タクシー
現世において欠かせない交通手段。料金は高いが便利なシステム、だがその一方で密室を利用した犯罪等も増えているーーー
今、自称乗り物会のアイドル朧車に乗っている。本人達曰くネコバスの仲間なんだそうだ。
今日も鬼灯様は美しいっす。
私は今日も鬼灯様のお側についている。お香ちゃんに、『それって…ストーカー…』みたいな事言われたけど、ストーカーじゃないもん。お側についてるだけだもん。
この前鬼灯様に付き合いますか?なんて言われたけど、多分場のノリで行ったんだと思う。だって、鬼灯様は私の事恋愛対象として見てないし…私、乙女ななしは今日も鬼灯様に夢中です…
「しかしタクシーも大変ですよね。変な客もいるでしょう」
「え?ああまあ困ったお客様はどこにでもいますよねえ」
「酔っ払ってはいたりとか…」
と、言いながらお団子を出す鬼灯にななしは食いついた。
団子を手にとり
「鬼灯様、あーん」
無表情だけど、あーんを拒否しない鬼灯様が可愛い。
「ハハハッそんなのしょっちゅうですよ〜鬼さんは酒好きですしねぇ。ところでお二方は付き合ってるんで?」
「いえ、そのような関係では」
「あたしが鬼灯様に夢中なだけですよ。でも鬼灯様と結婚する予定です」
「そんな予定はありません」
「あります」
「ありません」
「ハハハッ結婚式呼んでくださいねななし様」
「はい!是非!」
「あっそうそう怖い話があるんですよ」
「怖い話?」
「あたし怖い話好きです!」
「これは友人の体験談なんですけど……………………」
話によると、生きている人間が臨時体験をした話だった。
「ねっ怖いでしょ」
「そういうのが朧車タクシー会での怪談なんですね」
「わー!おもしろーい!」
「臨時体験はしょっちゅうありますから」
「でも『あ、アイツ生きてたんだ』って思うとゾッとしますって〜〜〜〜」
すると、
「……怪談かァ……そう呼ばれた事もあったねぇ……」
と、何処からか声が聞こえる。
私と鬼灯様は、辺りを見るが誰も居ない。
「アタシさアタシ。アタシは提灯於岩ってもんさ。今でこそタクシー会の灯りだけどね。昔ァアンタみたいに別嬪だったんだよ」
「…え?アタシ?」
「そうさ、ななし様アンタもなかなかの別嬪だねェ。惚れ惚れしちまったよォ。鬼灯様。アンタ見てたらかつての夫を思い出したよ。アレも顔は涼しい男だったねェ。あぁ…懐かしいねェ……呪った日々がさァ」
なんだか、提灯於岩さんはまだ元旦那さんに恋してるようにも見える。私も、鬼灯様とこうやって一緒に居れない日が来るのかな、なんて思うと悲しくなってきた。
そんな事を思っていたら、
ゴットン!!
「おわっ」
「きゃ…!」
「ななしさん…!」
朧車が前に強く揺れ、体制を崩し鼻をぶつけるところを鬼灯様が助けてくれた。鬼灯様に抱きしめられる事は滅多にないのに、今は喜べそうにない。
私と鬼灯様も離れる日が来るの…?
「ななしさん?」
いやだよ、そんなの…
「鬼灯様…私…鬼灯様と離れたくない」
離れるなんていやだよ。
あぁ…それにしても鬼灯様の匂い…
ずっと嗅いていたい
ずっと鬼灯の匂いをくんかくんかしていたら、鬼灯様は私を突き放し顔を外に出してどうやら外に居るらしい烏天狗と話をしていた。
恋仲にならなくてもいい、鬼灯様が好きな女性を見つけたら悔しいけど応援はしたい。でも、あたし
鬼灯様とずっと一緒にいたいな。
「そう簡単には離しませんよ」
小さな声で放った鬼灯の呟きは、ななしには聞こえなかった。
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