書房 | ナノ

夏祭り記念日



今日は鬼灯くんが現世視察という名目でこちらに遊びに来てくれる"予定"


待ち合わせの場所は私の家。
時間は7時にくる約束だ。




「...遅い」



しかし7時を過ぎても一向に現れない彼。
きっと仕事が押しているんだとは思うのだが。



「せっかく鬼灯くん用に浴衣買ってきたのに...」




そう呟いてハンガーに掛けられている赤と黒の浴衣を見やる

名前は既に着物を着用済みだ。



現在PM 7:45






「...もういいや。メモ残して先に行ってよーっと」



"Dear鬼灯くん 先に行って遊んでますので、来たら浴衣着て見つけてね。"




「よし、これでいいね。どうせあっちは私の家の合鍵持ってるし、鍵かけても大丈夫よね」




名前はそう言って家を出た―――――








|
|
|
|
|
.
.
.


――――――――――名前はてっくりこっくりと一人夜道を歩く。

本来ならば、鬼灯と並んでこの道を歩くはずであった




「...馬鹿鬼灯、」


ポツリと虚しく名前の声が響く

道を延々と歩いていると、だんだんカップル(リア充)がちらほら見えてくる




「...(別に羨ましくないしっ)」


名前は地面を見つめながら歩く
祭り独特の太鼓の音や人の賑わいの声が聞こえてくる




「...ついちゃった」


くるりと周り後ろを見る
誰も居ない。





「...はあ」



名前は肩を落とす
今日はもう来ないのかな。忙しいのかな、徹夜?

顔を上げる拍子に、ちりんと名前の髪に刺さっている簪から鳴る




「せっかく鬼灯くんにもらった簪、付けてきたのになー...」



この簪は名前が一度地獄へ趣いた時(高熱で生死を彷徨っていた)に誓いを立てると同時に貰ったもの。





"お願いですから、これ以上私に心配をかけさせないで下さい。これを差し上げますので、もう地獄に来てはいけませんよ"





