あいうえお | ナノ




デストロイヤー







バレンタインのチョコはもう買ったんスか?
お決まりのように聞いてくる同級生に、私は満面の笑みで答えた。


「今年は手作りをあげるの」

「恐ろしいことを考えますね」


真後ろで話を聞いていた彼氏様は、苦虫をかみ砕くような顔で吐き捨てた。

寒い寒い帰り道、楽しいこともなく毎日狂ったようにバスケをしている中学2年生にとって、この時期の行事というのはなかなかに鬱憤晴らしにいいらしい。やれ節分だ、豆撒きだと大騒ぎしていたのはついこの間のことなのに、あっという間に真ピンクな桜が咲く話題となっていた。いつも遅いバスケ部の練習を終えた黒子くんの帰りを待っていた私が、他のキセキの面々とも一緒に帰ることになったことがちょうどいい起爆剤にでもなったのだろうか。それともこの黄色い頭の中身がショッキングピンクだからか。とにもかくにも話は恋人たちの記念日、バレンタインにシフトした。

というのに何故。


「大丈夫だよ、私変なもの入れたりしないよ?」

「変なもの入れないから大丈夫っていう問題じゃないんですよ」


NOをつきつけたまま、意地でも首を縦に振ろうとしない彼氏様に、むっくんが首をかしげた。


「黒ちんはなんでそんなに嫌がんのー?変なもの入れないって言ってんじゃん」

「それは最低ラインですよ。合格ラインじゃないんですよ」

「そうなのー?でも峰ちんは毎年変なもののオンパレードチョコの練習台になって腹下すんだよー?」

「彼はみんなのために生贄になったんです」

「おいテツ、いい加減にしないとフォームレスシュートぶち込むぞ」

「ああ、青峰君。生きてたんですか」


取っ組み合いを始めた黒と青を余所に、涼ちゃんも首をかしげる。


「でも徳川っちってお菓子作りうまいっすよ?」


ピタリ、と時が止まったかのようにあたりが静まる。一心に集まる視線の意味に気づかない涼ちゃんは、首をかしげたままの姿勢で目を丸くして、どうしたんすか?なんて言う。


「なんで黄瀬君がこの子のお菓子作りの味を知ってんですか」

「だって食べたもん。この前仕事で一緒になった時に、手作りのマフィンを差し入れてくれたんす。ね、徳川っち」

「うん。作って来いって脅されたからね。仕事場の先輩には逆らえないからね」

「何勝手に人の彼女の手作りを彼氏より先に食べてるんですか。イグナイト打ちますよ」

「黒子くんから彼女って言葉がでた!!」

「黙りなさい」

「私!彼女!」

「黙れって言ってんでしょうが」


言うが早いか、黒子くんの右手に両頬を圧迫され、話すことさえ許可されなくなった。彼女というワードはNGだったらしい。おかしい、私彼女なのに、本当のことなのにと圧迫されたままの口で言うと、失笑された。心外である。
その様子を見て、次に首を傾げたのは、緑の変人だった。


「もう1年付き合ってるというのに、お前たちはまるで進歩が見えないのだよ」

「彼氏がツンデレだと大変なんだよ」

「彼女が変人だと大変なんですよ」

「へー、もう1年すか。記念日はいつなんすか?」

「2月14日、バレンタインデーだ」


思わぬ方向から飛んできた回答に、その場にいる全員が同じ方向を振り返る。一番後方を闊歩なさっていた赤の王様が、何食わぬ顔でもう1度答えた。


「2月14日だ」

「何でこの魔王はしれっとした顔で他人の記念日を知ってるんだろうね」

「僕誰にも言ってませんよ」

「私も言ってないよ」

「何それお前ら付き合って1年経つのかよ。きめぇ」

「黙れガングロ。輪廻転生させてやろうか」

「1年とかよくもったね黒ちん」

「忍耐力には自信があります」

「むっくんもお願いだから黙って」

「人事を尽くしている結果なのだよ」

「人事尽くすほど大変なこと?ねぇそんなに大変?」

「そろそろ別れないんすか?」

「なにそれみんなそんな反応なの?」

「さっさと別れたらいい」

「おのれ魔王!」


イジメ?イジメなの?と独り言のようにつぶやいたら、魔王がこんな生ぬるいのイジメじゃないと断言した。


「そんなこと言うならバレンタインにチョコあげないよ?お母さんからしかもらえない寂しいバレンタインになるよ!?」

「いらねぇよ」

「いらないー」

「いらないす」

「要らないのだよ」

「遠慮する」

「なんで!?」

「君はキセキを甘く見てませんか?この人達去年は軽く2ケタ以上のチョコもらってますよ」

「ただバスケできる馬鹿と愉快な仲間の集まりなのに!?」

「馬鹿と愉快な仲間なのにバスケできるからじゃないですか」

「なんで黒子っちまで攻撃的なんすか」


驚いた。この強豪帝光バスケ部では1軍にいるだけで、女子の羨望の的になるらしい。ダメ人間の集まりでもバスケが出来ればモテるらしい。世の中は案外簡単にできている。


「そんなに嫌なら私は作らないよ」

「そうしてください」

「一緒に作るって約束したのに断らなきゃ」


携帯を開いてメールを打ち始めた私に、少し驚いたような顔で黒子くんは尋ねた。


「誰かと作る予定だったんですか?」

「うん、さっちゃんと」

「「「「「「……」」」」」」

「あ、さっちゃんから返信来た。1人で作るから大丈夫だって」


良かったね、さっちゃんからはもらえるよ、と笑顔で彼らに朗報を告げたら、今までの非礼を全力で詫びられた。









デストロイヤー








20140214

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