教団で毎年密かに開催されている健康診断。

担当医は見た目は美人女医。しかし








とても無気力で面倒臭がりだと専らの噂だった。















「おはよう皆の衆」




ダルそうな眼で彼女は言った。


部屋には約100人のエクソシストや科学班、ファインダーの人々。今回の健康診断は彼らの為の物だった。
しかしそんな100人もいる部屋にも関わらず、今は喋り声1つしない程に静まり返っている。皆彼女の気まぐれぶりを知っているから態々事を荒立てないようにしているのだ。





そんな妙な雰囲気もお構い無しに部屋に入ってきた美人医師は淡々と自分のことだけを推し進めていく。




「私、今日二日酔いなんです。それで何だか診断書書くの面倒臭かったから順位をつけてみました。その順位で自分の健康具合を把握してください」




え、なんで?どうしてそうなるの?お前本当に医師免許持ってるの?つーか順位って何?
そんなみんなの声は彼女には届かない。




「はい、1位ラビ」


「うお、やったさ」




取り敢えず1位という言葉に素直に喜ぶラビを部屋にいる全員が称賛の眼で見た。




「何だか名前の画数少ないから書きやすくてさ。最初に浮かんだのが君だったの。良かったね、1位だよ」


「え?それ健康関係なくね?」


「あ、それと無駄にテンション高かったから元気なのかなって思って」


「え?だから健康関係なくね?それまんま見た目の話じゃん」




彼女は笑顔で"1位"と書かれた紙をラビのオデコに張り付け終了の合図を告げた。


1位がこれなのだからその先がまともな結果であるはずがない。



順に呼ばれていくエクソシストや科学班、ファインダーの面々。
そしてその中の誰一人として健康と関係のあるコメントを言われたものはいない。
どの人も兎に角早く終わらせようと必死だった。





「はい、58位、神田」


「……」


「……」


「んだよ」


「先生実は神田のそのヒネクレ的発言ツボなんです。50位にしてあげる」


「は?お前マジで医師免許持ってんのか?」


「失礼な。持ってるわよ」




そういって医師免許を片手でヒラヒラさせたその女に神田だけでなく部屋中の人間が心底安心したように溜め息をついた。

良かった……
あの健康診断絶対に変な実験に使われてると思ってた。




「ただね、神田、君蕎麦ばっか食べ過ぎだから」


「何だよ、悪りーかよ」


「日本人キャラとしてキャラ立てようと必死なのは分かるけどたまには寿司とかも食べようね。蕎麦しか食べないのってビジュアル的にどうなのって思うからさ」


「ぷ、」


「……おいコムイ、てめぇ何笑ってんだよ」



ひくつくこめかみから怒りのオーラを際立たせた神田に、コムイはニヤリと笑いながら言った。



「嫌だなぁ、冗談だよ」


「あれはどう見ても思いっきり馬鹿にした笑いだったろ」


「そんなことないってぇ」



手を振りながら笑い飛ばすコムイ。神田は既に抜刀寸前だ。


しかしそんな空気も彼女の一言でガラリと変わる。




「コムイ、59位」


「え?僕59位?」


「うん。それとなんだかやる気なくなるから喧嘩は止めてね」


「はーい」



ところでさ、


笑顔で訪ねてくるコムイに彼女は面倒くさそうな顔をした。
今まで彼女の機嫌を損ねないように最小限の会話しかしなかった面々は息を飲んだ。




「僕の順位はどうやって決まったの?」


「えー……そんなのいちいち覚えてない。…………寿命そのくらいかなって思ったからじゃん?」


「え?59歳?」


「あと30年だね。まぁ頑張れや。はい、次」




さっきの元気はどこへ行ったのか、残り30年と呟きながら部屋の角に移動するコムイをリナリーが必死に慰めていた。






そして順位は次々に発表され、



ついに最後の一人













「100位、アレン」



「あ、はい」


「主人公なのに最下位とはね。何て言うか、個性に欠ける?凡人?」


「ははは、あんたがつけたんでしょ」



独裁者に笑顔で立ち向かうアレンの黒さに場に居合わせた人々全員がその勇気に心の中で拍手を送った。


そうだ、俺達は健康診断を受けに来たのであってこんな変な順位を聞きに来たわけじゃないんだ。



そんな声が今にも聞こえてきそうだ。



「はい、終了ー。では皆さん健康にお気をつけて」


「ちょっと待ってください」


「何かな?白髪ボーイ」


「黙れ」



二人の後ろには雷が見えた。



「僕の順位の理由を聞いてません」


「あー、存在忘れてたんだよ。ドンマイ」


「ふざけんな!納得できるか!」



「じゃあどんな理由が欲しいのさ」



面倒臭そうに訪ねる彼女にアレンは一瞬怯んだ。それを見た彼女はニヤリと笑って……




「実はね、この順位、私が彼氏にしたいランキングなの」


「え……」


「残念、アレン最下位ね」



クスクス笑いながら帰る支度を始める彼女の言葉に静まり返っていた室内が一気に騒がしくなった。




「ヨッシャー!俺1位さ!先生結婚して」


「うん。人間になれたらね」


「え……俺人間……」


「人間になれたらね」




そんなこんなで騒がしく自分の順位を確かめる面々の中でフリーズしてる者が一人だけ。







アレンだ






「そんなにショックだった?」


「……そん、なわけないじゃないですか。呆れてるんですよ、やっぱり健康順位なんかじゃなかったのかって」


「ふーん?」




興味がなさそうな顔で帰り支度を続ける女医。
そんな彼女の態度が何故だかアレンには面白くなかった。




「君の男の趣味は最悪ですね」


「何で?ラビ良いじゃん」


「はぁ?まじで言ってるんですか?それ本当に男見る目ないですよ」


「男見る目なんて要らないよ。男の体を見る目は必要だけど」


「……驚いた。堂々と体目当て宣言ですか」


「見てるだけで涎垂れそう」


「やめてくださいこの痴女が」


「痴女じゃねーよ、医者視点だよ」


「はい?」


「私に必要なのは実験に良さそうな健康体を見極めること」



たぶらかして彼氏にでもしとけば実験体ぐらいには役立ちそうじゃない?





その時の彼女の瞳の黒い光を見たのはアレン一人だったという。

















ゆけゆけ僕らの保健医さん!


(最下位残念だったなーアレン)

(僕にはラビの方が残念でなりませんよ)

(なんだー?逆恨みかー?)

(馬鹿って幸せ……)

(ちょ、おい!)



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