コンビニには色々な人が訪れる。可愛らしいガキンチョから愉快なババアまで、その需要は千差満別。そんな老若男女入れ交じる人々と、あなたとコンビになりたいなんていう腐れドビッチなキャッチフレーズを掲げるコンビニが、私の職場。そして今私に、この店で一番良いチョコレートを頼むとのたまった190センチ超の緑の巨人は私のコンビにあたることになる。 「緑間さんおはようございます。今日の占いカウントダウンのアイテムはチョコレートじゃありませんよ」 「アイテム以外でチョコを買うことも許されないのか俺は。それから占いカウントダウンではなく、おは朝なのだよ」 「そうでした。おは朝(笑)」 「馬鹿にしているだろ」 「いえいえ、そんなことないですよ。おは朝信者?とかいうの最近巷で流行っているそうじゃありませんか。なんですか、宗教でも始めるんですかあの番組は」 「ふん、世間がようやく認め始めただけで、おは朝の効力は昔から変わらないのだよ」 「お陰でうちの店もおは朝信者用の商品を取り扱ってるんですよ。ちなみに私の今日のアイテムはチョコレートなんですけどね」 「それがどうした。俺には関係ないのだよ」 「メガネを直す手が震えてますよ、緑間さん」 「お、お前のために買うのではにゃいのだよ」 「噛んでますよ、緑間さん」 かわいい。190センチの大男に言うべきセリフではないと思う。しかしついうっかり口をついて出た言葉に緑間さんの顔は赤面、いや爆発した。 「今日の蟹座は1位でしたね。恋愛運が最高なんですよね」 「だからどうした」 「想いを寄せる子にチョコを渡すと想いが届くんでしたっけ?」 「……」 黙りこくった緑間さんに満面の笑みを送った。するとくるりと方向を変えてお菓子売り場に直行した彼は、ほんの10秒でレジ前に戻ったかと思うと、店にあるありったけの種類のチョコレートを並べてみせた。尚も赤面した顔のまま、彼は言う。 「俺はチョコレートを食べないのだよ」 「……」 「でも、今は何故か物凄くチョコレートを買いたい衝動に駆られている」 若干震えている声を押さえつけるように、緑間さんは大きく息を吸った。 「俺は食べないから、お前が食べろ!」 「ぶはっ」 「……」 もはや彼の顔は赤面どころではない。青くなったり白くなったり、赤くなったりを繰り返してテンヤワンヤだ。涙目に近い目つきで、腹を抱えてレジに縋りつく私をにらむ彼は、190センチのその身体に似合わず、本当に可愛らしくて愛らしい。 緑間さんが持ってきた山盛りのチョコレートの中からお気にいりのチョコを選んでバーコードリーダーに通すと、ピッという音に緑間さんがビクリと反応したのが分かって、またもや腹を抱えた。規格外の大男がびくびくしながらレジスターを不安そうにチラチラ見るなんて。しかもそれがいつもツンツンした態度しか見せてくれなかった緑間さんだなんて。 自然とにやける顔をおさえて、自分の手の中にあるそれを差し出した。 「はい」 「…え」 「私が好きなチョコレート」 「は、あの……え?」 「あなたとコンビ以上になりたいです」 耳までどピンクに染まった緑間さんは、それでもいつもの無愛想な表情を崩さずに、告白のセンスがないなんて難癖をつけたけれど、手に握ったチョコレートだけは離さずに握りしめていた。 あなたとコンビに 20140309 [*prev] [next#] |