後悔と甘さと熱情(拍)





くたくたの身体のまま家に着いて、今日はしっかり寝なあかんな〜なんて思っとったら病院から掛かってきた一本の電話。急患が入ってしもて、人足らへんから戻ってきてほしいっちゅーわけやった。しかたないなぁ、と疲れた身体に鞭打ってもう一度家を出ようとした。そしたら、光がぐずった。




「謙也さん、行ったら嫌です。寂しいです…」
「ごめんな光、すぐ帰るから」
「そう言ってすぐ帰ってきてくれたこと無いやないですか」
「や、そりゃしゃーないやんか仕事やねんから」
「うちのことはほかりっぱなしで仕事仕事って…」
「光、わかって、」
「わからへん!仕事とうちどっちが大切なんですか!?」
「…今は仕事や。患者さんおるんやから。ちょっと頭冷やし」



きついことを言ってしまった自覚はあった。寂しいまでは可愛いと思ったけど、俺やってくたくたやねん。その上「仕事と私どっちが大事」だなんてドラマの台詞みたいなことまで言われたら俺やって参ってしまう。


せやけど数時間後、この言葉を死ぬほど後悔することになる。















結局もう一度家についたのは明け方やった。めっっっっちゃ眠い。死にそう。


……光、あれから泣いてしもたかな。ホンマに可哀相なことしてしもた。あんなふうに光が独占欲を剥き出しにすることなんて滅多に無い。いつも不規則な生活を送る俺のためにいろいろ尽くしてくれとる光。せやのに酷いこと言うてしもた。ごめんな光。まだ寝とるかな。



「ただい……ひかる…!?」




光はリビングのところで倒れとって。呼吸は浅く早く、頬を触るとものすごく熱かった。



「光!!大丈夫か?!光…!!」



とりあえず抱っこしてベッドに連れてって頭とか冷やした。すぐにでも病院連れていきたいくらいやったけどもう動かすのも可哀相で、俺はもう一回病院戻って栄養剤やらなんやらいろいろ取りに行った。





汗で少ししっとりした光の頭を撫でる。なんで気づいてあげれんかったんやろ。光はいつも俺の仕事優先してくれたやないか。めちゃくちゃ朝早く家出なあかんときも弁当作ってくれたやないか。そんな光が言った俺へのワガママ。きっと身体しんどかったんや。熱っぽかったやろし、きっと何より心細かったんや。光、ホンマごめん。お前より仕事のが大切なんて、あるわけない。一社会人としても医者としてもアカン発言やってわかっとるけど、100人の患者さんよりもお前を治してやりたい。俺には、お前より大切なモンなんてない。


俺はあんなにも疲れていたはずやのに、結局一睡も出来なかった。光の手を握って、治れ治れってひたすら思った。















「ん…」
「光!目覚めたか?」
「け、やさ…」
「まだ身体起こしたらあかんよ。まだまだ熱ひいとらんし。今日は俺休みやから大丈夫やで」
「けんや、さ、」
「なんか食べんとアカンな。薬飲めへんし」
「………ふぇ、」


光はぽろぽろ泣き出した。腕を布団から出すのもおっくうなのか涙は拭われることなくどんどん光の頬を濡らしていく。



「光?どうした?身体しんどいか?」
「ごめ、なさい…」
「え?なに?」



「さっき…けんやさんも疲れとるんに、わがまま言うて、ごめんなさい…。ふぇ、がんばってね、て…いってらっしゃいって言えへんくて、ごめんね……」




俺の馬鹿野郎。最低や。光はこんなになっても俺のこと考えてくれとったんに。ごめんな光。ホンマごめん。



「光、ごめん。ホンマにごめんなさい。泣かせてごめん。辛い思いさせてごめん。」
「けんや、さん」
「ホンマ俺最低や。ごめんな、すぐ治したるからな」
「ひっく、」
「ひかる、泣かないで」
「…けんやさんこそ」



当たり前やないねんな、光がいつも元気で笑っていてくれるのは。俺は幸せすぎるこの日常に甘えすぎとったんや。ありがとう光。いつもホンマにありがとう。



「…けんやさん、クマすごい。寝てください」
「おん…光、ベッド入っていい?」
「かぜ、うつりますよ」
「かまへん。ぎゅーってさせて」
「…けんやさん」
「ん?」
「いつも、ありがとう」



いつもより赤いほっぺの光にかわいい笑顔でそう言われて、また涙腺が緩みかけた。ごまかすように顔を埋めた光の首はいつもより熱くて。



これからもずっとずっと大切に大切にしようと改めて思った。どうしようもない俺にこんなにもたくさんの愛をくれる君は、世界一かわいいお姫様。これからも一生涯かけて、お前にありがとうとごめんねと愛してるを伝えつづけるからな。





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