「...もうっ」


名前は再び歩き出す。足が行く先は―――かき氷屋さん。




「おっちゃん、いつものかき氷一つ頂戴なー」


〈はいよ!!ありゃ今年もあんた一人かい?毎年来てくれるのは嬉しいんだがなーこれの一つでも見せてくれよ〜〉



おっちゃんはそう言って親指をたてる



「例えが古いし別にいいでしょー!!」

〈はっはっは!!おーそうだ。ウチのせがれとかどうよ?これがなかなかのイケメンでよー〉


「知ってるよ。隼也くんでしょ?私の幼馴染じゃない。おっちゃん忘れちゃったの?」



名前は怪訝な顔でおっちゃんを見る




〈忘れちゃいねーさ!!遠まわしに言ってやってんだよ!!〉




名前は、はあと溜息をつく



〈実はよー...ここだけの話なんだが、アイツどうやら名前ちゃんのこと好きみてーなんだよ〉

「はあっ!!?」




おっちゃんからの突然のカミングアウトに名前は、思わず大きな声を出す
すると途端に周りの目が名前に注目する




「あ...すいません。」


〈なんでえ、驚くこたあねえだろ?二人共昔から仲良かったじゃねえかよ〉

「あのねえ...そういう問題じゃないのよ。それに今はもう、連絡さえとってないのよ?」




はあとため息をする




〈ありゃ?アイツいつもあんたと写った写真眺めてるぞ?それにいつもケータイ確認しちゃあ溜息なんざ吐いちまったりよー俺の勘違いか?〉


「(アイツそんなことしてたのか...)勘違いよ。私には一切その気はないもの」

〈ありゃーアイツ振られちまったか。〉


「顔はいいんだから、合コンとか後お見合いとかセッティングしてあげたらいいじゃない」




名前は提案してあげる。しかしおっちゃんは渋る



〈してやりてえんだが...アイツは俺よりも頑固一徹だからなあ。困ったもんだ〉



おっちゃんは考える。答えは見つからないと思うが、



「じゃあまたねおっちゃん。私まだ見て回るとこあるからー」

〈おう。またな名前ちゃん!!〉






おっちゃんと別れ、今度は綿あめを買う
ふわふわして美味しい





「(...もう8時半か..)」



カゴバックから携帯を取り出し、時間を確認する
花火が打ち上がる時刻は9時半だ




「あ、鬼灯くんって確か...金魚栽培してたよね」



正確には飼っている?生産?品種改良?している



「金魚すくいしよーっと」



鬼灯=金魚の定義が名前の中で既に出来上がっていた









金魚すくい屋前。




「...うわ、何あの金魚」



名前が見ている金魚は、
"ばかでかいコブが頭の上にあり、目をギョロッとさせ 赤に近いピンクの色をした部位があり 口をパクパクさせ動きが他の金魚とは異なる"金魚を見ている




「...初めて見た」


〈どうだい?釣ってくかい?1回200円だぜー〉



名前はうーんと悩む。
こんな変な金魚に金を費やすべきなのか



「...じゃあ3回させて」

〈あいよ!600円なー〉



ちゃりんと硬貨を渡す




「あれ取れるかなー」

〈アイツは結構重いぜーなんせでっかいコブが頭に乗ってんだからな〉



金魚屋のおっさんが、カッカッカ!!と笑う




「...ていやっ!!!」




バシャッ


するりと華麗に掬い上げてみるも、重みで破れる


「あー...重くて落ちちゃったやー」

〈ほい二枚目なー〉


「......ん」



名前は金魚を端まで誘導する。
しかし、紙の耐性が弱いのか途中で破ける



「え〜これで破けんの!?」

〈残念だったな!!ほれ最後だ〉


「ん〜...」




金魚を真剣に見る。



「...ここだっ!!!」


ばしゃん



シュッと金魚の下に網を滑り込ませて銀の深めの皿に入れようとする――――
がしかし撃沈した。




「...だめか」

〈もう一回するかい?〉

「...やめとく。こんなの不毛すぎるわ」


〈あいよ。またな嬢ちゃん!!〉




おっちゃんは手を振って見送る
悔しい




「お面買って落ち着こう...悔しいっ」



顔には出さないが、心で怒り狂っていた。






――――――お面屋前。



「このお面とこのお面くっださいなー」

《はいはいー820円なー》




名前は二つのお面を購入した。
一つは狐面、もう一つは金魚面




「(金魚面とかあるとか知らなんだ...)」



お面2つを受け取り、狐面を頭に 金魚は手に持つ




「喜んでくれるかなー?あの人好きそうだもんね。これ」




名前はふふっと笑う
それから延々出店を回っていく。

ポテトに唐揚げタコ焼きイカ焼き、また綿飴に飲み物いちご飴キャラメルクレープetc...




