あいのうた(謙也誕)






忍足謙也、27歳、職業社畜。


府内のビル街にある会社の営業マン。元々人と関わることは好きやし、向いてるかなぁとは思ってる。大学出てから早数年、まぁめんどいことしんどいこともあるけど、周りの環境にも恵まれて、社畜なんかと言いつつ充実した日々を送っている。さすがに「なぁ忍足!白石くんのアドレス教えて!」の呪いがおとなになるまで続くとは思ってなかったけど。

偶然、ものすっごい確率の偶然で、白石と俺は同じ会社に就職していた。部署はちゃうけど。俺が今までモテてへんのって、絶対俺だけのせいとちゃうで。白石のせい!白石蔵之介のせい!!


……まぁ別にええけど。もうモテる必要ないし。俺には、昔っからひとりだけやし。





「あ〜疲れた。ただいま〜……って!ひかるおるやん!ただいまーーーー!!!」
「殺すぞ」


わ!殺人鬼みたいな目!こわ!


中学のときから一緒の俺たちは、俺が高校に入る年に恋人同士になり、一緒に大人になり、光が大学を卒業したあとから一緒に暮らし始めた。光はWebのなんちゃらかんちゃらみたいなよぉわからん仕事をしとって、ここ最近は会社で寝泊まりするほど忙しく、顔を見たのは5日ぶりくらいやった。なんや俺よりこいつのが社畜やな。

「仕事、ひと段落ついたん?」
「いちおー…明日から3連休や」
「おつかれー。お前クマやばいな!」

昔大きいと思っていた1歳の年の差はこの年になるとなんでもないようなもんで、男同士ということはまぁ、なんでもないとは言えへんけど、それでも俺らは幸せや。

「謙也さんこっちきて」
「おーなんや!今日は甘えっ子か!」
「そうや。早くこっちへ来てハグをしろ。俺を愛でろ、甘やかせ」
「横暴やー」

ぎゅーっと抱きしめたこいつの体は相変わらず細い。また筋肉落ちてんちゃうかこいつ。


「謙也さん、今年は当日言われへんかったな。誕生日おめでと」
「ん、おおきに。」
「プレゼントそこに置いてあるやつ。なんと謙也さんが欲しがってた名刺入れやで」
「おー、開ける前に言うてまうんやな」
「サプライズにドキドキする年齢でもないやろ」


たわいもない、可愛げのない会話。腕の中にすっぽりと入るサイズは相変わらず。お互いの未来を考えて落ち込んだり女に嫉妬してみたり、ちょっとしたことで大声を張り上げて喧嘩したりとか、そんな時期はもうすぎてしまった。ゆるゆるとながれるこの時間に幸せを感じている。幸せは形を変えていくものや。


「なぁ、なんで俺たち今まで一緒にいられたと思う?」
「どしたん急に」
「なんとなく。」
「そりゃ、俺も光も、お互いをずーっと好きやからやろ」
「それは大前提としてや。俺はな、最近、ちょっとわかるようになった」



光はへら、と笑った。この顔も最近やっとしてくれるようになった、甘ったるい笑顔。


「多分、謙也さんが人一倍アホやからやと思う」
「え、そーゆーやつ?」
「ほんまアホやからさ、あんた。俺が好き!好きやから大切!大切やから守る!ってバカみたいに単純で難しいこと、当たり前みたいにずーっとしてくれてるやんか。やから、俺もいろいろバカらしくなって。謙也さんのアホがうつったみたい」



ちゅ、って優しいきす。

「あんたのことは、俺が一生守ったるからな。」




かっこいい顔でかっこいいこと言うて。男の俺にやで?こいつほんま、なんなん。
今までずっとまっすぐでおれたわけないやん。光の未来を考えたらどーしょーもない気持ちになったし、ほんまに一緒におってええんかって、お前を不幸にしてまうんやないかって、何度も思ったよ。俺そんなアホちゃうで。ほんまのアホはお前やで。俺の言葉全部信じてくれて、ついてきてくれて。お前のこと守ったらなあかんって、でもそれすら言う度胸もなかった俺に、守ったるやって。俺のわがまま聞いてくれて、女役までさせとんのに、守ったるって。こいつ、ほんまアホや。財前光、ほんまにアホ。



「お前にはほんっまかなわんわ。」
「そりゃ俺はお前よりはええ男やで」
「お前ゆーな先輩やぞ」
「ほな先輩、プレゼント開けてみぃ。」
「名刺入れくれてんやろ?」
「ええから開けてみ」


綺麗な包み紙を開けると、名刺入れ。と、航空券。







「こっちがメインの誕生日プレゼント。ゴールデンウィーク謙也さん連休やろ。沖縄行きたい言うてたし、チケットとっといた。バースデートリップってやつやな」
「………あかん光、かっこよすぎ」
「おれがかっこいいのは元からや」
「ありがとう、愛してる」
「うん、俺も。」




さっきの答え、俺とお前がいっしょにいられるのはな、お互いのためにいろんなもの捨てられたから。当たり前の幸せとか子供とか世間の目とか、全部捨ててもええって、心から思えてるから。




もう一度、さっきよりぎゅーっと抱きしめた光はもう限界ってくらい眠そうな顔やったけど、ごめん、まだ寝かせへん。愛でろって言ったのそっちやからな。







「なぁ光、さっきのバースデートリップってやつ」
「うん」
「新婚旅行にせぇへん?」






サプライズに喜ぶ年でもないって言った光の両目がうるうる潤んで、それにつられて俺の目も潤んで。ちくしょう、ほんまはもっとかっこよく決めるはずやったのに!



ただお互いがお互いをずっと見てるのって、単純なようですごいことで、それをずっと続けられる相手とめぐり合うのなんて本当にめちゃくちゃすごいことや。


俺はこれから、光に何をしてあげられるだろう?アホやから考えてもわからん。やから、一生かけて、光がくれた幸せを、返していくよ。






happybirthday kenya…*





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