大体あやかしごはんの妄想
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0603 はるのつまべに

(憂鬱な詠くん)



部屋の窓から見える白木蓮が燃えるように朽ちていくのを見て、間もなく春が訪れることを知った。陽射しは心なしか暖かく、白く明るんで見えた。だからと云って何処かの誰かのように外に飛び出すわけもなく、読みかけだった本の頁を捲る。

春の温度もそこに生きる物の温度にもさして興味はない。雪が溶けるように出会う者ともいずれ別れるならば、こうしてただ知識を溜め込むことの方が余程利口に思えた。本は、物語は裏切らない。凝縮された時間と人生と言葉が寄り添い、自分の中にしんしんと積もっていくのがわかる。この中に何もかもがあった。あらゆる幸福と不幸、悲しみと喜び、怒りと感動、そしてそれらを受け入れ乗り越える方法さえも。ただ同じ場所に留まり、変わり映えのしない面々と過ごすよりも余程有意義だと思えた。

くだらないことで一々笑って、喚いて、腹を立てる兄よりも自分の方が賢いのだ。いや、賢くなくてはならないのだ。そうでなければ、いや、これ以上を言うのは止めておこう。これを口にするのは愚かなことだ。春の気に当てられて少しばかり心がざわついているに違いない。

これだから、春は嫌いなんだ。

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