あいうえおと生きる





「あいうえおと生きる」と言う言葉を耳にしたことがある。「あ」は愛、「い」は命、「う」は運、「え」は縁、「お」は恩。これらを大切にすると、自ずと道は開けるそうだ。


アルファベットは26個しかないのに、ひらがなは50個もある。それにはそれなりの意味があるのだと、大量の文字にまみれた図書室で呑気な顔で眠る恋人を見つめる。俺の当番終わるの待ってる間に寝てしもたんやろな。ホンマ、可愛い人。



普段あまり多くは話さない俺だけど、この人に伝えたいことはいっぱいいっぱいいっぱいあるんだ。
例えば。「か」はかけっこ、「き」は気配り、「く」は食う量、「け」は喧嘩、「こ」は心の広さ。これは俺が謙也さんに勝つことができないことのかきくけこ。得にかけっこと心の広さは一生敵わないと思う。



「さ」はさみしがり、「し」はしたたか、「す」は素直じゃない、「せ」は世間体ばかり気にしている、「そ」はそっけない。
これは俺の性格を表すさしすせそだ。俺はいつだってこのサ行を反省して、反省して、それでも直すことが出来ない。謙也さんが笑って許してくれることに甘えて、後悔と反省を毎日のように繰り返している。




「ん〜ひかるぅ…」
「あ、謙也さん起きた?」
「ん、ひか……」
「寝言かいな…」




「た」は単純、「ち」は血の気が多い、「つ」は強い、「て」は敵を作らない、「と」はとぼけてる。そんで、「な」は泣き虫、「に」は人間くさい、「ぬ」は温い、「ね」は熱血、「の」はノリがいい。これらは謙也さんの性格を表すタ行とナ行。目の前の愛しい人の頬を手の甲で一撫でしてみる。


俺をすきだと言うときの顔は、謙也さんの表情の中で一番優しいと思う。ふにゃって目尻を下げて、少し焼けた頬を緩ませる。その瞬間、確かに謙也さんの瞳には俺だけが映っているのだ。それは物凄いことなんだって思う。



「は」は儚い、「ひ」は日だまりのようで、それでいて、「ふ」は不条理。「へ」は偏屈、「ほ」は欲しがってばかり。これは俺が思う恋愛のはひふへほ。儚げな関係で有りながら、欲しがってしまう。そんな不条理で偏屈な俺をいつだって受け入れてくれたのは日だまりのような謙也さんやった。



「ま」は間違いかもしれなくて、「み」は未来がないかもしれない。「む」は俺ばかりが夢中かもしれなくて、「め」は迷惑かもしれない。そんなふうに俺は「も」どかしい思いばかりしている。



「や」さしい謙也さん。「ゆ」うきがある謙也さん。「よ」わいのは俺。








「んぅ、ん…あれ、ひか?当番おつかれさん」
「あ、謙也さん。やっと起きた。」
「ん、え?ってもう5時半やないか!」
「やって謙也さん寝とるから」
「も〜起こしてや〜」



さっきまで怒ってたくせにほな帰ろ、て笑って言ってくれる謙也さん。立ち上がろうとした彼の背中に俺はおもいっきり抱き着いた。




「わ、ちょ、光?」
「すきです」
「え、」
「俺、謙也さんのことめちゃくちゃすきです。」
「…今日の光は甘えっ子なんやな」
「うん。やからちゅーしてください」




「やば、可愛すぎやろ」って呟いて謙也さんは俺を腕の中に閉じ込めた。






俺たちの恋愛はらりるれろで出来ている。
こんなにも好きな人に出会えてラッキー、の「ら」。人を好きになるのは理屈じゃないんだなぁ、の「り」。男同士なんてルール違反かもしれない、の「る」。冷静でいられなくなる、の「れ」。それでも彼と過ごす時間は何よりも「ロ」マンチックだ。



これからの人生、謙也さんのためにたくさん音を紡いで生きていけたらいいと思う。なかなかうまく言葉に出来ない俺やけど、もっと頑張ってもっと多くを伝えるから、待っていて。



「……あ。ワ行思いつかん。」
「え、なんの話?」
「いや、こっちの話。それより謙也さん早く、続き。」






人生は長い。
俺はこれからも、謙也さんを愛して、まぁ二人の間に命は生み出せないけど、周りの人の命を大切にして、出会えた運に感謝して、縁に感謝して、恩を忘れずに、そんなふうに暮らしていきたい。



俺のこんなにも重苦しい愛情は、うざいかもしれないけどめちゃくちゃ一途なんやからな!って、俺がもうちょい大人になったら言ってみよう。


だいすきなあんたに、出会えてありがとう。





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