「...買いすぎちゃった。どこかベンチないかなー」



人通りのないベンチを見つける



「ラッキー♪食べ物で制圧しちゃえー」



ベンチにおいても大丈夫そうな食べ物を並べていく

そして食べ始める




「やっば!!すっごい美味しいじゃん!!」



たこ焼きに感嘆の声をあげる
すると、ふと前に影が差す――――



〈よ、よう。久しぶりじゃねえか、相変わらず大食いじゃねえか〉

「んふや!?(隼也!?)んぐっ...はんえほほいっ(なんでここにっ)」



口の中いっぱいに入れていたせいで、うまく話せない名前。


〈ま、まあ散歩ついでだよ。オヤジの働きとかその、見たかったしよ〉

「んぐんぐ...祭り嫌いのあんたが!?」




名前はぎょっとした顔をする



〈べ、別にいいだろ...昔とはもう、ちげーんだよ〉

「...の割には余り変わってない気がするけど?」


〈うっせ!!ほっとけよ〉



名前はにやにやと下卑た笑いをしていう




〈...隣いいか?〉

「ん?どうぞー。狭いとこですけど」


〈お前が狭くしたんだろ〉

「ごもっとも!!」



名前はあはは!と笑う
隼也はそれを見て目を細める




〈...そのたこ焼きあそこのだろ。わたあめ屋の反対側にあるあそこの〉

「なんでわかったの!!こわっ」


〈おいおい俺はここの街の原住民だぞ?馬鹿にしてもらっちゃあ困るぜ〉

「一応私もですけど」

〈そうだったな〉



名前はひたすら食べる
すると隼也が爪楊枝を奪い取る。



「あ!!爪楊枝返してよー!!!」

〈俺にも分けやがれ。この大食い女。〉




二人は辺りも気にせず、ギャーギャーと騒いでいる
傍から見ると、それはまるでリア充...




