「おーきたきた、…大丈夫かよい?」
「ブン太くん…」



休憩室の扉を開けると、そこには高級そうな救急箱を抱えたブン太くんがいた。グラスの割れた音を聞きつけて、用意してくれたのだろうか。相変らず面倒見が良いな、ブン太くんは。




「おー、結構血出てんねえ。少し染みるだろうけど我慢な。靴下下げるぜい?」
「うん……、っ…痛っ…」
「はーい、我慢我慢」




そう言いながら、傷口を消毒する。手当てするの手慣れてるなあ。あっという間に手当ては終わり、傷口には大きいけれど可愛らしい絆創膏が貼られていた。




「はい完了!」
「ありがとう…。お仕事中なのにごめんなさい」
「気にしなくていいって。デザートのオーダー入ってなかったし、もし入ってもケーキ類は昼に作ったやつあるから、菊丸や他のシェフが出してくれんだろい。だから気にすんな」
「うん…」
「そう落ち込むなって。失敗は誰でもする。今ホールにいるやつだって、今まで奈緒よりひどい失敗してきてんだぜい?」
「そうかな…、でもグラスたくさん割っちゃったし…」
「んなもん、跡部財閥のレストランじゃ小さなことだろい。跡部も怒んねーよ。お客様に怪我なかったんなら良いと思うぜ?」
「…うん」




わかってはいても、やはり落ち込んでしまうのだ。今だってきっと忙しいだろうに、休憩入らせてもらって、ブン太くんに相手してもらっちゃって。申し訳なさで胸がいっぱいである。グラス割ったところの近くにいたお客様も、お食事中にうるさい音がして、大変迷惑に思っただろう。




「んーと、教育係のジロくんは、寝ぼけながらオーダー取って、オーダーミスしてお客様に怒鳴られたことがある」
「え、」
「向日は、お冷や用の容器を持ちながら転んで、お客様が水びたしってこともあったなあ。お客様が優しかったから良かったけど」
「え、うそ」
「本当。陽花だって1番始めにレジでミスっちまって、長い時間待たせてたくさんのお客様に迷惑かけたことあったぜい?」
「陽花ちゃんが…」
「なにが言いたいかっつうと、みんな失敗してきてんだ。もちろん俺も菊丸も。でもみんなその失敗を乗り越えて今働いてる。奈緒だって乗り越えられるよい。だからそんな落ち込むな。元気出して次頑張ればいーの!」
「うん…」
「失敗して学ぶことだってたくさんある。奈緒のペースで頑張ればいいんだからな?」
「ありがとうブン太くん。ちょっと元気出てきた!次は同じ失敗しないように頑張る!」
「ほい、じゃあご褒美にこれやるわ」





スッとテーブルにおかれたのはいちごの使われた小さなケーキ。このデザート結構注文入っていたやつだ。跡部くんのイチオシメニューとか、前に陽花ちゃんから見せてもらった記事に書いてあった気がする。




「もらっていいの?」
「おう。そのケーキ実は飾り付けミスっちまったんだ。だからお客様には出せねえし、奈緒頑張ってくれてるからやるよ!」
「ありがとう!」




口に入れたケーキは落ち込んでいたことを忘れちゃうくらい、とても甘くて美味しいものだった。




◎はちみつマーチ07





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