不眠で6時間かけて掘りました。落ちたことを誇りに思え」
「ロンドンハーツのスタッフかお前は!!!」
あぁ、だから昨日部屋に居なかったんだとななしは納得した。
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