すると隼也がぴたりと止まる。



「どうしたの隼也?」

〈...いや、今日のお前綺麗だなって思っただけだ〉


「...は?」



名前はあまりの唐突さに素っ頓狂な声をあげる



〈なあ、その簪綺麗じゃねーか。どこで買ったんだ〉

「え?これー?もらった物だよ」



名前は目をパチクリさせ、そう告げる




〈...誰にだよ〉

「誰って...誰でもいいでしょ。あんたには関係ないことよ」


〈っつ!!?〉



隼也は何かを噛み砕くような歪んだ顔をする




「...どうしたのよ。いきなり...っな!?」




隼也は名前の両手をつかみ、強引に懐に引き込もうとする
しかし、瞬時に理解した名前は抵抗する




「やめてっ隼也!!痛いから!!!?離して」

〈言えっつてんだろ!!〉


「つっ鬼灯くん!!」




『お呼びですか?』




どこからか声がすると思った瞬間、名前は引き離され誰かの胸の中にいた


『間に合ってよかったです』

「ほお、ずき君!!」


〈...誰だおめえ。邪魔すんな!!こいつは俺のだ!!どっか行けよ!!!!〉




隼也は黒と赤が基調の浴衣を纏った男―――基鬼灯に怒鳴り散らす
しかし男は涼しげな顔で言い放つ




『ですが、彼女傍から見てもとても嫌がっているし痛がってる風にしか見えませんでしたが?』


「...どっかで傍観してたの?」

『いえいえ、ほんの数分前には此処に居ただけですよ』


「それを傍観してると言うんですよ!!!」


〈うるせー!!!そいつと話してんじゃねえよ!!こっちこい名前!!〉



隼也は二人の会話にイライラしたのか、名前の腕を掴みまた引っ張る



「い...ったいよ!!隼也!!!」

〈こい!!〉




シュッ

ずぼっ




鬼灯は瞬時に隼也の前まで行き、鼻フックを食らわす



〈うふごっ!!!?〉




そしてそのまま持ち上げていく。



「ちょっ鬼灯くん!?」

『痛がってると言っているでしょう。いつもは男女平等と言ってますが、さすがに今回は見過ごせませんね』




どんどん上にあげられる隼也。
尖った枝が目前にある



『その枝が目に入る前に彼女に謝りなさい』

〈おご...ぐえ...何、を〉


「あばばばば...」




鬼灯は冷徹なまでに冷え切った目をし、声色で言う


『もう一度言って差し上げます。彼女に泣いて詫びろ』

「ほ、鬼灯くん!!」


〈わ゛わかっだ...謝る。謝るっ〉




隼也は脚をばたつかせるが、全くの無意味だ



『何を?何についてこうされて仕方なく謝るのですか?』



鬼灯はすうっと息を吸い、




『謝る理由を明確に述べなさい。金髪もじゃもじゃ頭...』




ドスの効いたバリトンボイスで言う

さすがの名前も一瞬びっくりする。




「(なんちゅういい声で言ってくれるんですか)」



〈女性の腕を何度も引っ張って痛がってるのにやめませんでした。嫌がってるのにやめませんでした。すみません!!許してくださいっ〉


すると鬼灯はふっと指を鼻から外す
そして手拭で拭き取る



『...名前さん、腕にお怪我はないですか?』

「うんっ大丈夫、ちょっと引っ張られて違和感感じるだけだよ」


『そうですか』




鬼灯はふうと息を吐く。




〈名前...なんなんだよ、そいつは〉




隼也は咳き込みながら、名前に問いかける



「...私にとって大切な人です」

〈なっ親父...ぼっちっつてただろ...話とちげーじゃねえか!!〉


『おや、嬉しい事を言ってくれますね。』



隼也は地面をダンダンと叩く
凄く悔しそうだ。

鬼灯はと言うと、名前を抱き寄せ頬に擦り寄る




「くすぐったいよ鬼灯くんっ」

『...遅れてしまい、申し訳ございませんでした。怒っていますか?』



二人は戯れ合う。
それを遠くからみる隼也――――





「ううん。どうせあっちの仕事が忙しかったんでしょ?
正直ずっと待ってても良かったけど、癪だから一人で行っちゃった。私こそ、置いてってごめんね」


『貴方は悪くありません。』




鬼灯は後ろからぎゅっと更に抱きしめる




〈......〉



幸せそうに頬をほんのり赤く染める名前。

隼也は立ち上がり、砂埃を払う




「隼也...?」

『何方へ行かれるのですか?』


〈どこだっていいだろ。俺の夢も儚く目の前で散ったんだ。ほっとけ〉





隼也はそう言うと暗闇の中へと消えていった...――――――









「...行っちゃった」



二人は呆然と隼也が行った方を見る




『...ヤケに彼と親しそうでしたが、どういうご関係で?』

「え?ただの幼馴染よ?それ以下でも以上もないよ」


『そうですか...』




鬼灯は何かを考える
言い忘れていたがもちろん角は隠してある。
ホモサピエンス擬態薬を数滴飲んでいる



「それより!!ちゃんと浴衣着てきてくれたんだねっ」

『ええ、家に行ったらメモが置いてあったので、着させて頂きました。どうでしょうか』



鬼灯は袖の中に腕を通し、浴衣を見せる




「うん!!すっごく似合ってる!!!鬼灯くんはやっぱり赤とか黒似合うねー」



身丈もきちんと合っており、きちんと着こなされている





『というか、どうやって背丈等測ったのですか。教えた覚えはないのですが、』


「ふふーん秘密ー♪(多分怒られるわ)」

『そうですか。まあ多方検討はつきますけどね』


「(まじか!!)」



名前は内心大量の汗をかいているが、決して表には出さないよう細心の注意を払う



『それでは行きましょうか。私はまだ、楽しんでいないのですからね』

「うん!!」


そう言って鬼灯は名前の手をすっと握り、自分の元へ引き寄せる




「あ!!あのね鬼灯くん、君に渡したいのがあるんだー」

『ほほう?一体なんでしょうかね』



名前はそう言うと、袖からお面を出す




「はい!!これ、鬼灯くん好きかなーって思って買ったの」

『これは...金魚草?』


「え?」



名前はきょとんとする。





『いえ、閻魔殿で飼っている金魚草に非常によく似ているんです。まさか現世で見れるとは...』

「金魚草...?草なの?生き物なの?」



名前は困惑した顔をする




『今度また此方へ来た時に、持ってきて差し上げますよ。その際は防音室にしておいてください』

「え?ええ??」


ますます困惑する。




『...まあ今は祭りを楽しみましょう。』


「うん!!」



現在PM 9:08

|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
.
.
.
.


