今思えば私にとってあの部屋は母胎と同じだったのかもしれません。貴方に選ばれた瞬間、私という存在が覚醒致しました。ただの器に濁流のように温度と感情が溢れたのを今でも鮮明に覚えております。
貴方の元まで歩きたいと、足が生えました。触れたいと、手が伸びました。その名を呼びたいと、声帯が生まれ、声を聞きたいと耳が生え、その姿を映したいと瞳が光を灯しました。歩く速度の鼓動は時を刻む針の音に似ているように思います。
たった今生まれ落ちた私は、約束通りこの足で貴方を迎えに参りました。
焦がれるばかりは悔しいのです。今の私には腕が、心臓があります。貴方の手を掴む事が出来ます。
「さあ、そろそろ起きる時間ですよ」