幸せとはいつでもそこにあるものだ。




社会人設定です。










♪〜
キッチンの方から鼻歌が聞こえる。光の声や。少し高くて、少し擦れた、俺の大好きな声。曲はきっと、俺が知らんようなマイナーなバンドのものやろう。今日は休み。きっと光は俺のために朝食を作ってくれとるんや。俺を起こさないように慎重に起きて、朝食を用意してそっと起こしてくれるんやろうな。あぁ、なんて幸せな休日。食事の良い香りがしてくる。そう、豚骨の・・・。


「ん?とんこつ?」
「あ、謙也さん。はよっす。豚骨これで最後ですからね」


光が用意していたのは朝食ではなく昼食。しかもカップラーメン。しかも自分のだけ。時刻は正午を回っていた。


「いや起こせや!!」
「知らんがな。ぐーすか寝とったの自分やろ」
「朝ごはん作って謙也さん朝ですよってかわいく起こしてや!!」
「俺も昨日遅くまで仕事やったのになんでそんなことせなあかんねん」
「おれのとんこつ!!!!!!!」
「俺の豚骨や」



あーーーーーー。やってもた。せっかくの休日やったのに。映画見て買い物行ってって、久しぶりにデートらしいデートするつもりやったんに。光が俺を起こさないのはいつものことや。俺が疲れてるから気を遣って寝かせといてくれた・・・とかではまぁない。俺の寝起きが悪いからめんどくさなって、何時の日か光は俺を起こしてくれなくなった。ぐすん。


「なにすねとんねん。ちゃんと焼きそばとっといてやったやろ〜」
「そういうことちゃうねん。俺は繊細な男の子なんや・・・」
「自分アラサーやろ。男の子なんてあつかましいな」



光はカップ麺をずるっとすすった。こいつはホンマ、年々ずぼらになっていく。昔はめっちゃ几帳面やったのになぁ。昔は部活帰りの回し飲みやって嫌がったのに。あ、こいつが着とるの俺のTシャツちゃう?んもーーーー。それ気に入っとるのに寝巻きにすなやーーー。あ、スープ飛んだし。はぁ、もうええか・・・。



「謙也さん、週末の予定は?」
「んー。特に無い。光は?」
「俺も明日はフリーです。今日の夜は白石さんとユウジさんと飲みに行くんで」
「はぁ?!酷ない?!俺も誘えや!」
「誘いましたやん。LINE見ろし」
「直接言ってくれや。なんで一緒に住んどるのにLINEやねん」
「めんどくさ。なら謙也も来ればええやん」
「つめた・・・いくけど・・・」



昔は謙也さん謙也さんてかわいかったのに、今では時々呼び捨てにされる。光曰く、3月までは同い年だとかなんとか。俺も昔はさん付けせぇとか言っとったけど最近はもう何も言わない。出会いこそ先輩後輩やったけど、今は恋人やし。






財前光という男は、几帳面で繊細で、人に心を開かなくて、上手く人に頼れなくて、器用で、不器用で、素直になれない男やった。でもそれは他人から見たこいつにすぎなくて、ホンマはめんどくさがりやし、ずぼらやし、適当やし、よく笑うし、寂しがりやし、誰かに頼りたいと思ってるし。そんなこいつのすべてを知ってるのは俺だけなんやなぁと思うと、腹の底から愛おしさがこみ上げてくる。



「光、とんこつ一口くれ」
「あ、すんません。もう全部食べてもうた。」
「ん、じゃあこっち」




光の薄い唇にキスをする。ラーメン味。はは、色気無い。でも最高に幸せや。光はかわいい。かわいくってかわいくって、愛おしくてかわいい。語彙力ないわ。せやけどなんていうか、もう大切とか好きとかそんなんとっくに通り越していて。



「・・・あんた、日に日におっさんになっていきますね」
「うそ、やばないそれ」
「やばい。親父化まったなしや」
「まだぴちぴちやと思っとったのに〜〜」
「ぶりっこすな気色悪い」
「光ちゃん酷い〜〜〜」
「なんか謙也さんと話しとったら疲れた。腹も膨れたし二度寝しよ」
「え、俺腹減ってるんやけど」
「んなもん知らん。道連れじゃ」



二人で人をだめにするソファにダイブして、光はいたずらっ子みたいに笑った。あ、おでこ出とる。かわええ。こんなくしゃくしゃな笑顔、反則やん。
明日は映画見に行って買い物に行こう。でも今日白石たちと飲みに行ってカラオケ行って、結局昼過ぎに起きたりして。まぁそれもええか。ええな、うん。



「謙也さんとおるとあったかいわ。子供体温。」
「せやろ。エコやろエコ」
「俺は、一生ぬくいところにおれるんやなぁ」





光が寝息を立てる。これからもずっとふたりで生きていくと思えるようになるまでは、たくさんの時間と様々な葛藤があった。俺たちは当たり前の日常が努力の結晶であることをお互いがわかっていて、言葉よりもずっと大切なことをいくつも手に入れた。



光の柔らかい頬に触れながら、幸福な時間を噛み締める。ずっと一緒にいられますように、なんてもう祈らない。自分たちの力でなんとかしてやる。
はぁ、幸せやなぁ。光の寝顔をうとうと眺めながら、俺はそんな風に思うのやった。光はそんな俺の気も知らず、気持ちよさそうにむにゃむにゃと笑った。




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