「あ!!ここのたこ焼きさっき食べてたけど、すっごく美味しかったんだよ!!」

『...もう食べたのですか。相変わらず大食いですね』


「だってー昼から何も食べずにいたんだよ!!お腹すいちゃってたんだもんっ」

『やれやれ』




二人は会話を楽しみながら、たこ焼き屋の前に立つ




《ありゃ?また嬢ちゃんじゃねえかい!!お、隣の人は彼氏かい?》

「えっ」



名前はみるみるうちに顔を赤く染めていく




『そうです。何か問題でも?』

「ほ、鬼灯くんっ!!」


《あっら〜...こんな色男を捕まえるなんて、あんたも隅に置けないねえ》


「ちょっおばさんまで!!からかわないでしょー!!!」



たこ焼き屋のおばさんは笑い飛ばす
そしておばさんはいつも通りたこ焼きを渡す


《お二人で仲良く食べな!!一個おまけしといたよ》

「えっ本当!?ありがとうおばさん!!」

『ありがとうございます』




名前はパアと顔を輝かせ、お礼を言う
そして二人はたこ焼き屋を後にした―――――









「あっそうそう、鬼灯くんにとって欲しいのがあるの。いいかな?」

『とって欲しいものですか。』


「こっちこっち!!」



名前はそう言ってぐいぐいと鬼灯を引っ張る
どんどん進んでいくと、たどり着いたのは――――

金魚すくい屋。



『金魚すくいですか。』

「うん!!ここにいる奇妙な金魚が欲しいのー」


『どれですか』



二人はプールの中を覗き込む




『...また金魚草。ですか』

「お面の金魚と似てるよね!!」


《おっカップルさん!!遊んでくかい?1回200円だよ》


二人はカップルという単語に、顔を見合わせる
そして笑い合う。
鬼灯は目尻を下げ、口元を少しだけ綻ばせる
名前は頬を薄く赤く染め、めいっぱい笑う



「あっお金は私が出す『では2回分お支払いします』...ちょ、ちょっと!!」

《はいよ!!》



名前はムスっとして鬼灯を見つめる

鬼灯はと言うと、真剣な眼差しで金魚を見る
一度目は試しで――――




ばしゃん

失敗する。


「んー...やっぱりあの子手強いね。鬼灯くんでも厳しいかな?」

『.....ここです』



二枚目を素早く取り替え、素早く尚且つ鮮やかな手つきでコブがでかい金魚を取り上げる




《おおおおお!!取り上げやがった!!》

「う、嘘!?あんなでっかいの一体どうやって...!!」


『これ一匹で良かったのですか?他にはいりませんか?』



鬼灯は何事もなかったかのような、平然とした顔で言う





「ううん!!この子だけで十分だよっありがとう鬼灯くん!!!」


『いえ、それよりも大事にして差し上げてくださいね』

「うんうん!!鬼灯くんに貰った子だもん。大切にするよっ」




名前はめ一杯の笑顔で鬼灯に言う






《大切にしてやってくれよーそいつはもう入荷しねえ代物だからよー!!》

「うん!!大切にするね。またねおじさんー!!」



鬼灯は会釈をして、二人はその場を離れる









「そういえば、もうすぐ花火が打ち上がる時間ね?」

『おや、何時頃からでしたっけ』



鬼灯はそう言うと、懐から懐中時計を出す。





「9時半だよ。あっそろそろじゃん!!」

『では何処か場所を取りに行きましょうか』

「うん!!あっあそこがよく見えるよ!!それに隠れスポットも知ってるんだー私!!」




名前はふふんと鼻を鳴らす
しかし鬼灯はそれを完全スルー。




『ではさっそく、其方へ行きましょう。時間がありません』

「えっ...なんか切ない気分になった...」


『ほら、行きますよ。』

「待ってよー」



二人は近くの山奥にひっそりと佇む寺へ向かう
カランコロンと下駄の音を立てさせながら――――――








現在PM 9:23













「わー相変わらず長いよここの階段!!」



名前はひーっと悲鳴を上げながらゆっくり登っている

それに対し、鬼灯は軽やかな足取りで先へ進む





『ほら、あと少しですよ』

「わ、わかってるよー!!でも浴衣だから、歩きにくいのー」



名前は先に行く鬼灯に抗議する
鬼灯は小さく短く、溜息を付き名前の所まで降りてくる




『...流石にもう始まってしまいますから、おぶっていきます。いいですね?』

「えっ鬼灯くひゃっ!!?」



