すん、と鼻を鳴らすと漂ってくるのは女物の香水。
なんてベタなものではないけど俺のじゃない、違う男用の香水の香り。
その匂いを嗅ぐたびに苦しくなる俺の胸は、思った以上に素直で。
口や行動では気にしていないつもりでいても、胸だけはじくじくと痛みを訴えかけてきた。
おいで、と大好きな声で誘われてしまったら断れない。
断ることなんて、俺には無理で。
誘われるがまま甘い誘惑に負けて、結局俺は許してしまう。
「テヒョナ、愛してるよ。」
ああ、名前なんて呼ばないで。
愛の言葉なんて、囁かないでよ…。
ギュッと締め付けられる心臓は、もう少しでパンクしそうなくらい。
痛いな、痛いな、と心と脳では理解しているのに離れられないのは、結局俺が依存してしまっているから。
酒もタバコも嫌い。
依存性の高いものは嫌いなはずなのに、どうしてか俺は依存してしまっている。
それは俺が弱いからなのか…もしくは何か強く惹かれるものがあるからなのかは解らなかった。
「テヒョナは僕のもの。絶対他の人のところになんて行かないでね。」
ずるい。
ずるいよ。
あなたはずるい。
抱き締められるその身体からは、俺のでもあなたのでもない香水の香りが漂ってくるのに。
それなのにあなたは、俺を手放してはくれないんだ。
嫌だ、楽にして。
どうしたらこの呪縛から解き放たれるんだ…?
ちゅ、ちゅ、とリップ音を立てて頬や鼻、そして瞼や額など顔中にキスを落としてくる。
それがさらなる甘い時間への誘惑だっていうことは解っているのに、俺よりも大きなその身体を突き飛ばすことなんて出来そうになかった。
体格差が問題なワケじゃない。
ただただ、身体があなたを拒絶してくれないだけなんだ。
誰か俺を殺してくれ。