Precious days(拍)





「ひかる!待たせたなー!」
「謙也さ、………え?」
「へっへー、似合てる?」


きらきら、きらきら。金髪を風に靡かせてコートを走り回るあの人を好きになったのは、随分と前の話だ。あれから少しずつやけど大人になって、環境も少しずつ変わった。大学に進学して俺は趣味程度にサークルでテニスを続けていて、謙也さんは本格的にドラムに打ち込みはじめてラケットを握らなくなった。(せやけどかけっこしたら今でも俺が負けてまうんやろなぁ)
変わらなかったことと言えば、となりに謙也さんがいるということと、この人の明るくて眩しい金髪。
…………やったのに。



「や、人違いでしたわ。すんません。」
「うぉぉい!ちゃうことない!謙也さんや!光の大好きな謙也さん!」
「尚更人違いです。帰れ」
「想像を遥かに超えた冷たさ!!」


教師にどれだけ怒られても髪を明るく染めつづけた謙也さん。正確に言うと染めてあげつづけたのは俺。新米美容師よりもうまく髪染めれるんちゃうかってくらいには染めたったで、俺。(髪が傷む傷まんは別として)


「それ、どないしたんっすか」
「んー、今年は就活の年やしな!まぁまだちょっと先やけど、勉強とか頑張らなあかんし、いっちょ気合い入れとこー思って!」



謙也さんのまっきんきんのひよこ頭はまっくろくろすけになっとった。俺と同じ、黒。


「どや!かっこええ?」
「芋い」
「ひどっ!まぁ光とキャラ被るな〜とは俺も思っててんけどな」
「被らん。一緒にすんなや」



毎度毎度、人生の節目をこの人は俺よりも一年早く迎える。その度に迎える寂しさにはきっとこれからも慣れることは出来ないんやと思う。ましてや今回は俺の大好きな金髪を失って、謙也さんが謙也さんやなくなってもうたみたいで寂しくて仕方なかった。目の前におるのは確かに謙也さんやのに、赤の他人な気さえした。



「謙也さん、はよ謙也さんの家行こ」
「え、CD欲しかったんとちゃうん?」
「俺、それよりはやくえっちしたい」
「へ、」
「謙也さん、はよう」



早く早く、この人が謙也さんやって、心で体で感じたかった。不安を埋め尽くしてほしかった。せやけどいつまでも子供みたいなこと言ってるなんてことは、俺も分かっている。中身はかわいくって優しい謙也さんのまんまやってことも分かっている。でも、やっぱり、だけど。いろんな心の葛藤を頭の中で感じながら、俺は謙也さんの首に腕を伸ばした。















「謙也さん、はよっす」
「お〜!おはよ!………って、誰?」
「ひどいわ謙也さん。いくらあほやからって俺のことまで忘れてしもたんですか」
「やって、え、ひか、る?」



今まで一度も染めたことなかった俺の黒髪は、染められて金髪になっとった。謙也さんの色に、なっとった。




「え、どないしたん急に!まっきんきんやんけ〜!」
「全然似合わんやろなぁって思っとったけど、案外いけますやろ」
「うん!めっちゃかわいい!ひかる王子様みたい〜!!」
「王子様て……」



我ながら単純やって分かっとるけど、昨日の夜衝動的に染めてしまった。謙也さんに少し近付ける気がして。



「しっかし俺らダブルスのヤンキー要素全部お前がしょい込んでしもたな!」
「そんなん別にええっすわ」
「あーーー、めちゃくちゃかわええけど、なんか光やないみたいやー」
「…ほな、ホンマに俺かどうか試してみます?」
「へ?」
「えっち、させたってもいいですよ」


言ってやった。謙也さんやって俺の寂しかった気持ち、味わえばええんや!


「んー、それもええけど、謙也さんは光よりちょーっとだけ大人やからな、」
「ちょ、」
「こうやってぎゅぅーってするだけで分かってまうねんで。光のことぜーんぶ」



ずるいなぁ。やっぱり今日も謙也さんの勝ち。



「抱きしめるとむっちゃ光のにおいする!」
「…じゃあこれからはえっち要りませんね」
「え、それはちゃう!めっちゃしたいし。光のかわいいとこ全部にかわいいって言ってやらんとあかんからな」



髪色を変えただけで謙也さんみたいにはなれない。と、いうことは、謙也さんも髪を染めたくらいで何にも変わらない。俺の大好きな、謙也さんのまま。


これから何が変わっても、謙也さんが隣におることだけは変わりませんように。赤く染まった顔を隠すために、俺の方から謙也さんのくちびるに噛み付いてやった。





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