HOME(千歳誕/千光)





「ちぃと留守番しとってくれんね?」


千歳先輩がそう言って俺の前から姿を消してからもうかれこれ2週間は経っていた。千歳先輩は本当に良く言うと自由な人で、まぁ悪く言うと自分勝手な人だった。そんな彼の性格を分かっているはずなのに、俺は律儀にも彼の帰りを待っていた。


大学は冬休み。生憎合い鍵は渡されているから(こんなんでも一応俺達は恋人同士だから)バイトが終わると千歳先輩のうちに帰る生活を続けていた。千歳先輩の家には誰かが入った形跡すらなくて、それは相変わらず彼が放浪を続けていることを意味していた。



中学時代にオツキアイを始めてから。周りはすぐに別れるだろうと思ってただろうし、自分もそんなには続かないのかもしれないという拭いきれない不安を抱えてきた。でも今も俺は彼が好きだ。彼も俺を好きだと思いたい。



本当に俺達は相変わらずだった。千歳先輩のボロアパートも、放浪癖も、優しいところも、何考えとるかわからんところも、俺の素直やないところも、口悪いところも、泣き虫も。俺は今でも、千歳先輩を待ち続けている。だって千歳先輩は、帰ってきてくれたから。優しい笑顔で「ただいま」と言ってくれたから。素直やない俺がそれに「おかえりなさい」と言えたことなんてないけど、それでも帰ってきてくれたから。



今も昔もずっと不安なんや。次は帰って来ないかもしれない、とか。こんだけ長期的に姿を消すってことは他に女がいてもおかしくない。それでもやっぱり、好きなんだ。



「…千歳先輩の、あほ……」


今日は彼の誕生日。もう腹が立って何も用意なんてしてない。帰ってくる保障もないんだから。…って言うなら自分の家に帰ればいいのに、ホンマ俺って都合ええ奴やわ。



千歳先輩の家のこたつに潜り込んで目を閉じた。眠くなるどころか目の奥が熱くなってしまって。もー、なんやねん。俺ホンマ女々しい。むかつく。








−ガチャガチャッ



ドアを開ける音がした。思わず飛び起きる。…千歳先輩。俺の大好き、な。



「ひかるくん、ただいま」




いつもそうだ。この人はいつもそう。俺も俺で「おかえり」も憎まれ口も叩けずに涙を流すしかなくて。そのまま抱きしめられるとすべてを許してしまいたくなる。大きな背中に縋りたくなる。



「光、寒いとこは苦手っちゃろ?」
「……ひっく、」
「九州はあったかかったとよ」
「へ、」



よく見るといつもは手ぶらでどこか行ってしまうくせに、今回は大きな荷物を持っている。…里帰り?それなら先に言えや。




「光くん、大学卒業したら俺んとこ来んね?」











「…………………は?」
「父さんと母さんに、ちゃんと話したけん。光くんのこと」
「そんなん…っ」
「最初は反対されたけど、分かってくれたよ。今度連れておいでって。」
「う、そ…」
「ふふ、ほんと」



もう無理やん。こんなん、もう絶対泣き止めへん。千歳先輩は俺と過ごす未来を、こんなにも一生懸命考えてくれとったんや。





「ひかる。大学卒業したら九州、連れてくから。」













「………先輩って時々ホンマ強引っすよね。そこは『一緒に九州に帰ってくれませんか?』やろ」
「そんなん聞かん。絶対連れてくもん」
「なんやねんそれ…」
「光」
「はぁ」
「今までいっぱい待っててくれてありがとう」
「………」
「これからも、俺と一緒に生きていきましょう。」
「…………千歳先輩」
「ん?」
「おかえり、なさい」
「ふふ、ただいま。お待たせしました」





千歳先輩の誕生日のはずやのに、俺の方が幸せになってしもたなぁ。やば、誕生日プレゼントないや。まぁここは俺の一生をあげるっちゅーことで許してもらおうかな。


先輩、生まれてきてくれて本当にありがとう。世界一暖かい胸に顔を埋めて、これからもふたりが離れないようにと祈った。





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