書房 | ナノ

恋味わたあめ



子供の頃、雲はわたあめのように甘いのだと思っていた。
実際は、水分の塊なのだから甘いわけがないのだけれど。
屋台で買った、ふんわり甘いわたあめを頬張りながら歩く。
いつもと違う風景、赤と白の色彩と祭特有の風景に少なからず心が踊る。
名前がしばらく歩いていると、目の前から般若の面を付けた特徴的な着物の鬼が歩いてきた。


「……鬼灯様、何やってるんですか。」
「見ての通りです。」
歩いてきたのは鬼灯様。私に気付くと般若の面を外してくれました。
よくよく見れば、水風船やりんご飴、金魚を持っている。
目いっぱいお祭りを満喫していらっしゃるようで何よりです。
「というか金魚草がいるのに金魚すくいしたんですか。」
「楽しいじゃないですか、金魚すくい。」
楽しいのは認めますが、その金魚の世話は誰がするんでしょうか。私ですか閻魔大王ですか。
「そんな目で見ないでください。ちゃんと私が世話しますよ。」
「ならいいです。可愛いですよね金魚。」


いつの間にか、鬼灯様と一緒に屋台をまわることになっていました。
といいますか鬼灯様が付いてきます。嫌ではないのですが、周りからの視線が非常に痛いです。
鬼灯様と並んで歩いて、他愛もない話をする……こういう時間はとても心地が良いのですけどね。
「名前さんはくじ引きや射的はしないんですか。」
「しませんね。小さい頃はやっていましたが、今は景品の置き場に困るので。」
笛、スーパーボール、水鉄砲、人形、ぬいぐるみ……。
あげればキリがないが、そういう景品は最終的に捨ててしまうことが多い。
結局捨ててしまうのならやらなければ良い、という結論に至ったのだ。
「それより、わたあめやりんご飴食べてる方が好きなんです。」
「……花より団子ですね。」
「余計なお世話ですよ。」
祭を楽しんでいるのだから花より団子ではないはずだ、多分。


「ふむ……、ちょっといいですかね?」
「何がですか?」
言葉の真意を確認をしようと、隣の鬼灯様を見ると思ったよりも距離が近い。
私が驚いて固まっていると、また少し距離が縮まって、持っていたわたあめが一口奪われた。
「美味しいですね、わたあめ。」
白いわたあめが鬼灯様の口に消えていく。
……食べたいなら買えばよかったじゃないですか。という一言は今は伏せておく。
「ええ、好きなんです。」
「私も好きですよ。」

ああ、何だか愛の告白みたい。
無性に恥ずかしくなってわたあめを一口頬張った。





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