男と女の関係と言うものは、実に理解し難く面倒だと思う。
自分の欲を満たせられるのであれば相手は誰でも良いのに、それなのに女はオンリーワンでありたいのだと男に願うんだ。
それが、理解し難く面倒なところ。
自分で言うのもアレだが、俺は世の人気を集めるアイドル。
そんな俺がひとりの人間に終着するだなんて、有り得ないに等しい。
それなのにそれを求めてくる女はバカなのか…いや、面倒なだけだ。
「…お前、荒れてんなぁ。」
「なんだよ。別に荒れてねぇし。」
ドゥジュンから、飯でも行こうぜ、と誘われて来た店。
そこで頼んだ食べ物をただ食べていたとき、酒を飲んでいたドゥジュンから唐突に言われた。
俺自身が荒れているつもりなんて、サラサラない。
何に対しての言葉かは解っているつもりだから、なおさら断言出来る。
俺が適当なところで見付けた女を抱くのなんてしょっちゅうだし、今に始まったことではない。
だけどドゥジュンはそんな俺に、荒れてんなぁ、とぽつりと呟いた。
「で、今度は何言われたんだよ。」
「…別に言われてねぇ。」
「はいはい…。この前はヒョンスニからの電話をヤってるときに出て揉めて、今回は何で揉めたんだよ?」
「…いや、まあ。」
ドゥジュンは俺が苛立ちを感じていたことに気付いていたらしい。
前回のことと同様に、今回も何か女と揉めたと思ったんだろう。
悔しいけれど、ドゥジュンのその予想は合っていた。
歯切れ悪く苛立ちの要因になった出来事を切り出す。
今回は、前に抱いた女から俺の浮気を疑うメッセージを俺に間違えて送られてきたことで腹を立てていた。
いつもなら気にせず、適当に言うか無視して連絡を途絶えさせるが…。
今回はそのメッセージに含まれていた、"私の男"という文字に対して苛立ちを感じていたんだ。
俺は誰のものでもないし、そいつの男になったつもりもない。
勘違いも甚だしい、と言わんばかりに苛立ちを感じ、こうしてドゥジュンに誘導尋問されている。
「別に、その子と付き合ってんなら言われたって良いだろ。むしろお前彼女居るのに、浮気してたわけ?」
「彼女じゃねぇよ。1回抱いたくらいで勘違いされても困る。」
「おま…。それ、最低じゃね?」
「みんなそんなもんだろ。お前だって適当に抱くくせに。」
「まあ、そりゃそうだけど…。」
1回抱いたくらいで彼女気取りだなんて、そいつも偉くなったもんだ。
俺にはそんな気なんてサラサラないのに、勝手に彼女面していたのは向こうのほうで。
だからこそ、"私の男"という言葉が気に入らなかった。
本当に、どうして男と女の関係はこうも面倒なんだろうか。
まあ、いつもなら後に引きずりそうにない女を選ぶのに、上手く選べなかった俺も悪い。
それから、お前らどんな関係だったんだよ、と呆れたように問われる。
あの女を友だちみたいなものだと言えばドゥジュンは、お前は友だちとヤるのか、と言ってきたが、それは異性に限る話しであって同性にはないから安心してほしい。
…まあ、ひとりだけなら…居るが、ドゥジュンに言ったら即行で倒れてしまうだろう。
メンバーであり仲間であり、そして友人でもあるヒョンスンと俺は慰め合う関係。
もちろんヒョンスンとは最後までしたことがあるし、正直、ヒョンスンとのその行為は嫌いじゃなかった。
「でも、"私の男"ってかわいいんじゃねぇの?」
「は?」
「かわいい独占欲だろ。もやもやとしてる姿とか、想像だけでもかわいいと思うけどな。」
「…お前、変態くせぇよ。」
悪態をつくと、うるせぇよ、と言われてそこで会話は終了した。
俺にはドゥジュンの気持ちなんてもの、理解出来そうにない。
女の独占欲ほど面倒なものは、この世には存在しないと思う。
そう思えるくらいには面倒なはずなのに、ドゥジュンは何故ああ言ってしまったのか。
かわいいなんてものじゃ、済ませられるレベルではない。
*
「あれ?今日は甘える日?」
「…んだよそれ。黙ってろ。」
「はいはい。」
ドゥジュンと話してからヒョンスンに連絡をもらい、その足でヒョンスンの家に行った。
風呂上がりなのか知らないが、ヒョンスンから香るフローラルな匂いが鼻腔を擽って自然と身体が動く。
甘えるようにヒョンスンの身体に擦り寄り、首元に鼻を埋めてその匂いを直接嗅いだ。
こんなことをしていると俺もドゥジュンに言えないくらい変態くさい気はするが、気にしないでおこう。
「ねぇジュニョア、しよっか。」
「加減、ちゃんとしろよ。」
「そっかー明日も練習あるしね。うん、ほどほどにしておく。」
呼ばれたら抱かれることも。
お互いの欲を満たすことを目的としていることも。
全部解っているはずなのに…俺は、無意識のうちにそれを望んでヒョンスンに抱かれているんだ。
俺は、ヒョンスンと快楽に弱い。
ヒョンスンにまで弱いことを悟られないよう、あくまでも流されたであろう雰囲気は出すが…多分、ヒョンスンにはバレている。
気に入らない。
けど、嫌じゃないとも思う。
「ジュニョア、きもちい?」
「っは、あ…!き、くな…っよ!」
さっきから良いところばかり擦るくせに、気持ち良いかとこと細やかに訊いてくるヒョンスン。
解っているくせに、ヒョンスンは俺からの言葉を求めるんだ。
だけど、そのわりにはヒョンスンの瞳にはいろんな人が映っている。
俺だけじゃなくて、メンバーやスタッフや、いろんな人間が。
それが気に入らないことは、否定することが出来なかった。
身体だけ、のつもりだったのに。
快楽を得るためだけの関係だったつもりなのに、ヒョンスンにハマってしまったのは俺。
引き返せないところまで、多分来てしまっている。
だけどそのとき、ふと女が言った気持ちが解った気がした。
それはあまりにも滑稽で、思わず笑みが零れ落ちる。
なんだ、俺だって同じじゃないか。
1回抱かれただけで勘違いをし、そしてオンリーワンを願う。
俺も、そこらへんの女と同レベル。
ヒョンスン。
俺のものになれよ。