REAL LOVE(謙にょた光)





「謙也さんのこと、好きです」

大事に大事にしてきた気持ちは、あっという間に漏れてどろどろになってしまった。それが良かったのか悪かったのかなんて、分からない。


テニス部の謙也先輩のことが好きやった。結構仲はええ方やったし、可愛がられとる自覚はあった。せやけどそれは、やっぱり妹みたいな扱いでしかないことにも、気づいていた。



「なぁ光ちゃん、光ちゃんって忍足先輩のこと好きなん?」
「…なんで?」
「いや、仲ええやん?実はうちの友達がな、忍足先輩のこと好きやねん。そんで光ちゃんに聞いといてーって言われてん。その子もし光ちゃんが相手やったら勝ち目ないで諦めるって言うとるんやけど、何て言うとけばええ?あ、他の誰にも言わへんから!!」

今まで謙也先輩のことずっと好きやったけど、うちはテニスやって好きや。せやから、男目当てで女テニに入ったなんて思われるのは絶対に嫌で、誰にも言わずにここまで来た。それと、もう謙也先輩は引退した。うちは彼のことを諦めるつもりでおる。言葉にしたら気持ちが強くなってしまいそうで、怖かった。


「うん、うち、謙也先輩のこと好きやで」


それでも謙也先輩を好きな気持ちに嘘はつけんくて。今思うと本間に愚かな行動やったと思う。




次の日から、うちが謙也さんを好きやっていう噂が出回った。女の言う誰にも言わないほど信用できないものはないなぁ。こんなにも大切にしてきた気持ちは簡単に他人の娯楽になってしまった。

「光、大丈夫?」

同じ女テニの親友にそう言われたらなんかもう、我慢してきたものが全部どばーって溢れてしまって。わんわん泣きながら、謙也先輩を呼び出した。こんな気持ちのままや終われないから。










「謙也さんのこと、好きです」
「おおきに。嬉しいで。…でもな、」



勢いで言ってしまった告白も、あっという間に粉々や。


「光ちゃんのこと、かわええと思うよ。でもな、それは妹みたいな感覚やねん。やから、」
「…絶対、受験の邪魔とかしません!好きになってもらえるように頑張りますから、」
「や、ごめん。多分俺が光ちゃんのこと女の子として好きになれる日は、一生来ん」
「…そ、ですか。」
「うん。本間は俺、なんとなくやけど、光ちゃんの気持ち気づいとってん。…ごめんな」



しっかり断ってくれるところも謙也先輩の優しさで、そんな風に真っ直ぐなところが好きやった。でも、今は痛い。痛いっすわ。こんな風にご飯食べれんくなったり眠れんくなったり、そんな恋は初めてやった。














あれからうちは謙也さんを無意識に避けてしまって。挨拶程度はするんやけど、顔は見れへん。そんな日々が続いたある日、部活を引退したはずの謙也先輩はテニス部の様子見とか言うて他の先輩と部活に来た。もちろんそんなの緊張してそっちの方なんか見られへん。…なんて思うとったけど、そんなん見る余裕すらなかった。



「光ちゃんきついし、うち言い返せぇへんからいつもびくびくしとってん。光ちゃんおるといろいろやり辛いしな…」
「うちも前からそう思っとった、」

あぁ、この子や。謙也さんのこと好きな子。うちのこと裏で嗅ぎまわっとった子。本間よぉやるわ。きついも言い返すも何も、あんたとうち普段話なんかよぉせぇへんやんか。

「あんた何言うねん!光はそんな子やない!!」
「もうええよ、ありがと。うちが部活辞めればあんたら気済むんやろ」
「ちょっと光!!」


庇ってくれた親友には悪いけど、もうこんなのたくさんやねん。ちょこっとだけ謙也先輩の方見やると、心配そうな顔でこっち見とった。謙也先輩、うちはどぎつい部内の嫌われモンらしいですよ。これでもうあんたに顔向けすら出来へんくなりましたわ。本当にさよなら、謙也先輩。気がついたらぼたぼた目から涙が溢れて。


「光、あんたは辞める必要あらへんよ。あいつらが辞めればええんやから」
「え……ぶちょ、」


まぁいつのまにか現れた女テニの白石元部長の力のおかげでテニス部は辞めずにすんだんやけど。
その日の夜、謙也先輩からメールが来た。「光ちゃん、大丈夫か?」って。もう、同情なんかせんでくださいよ。うちはあんたの名前聞くだけで胸が潰れそうなんです。「大丈夫です、折角遊びに来てくれはったのにどうもすみませんでした」とだけ返事を返して携帯の電源をオフにした。







それからやった。謙也先輩からのメールが激増して、校舎で会うとあっちから駆け寄ってくれるようになったのは。最初は傷つくことを恐れて警戒態勢やったうちも、やっぱり謙也先輩が好きなもんやから嬉しくて仕方なくて。謙也先輩のことがますます好きになってまう。もう一度でええ、好きって言いたい。やけどもう、この関係が壊れるのが怖い。

(多分俺が光ちゃんのこと女の子として好きになれる日は、一生来ん)
頭の中を巡るのは、この台詞。うちはこの恋でいくつ涙を流したのだろうか。




もういややった。こんな風に振り回される日が続くのは。そんな時やった。謙也先輩から「今から会うてくれへん?」なんて連絡が来て。のこのこ待ち合わせの公園まで行ってしまううち。本間、なんなん謙也先輩。うちをどこまで振り回す気やねん…ってそんなん知ったこっちゃないよな。はぁ。


「光ちゃん!こっち!!」
「謙也先輩、どうも。遅くなってすみません」
「ええよええよ!きてくれてありがとうな!!」


爽やかな笑顔はやっぱりあの日のまま。もう、なんや泣けてきそうやから早く用件言うてください。

「どうしたんですか、いきなり」
「あ、あん、な…なんや今更やし、言いにくいんやけど、」


もう何言われても謙也先輩のこと諦めるなんて無理なんすわ。せやけど、今回はちゃんとこの気持ちに蓋しときますから。きっと忘れる日はいつか来ますから。


「もう、妹やない、ねんなぁ」
「は?」
「やから!もう光ちゃん…妹やないねん」
「…どういう意味ですか」

「本間今更やし、光ちゃんのことめちゃ傷つけたと思う。自分最低やなって思うし、光ちゃんがこれ聞いてどう思うか分からん。せやけど、光ちゃんが女テニの子と揉めて泣いとったの見たときな、光ちゃんの泣き顔は見たくないなって思った。俺が守ってやりたいって、思ったんや

つまりな、俺はな。俺は、光ちゃんが好き」



「…嘘や」
「嘘やない。これだけは本間やから信じてほしい」
「…っ、」
「なぁ光ちゃん。俺の彼女になってください」


あんた一生うちのこと好きにならんのちゃうんかとか、本間今更すぎやろとか思うても言葉になんかならんくて。わんわん泣きながら「うちを彼女にしてください」って言うた。


気持ちはどろどろになって溢れて、みんなに知れ渡ってしまったけど、これでよかったんや。諦めなくてよかった。気持ちを伝えてよかった。立ち向かってよかった。
謙也先輩を、好きになってよかった。


こっちは今まで散々泣かされたんですから、これからその分幸せにしてくださいよ?


うちを幸せまで導いたのはきっと。このリアルな、唯一誇れる、この気持ち。





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