僕の心臓は今日から右に。






パラレルですのでご注意!








2年の財前とは、白石を通して知り合った。白石と財前は昔からの知り合いらしい。財前は軽音部に所属しとって、歌がめっちゃ上手い。そんで耳にはピアスがギラギラしとって、顔も良くて、そんで表情はあんま無くて。天才なんて呼ぶ奴もいるとか。顔見知りになってからは会うと会釈してくるようになって。生意気や言うて財前のこと気に食わん上級生もおった。せやけど実際悪い奴や無いし。口と態度は悪いけど。俺からしたらなんとなく可愛いやつやなーって感じやった。

でも俺は、結局財前のことなんも知らんかったんや。


「あ、謙也さん」
「おー財前!部活か?」
「いや、今日は休みやけど暇やから部室行こかなーって。謙也さんは?」
「俺も休み」

「…謙也さん、ドラムできるって本間ですか」
「あー白石から聞いた?出来る言うてもそんなうまないで」

ちいちゃい声で「…聞いてみたい」なんて言うもんやから俺も音楽室行くことにした。



「…すごい、」
久々やったしあんま調子出んかったけど、財前は褒めてくれて、きらきらした目向けて来て。うあ、なんやねん俺。なんで財前にどきどきしとんねん!俺ってホモやったんか。でも、前からかわええ思っとったけど、財前って近くで見ると本間にかわええ…

「謙也さん?どないしたんですか?」
「うあ、な、なんでもないで!!せや、財前もちょっとやってみぃや!」
「え、俺は、無理です…」
「大丈夫やって!簡単やから!」


動揺を隠すために若干しどろもどろしながら光にバチを渡す。そのときやった。
光の右手は、バチを握ることなくすり抜けた。


「ほら、せやから言うたでしょ。無理やって」



光は生まれつき右手の握力が極端に弱いらしい。物をしっかり持つことは出来ひんのやって。利き手は左らしいけど。財前は本間はギターもドラムもやれるもんならやりたいんや。なんだってやってみたかったんや。

「…そんな、泣きそうな顔せんでくださいよ」
「うん、すまん」
「俺は別にええんです。ちゃんと自分のこの状態を受け入れとる。そりゃ確かに辛いときもあるけど、辛いばっかりやないっすよ。歌やって歌えるし、利き手は使えるから大抵なんやって他の人と同じように出来る。…でも、本間は、」

−本間は、もし右手が自由に使えたら、テニスしたかったかも。

「…よし財前。俺とテニスするか!」
「何言うとんねん。そりゃ流石に無理やろ」
「いや、出来る!俺が言うんやから間違いない!」
「謙也さんが言うから不安なんですけど」

うぅ。今のぐさっときたで!でもなんや財前は笑い出して、「教えてください、テニス」なんて言うた。俺は財前を速攻テニスコートまで連れてった。



財前絶対テニスの才能ある。流石天才。右手は使われへんからサーブは打てんのやけど、ラリーはちょっとだけ出来た。楽しそうにプレーする姿はやっぱり可愛くて。ちくしょ、認めざるを得ん。


「はぁ、謙也さんおおきに。本間楽しかったすわ」
「おう!俺も楽しかったで!」
「……俺も、テニス部入りたかった。謙也さんとテニス、したかった、な。」
「財前…」
「片手使えへんのって、案外不便すね。スポーツも楽器も料理も全部全部、手は要りますもんね。」
「…。」
「…すみません。辛いときもあるって言うたでしょ?今丁度その時なんすわ。俺の独り言やと思って忘れてください」


俺がそんな寂しそうな顔させてもうたのかとか、やっぱりもしかしたら俺ホモなんかもしれんとか、そんなこと考える前に俺は財前の右手を握っとった。


「…財前。俺が、お前の右手になる」
「な…、あぁ、気ぃ遣わせてすみません」
「そんなんちゃうわボケ。俺、お前が好きやねん」
「何、言うてるんですか」


俺は男や。それに、あんたが握ってくれたその手を握り返すことすら出来ひんのですよ。
泣きそうな顔してそんなこと言うた財前の手を、更に強く握る。

「男でええねん。握り返してくれんでもええねん。俺がその分、ぎゅーって握ったる。財前、俺のこと嫌い?」
「…嫌いなわけ、ないです。謙也さんのこと、かっこよくて優しい人やと思います。でも、」
「でも、何?でも俺はこんなんやからー見たいなのは絶対聞かんで。なあ財前、お前俺の話ちゃんと聞いとった?」



俺、お前が好きやねんで?



財前は目に少しだけ涙を溜めながら、「今日から右手が出来た、」って笑ったもんだから、俺まで少しだけ泣いてしまった。今日から俺は、お前の右手。それを意味するのは、



(あー・・・われながらせこい、なぁ)



お前の右側は、これからずっと俺のもの。





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