鬼灯は名前を横抱きし、ぴょんぴょんと軽やかに駆け上がっていく
名前は顔を耳まで真っ赤にし、顔を背ける







――――ようやくたどり着く。
そこには人っこひとりいなかった





『何方もいらっしゃいませんね。』

「そ、そりゃあ祭りの日まで汗かきたくないでしょ!!」



名前は顔をまだ真っ赤にさせたまま言う





「...そ、それとおぶってくれて..ありがとう...」

『どういたしまして。以外に軽かったので、助かりましたね』


「なっ!?」




名前は口をパクパクさせているが、言葉になっていない

一方鬼灯は寺の外で座れる場所を見つける






『ここなら綺麗に見れそうですね』

「.....」



『そこにぼーっと立ってないで、此方に来てください。座れますよ』

「えっあ、うん!!」




名前は下駄を鳴らしながら、鬼灯の元へ行く





「そろそろ打ち上がるね...」

『...そうですね』




二人は空を見上げる




するとしばらく空を見上げていると――――

一つの細い線が空へ向かって打ち上がる





ヒューーー...


ドオーーーーーン!!




「あ!!始まったねっ」

『ええ...これが現世の花火なんですね』




二人は万華鏡のように鮮やかで美しい花火を眺める




「...こうやってずっと二人で眺めていたいね」



名前はポツリと呟く






『大丈夫ですよ。ずっと眺めていられますから』

「...え?」



鬼灯はそう言うと、名前の床に置かれた手をそっと自分の手を重ねる




『私は地獄の住人です。鬼ですよ?早々に寿命は来ません』

「......」


『私の言っている意味、分かりますよね』



名前はこくりと頷く






「...私の寿命が来たら、地獄で会えるってことだよね?」

『そうです。もちろん、此方に度々貴方に会いに行きますよ』




鬼灯は花火を眺めたまま淡々と喋る





『そこで私からのお願いなのですが、――――』

「何?鬼灯くん」







ドオーーン
ドドン



ヒュ〜〜〜〜〜〜...





『地獄へ来たら、私と夫婦(めおと)になって頂けませんか?』






ドオーーーーーーーン




しばらくの沈黙。
すると、名前の頬に一つの雫が流れる



「...私なんかで、いいんですか」

『貴方以外考えられないのですが?』





ドオオーーーーーーーーン




また沈黙が流れる




名前はそっと口を開く





「...でも、私は料理できないしドジばっかで鬼灯くんに迷惑かけまくってるんだよ?」

『そんなものは、関係ありません。私がカバーします』


「っ...」



名前の瞳から止めどなく大粒の涙が溢れてくる




「で、でもっ...!!」

『はいとだけ貴方は言えばいいんです』




鬼灯はそっと抱き寄せ、唇を耳元まで持っていき囁くする




『何も心配する必要はありません。あの日誓い合ったはずですが?お互いで守り合う、と』



鬼灯がまだ、丁と呼ばれていた時の昔話だ。





『私が貴方を守って、支えてあげます。貴方も私を支えてください』

「...っひっぅふ」




名前の口から嗚咽が漏れる





『...いいですね?』

「...はい」


『いい子です。愛していますよ名前』




鬼灯は頬にそっと口付ける




「んっ...」


『...貴方が地獄にくるのを、お待ちしていますよ』

「........それって軽く死ねって言ってません?」



鬼灯は無表情だ。しかし口角は上がっている




「ちょっと!!それは流石にひどいから!!あと60年待ってよ!!人生謳歌するからっ」


『流石にそこまでは待てませんね。私は一日でも早く夫婦になりたいのですから』


「ちょっと!!!鬼さんにとったら60も100も一緒なようなもんでしょ!!」


『そんなことはありません。』



「もーーー!!!」


『そういえば、私が差し上げた簪、差してきてくれたんですね』



「今更!!?」


















二人は花火が上がる中、痴話喧嘩をしていたのであった―――――――――――――

fin





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -