あいうえお | ナノ




3歩進んで2歩下がる







「絶対バレンタインチョコなんて作らない」

「家康って馬鹿っスね」

「何でよ」


諦めが入った目で私を見下ろす彼は、黄瀬涼太。最近巷をにぎわすモデル、そして、私の高校最初の友達である。

高校生になって初めて声をかけてきたのは、黄色の髪がトレードマークの男の子。この通りキツイ顔とキツイ性格のせいで周りから遠巻きにされていた私に、救いの手を差し伸べてくれた男の子。それがきっかけで何かと話すようになった私たちは、友達、とまでは言わないが知り合いくらいにはなれたと思う。
あれから9ヶ月経った2月。同級生の女子達は、バレンタインという名の製菓会社の策略にまんまとはまり、浮き足立つ時期に差し掛かっていた。
別にバレンタイン自体を悪いとは思わない。そういう風習があるのは奥ゆかしい日本人にとって格好の行事であるし、そのおかげで年に何組かカップルができ、その結果日本の少子化問題が少しでも解決に向かうというのなら、大変喜ばしいことである。国を挙げた街コンならぬ、バレンタインコンを催したっていいんじゃないかと思うくらいだ。


「じゃあ何でスか」

「不純だからよ」


クエスチョンマークを頭に掲げた彼に向って、私は大きく息を吸ってからその勢いのまままくしたてた。


「日本でのバレンタインは本来、チョコを贈れば"好き"って意味になるはずでしょ?告白と同等のはずでしょ?それなのに最近のチョコと言ったらやれ"友チョコ"だの"義理チョコ"だの。挙句の果てには多く貰ったやつがなんかモテてるとかいう風潮になってるじゃない!可笑しいのよ!渡す方も渡す方で、格好いい人にはとりあえず渡しておく的な…なんなのアレ?某SNSサイトの"イイね"並の手軽さになってるじゃない。そもそも告白なんて行事に乗じてやること自体がおかしいのよ!そんなんじゃ伝わるもんも伝わらない!」


一気にまくしたててから、手元にあったパックのココアを一気飲みした。甘くてとろけるようなその味を堪能していると、黄瀬は私の机に頬杖をついて困った顔をする。


「言葉じゃうまく伝えられないから、チョコが必要なんスよ」

「伝えなさいよ、人間でしょ。動物と人間の違いは言語能力よ」

「もー、そうじゃないんだってば」


家康は強いから、必要ないかもだけど
そう言って彼は苦笑いした。


「黄瀬はどう思うの」

「何が?」

「バレンタイン」


唐突に気になって質問してみた。モテ男にとってのバレンタインなんて、きっと女子が地盤沈下を起こすチンパンジーのように騒がしく、チョコがゴミのようにたまっていく迷惑なお祭りに違いないと思っていたからだ。
しかし、なんだか先ほどからの応答を聞いている限り、まんざらでもない様子。


「どうって言われても…」

「今年はきっと4トントラック1台分くらいのチョコがもらえるわよ」

「それはないっス」


妙にはっきり断る彼は、それ相応の根拠があるような顔をして笑った。


「俺、本命以外から貰うつもりないから」

「…あんた世の中の男を敵に回したわよ」

「なんでっスか。義理でも何でも、本命以外のチョコ受け取るなんて失礼じゃないスか」


本命が誰なのか、この学校にいるのかを問うと、彼は言葉を濁してまた笑う。先を促すと、気乗りしないとでも言うように、少し肩をすぼめて首をかしげた。


「何よ、気になるじゃない。その本命がチョコくれる可能性だってあるでしょ」

「それはないっス」

「どうして?」

「その子、バレンタイン嫌いみたいだから」


まっすぐと目を見つめて黄瀬は言った。何かを含んだような彼の瞳の奥には、ポカンとした私の顔しか映っていない。なんて答えればいいのか分からず、とりあえず思ったことを素直に伝えた。


「奇妙な女もいたもんね」

「ぷ、そっスね」

「…何笑ってんのよ」

「いやいや、こっちの話」


本当ずるいっスよね、バレンタイン前に望みもないこと言うんスよ?
遠い目をして、寂しそうに言う彼に、いつもみたいな憎まれ口を叩く気は不思議と起こらなかった。同情、と言ったら簡単なのかもしれないけれど、もう少し複雑な感情が渦巻いて、思考を鈍らせる。柄にもなく落ち込んだ友達を慰める方法を考えていたら、ふと口から言葉が出ていた。


「チョコ、いる?」

「、え?!」

「あ、ごめん、本命以外からは義理も受け取らないんだっけ?」

「いや、あの、違くって」

「あー…気を使わせたいわけじゃないから」


変なことを口走ってしまった、とパックのストローに口をつけて誤魔化した。目に見えて挙動不審な黄瀬は、きっと私の柄にもない慰めをのっけから断ったことを気にしているのだろう。そんな顔をさせたかったわけではないのに。


「家康、あの、」

「本当に気にしないで。気まぐれで言っただけだから」

「俺、あんたからのチョコ欲しいっス」


瞬きを忘れて彼を見つめる。本命意外からのチョコは受け取らないけど、チョコが欲しいなんて、矛盾してない?と言いかけた口が開いて閉じた。
…矛盾しない答えが、一つだけある。
心なしかほんのり赤くなってる彼の耳が視界に入った瞬間、何かぐわっとくるものを感じて頬が熱くなった。そんなこと、考えもしなかったのに…もしかして。


「俺、家康からなら、その飲みかけのココアだって嬉しいっス!」


キラキラした笑顔でそう語った彼に、告げる言葉はただ1つ。最上級の笑顔で口を開いた。


「きもい!」

「なんで!?」






歩進んで歩下がる








20140222





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