春を生きゆく(拍)





「あおーげばーとおーとしーわがーしのーおんー」


ガチャ


「はぁ、あんた阿保ですか」
「きゃー!見つかっちゃった!」
「今すぐ飛び降りてください」
「さっそく死ね宣言!?」



今頃みんなは体育館の中に綺麗に並んで卒業式。屋上におるのは、俺と光の二人だけ。



「ちゅーかなんでこんなとこおるんすか。あんた卒業生やろ」
「卒業式っちゅーたら好きな子と屋上でおさぼりっちゅーのが王道やろ!」
「チッ…忍足家のロマンチストの血はよ滅びろ」
「ひどっ!…しっかしお前よお俺がここにおるって分かったなぁ!」
「そんなまっきんきん会場からおらんくなったらすぐ分かりますわ。場所はまぁ、忍足家の血を感じ取りました。」
「え、なんや愛を感じるんやけど!」
「あ・ん・た・は・あ・ほ・か!」
「いだっ!痛い痛い痛い!光ちゃん耳痛い!」



俺達の笑い声が空に吸い込まれる。俺は光よりも一年早く生まれていて、一年早く大人になる。ここで過ごした時間は過去のものになるけど、確かに心に残るこの感情はあたたかく、きっとこれからも在りつづける。


まだ、思い出に浸りたくなかった。光よりも俺の方が泣いてしまいそうだ。俺が泣いたら光もきっと泣いちゃうから、我慢我慢。



「謙也さん、ボタンちょーだい」
「お!なんやかわいらしいこと言うやん!」
「全部、俺にちょーだい。全部やで」
「はいはい」



ぽすっ
光が俺の胸に飛び込んできて、きゅうって抱き着いた。うあああ、かわええ。




「…いまーこそーわかーれめー」
「ひ、ひか?」


「いざーさらーばー」



光の身体がふるりと震えた。顔を覗くと優しい優しい表情をしていた。泣いとるかと思った。てか俺が泣くかと思ったし。



「特別に謙也さんに卒業式やったりますわ」
「え、」
「送辞…」


光はぽっけからお花出して俺の胸につけた。




「今日、謙也さんは、この学校を卒業します。そーつーぎょーうーしまーす!」
「まさかのシュプレ風か!!」
「雰囲気出ますやろ」


光は俺の胸から離れて、綺麗に笑った。空に吸い込まれてしまいそうだ。あぁ、連れていかないで。だなんて、卒業するのは俺なのに。



「俺は、2年の最初に謙也さんに出会って、それが運の尽きでした」
「うぉぉぉい!なんでやねん!!」
「謙也さんに出会えた以上のラッキーなんて、俺には残ってへんからです」
「え、」


「謙也さんを好きになって、たくさん泣きました。切なくて、辛くて。せやけどな、両思いになってからのがいーっぱい泣いた。謙也さんの寝顔見とったら、幸せすぎて涙出てくんの。」
「ひかる…」



「謙也さん、ありがとう。ホンマにありがとう。謙也さんと出会って俺の世界は変わったよ。ホンマに、変わった。俺の青春は謙也さんでいっぱいやで。」
「ひかるぅ…!」
「俺、同じ高校受けます。やから絶対俺以外見ないで。俺をずっと好きでいて。いつか謙也さんが俺以外を好きになったとしても、俺はずっと好きやから。」
「あほぉ…ぅ、おれやって…俺やって、ひっく、お前がずっと好きやぁぁ…!」
「やった、やっと泣いた」



光は悪戯っ子みたいな顔して笑った。俺はもう顔が上げれへん。


「ぅ、っく、先輩泣かすなや…あほ光…」
「やってあんた、きっと寂しくても多少無理して笑うから。今日くらい泣いてほしかったんや。あんたも俺との離れ離れが寂しいって泣いてほしかった」
「そんなん、寂しいに決まっとるやろぉ…!」
「ね、謙也さん、」



そろそろ俺も、泣いていいすか。







俺はおもいっきり光を引き寄せて腕の中に閉じ込めた。光はぽろぽろ涙を零して俺の胸がそれで濡れる。こんなにも愛おしいと思える光と巡り会えたのは、もはや奇跡やと思う。



「ぐすっ、ぅ…2年7組、財前光…」
「ひっく、送辞まだ続いとったんかい!」
「謙也さんも、ぅ…答辞、読めや!」
「俺は光がちょーだいすきです!死ぬまで離しません!!」
「ははっ、えらい頭悪そうな卒業生代表やな」



胸にあるのは、限りない愛しさと一握りの不安。俺はこの手を離さない。傷つけるかもしれない。切ない思いをさせるかもしれない。せやけど、力の限り大事にするよ。ずっとずっと、傍におるよ。


中学校は無事卒業出来たけど、光からは一生卒業出来そうにないなぁ。光もそうでありますように。


ほっぺをむにっとつまんでやったら、光は涙で濡れた頬を上げ、世界一可愛い笑顔を見せてくれた。これからもふたりで何回も、何十回も一緒に春を迎えような。





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