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初めて見たときから、綺麗な人だと思っていた。
それは今も変わらないけれど、前と少し違うところと言えばあの人のことを欲しいと願ってしまう、この気持ちだろうか。

ウチのグループのリーダーは、末っ子に対してとことん甘い(甘やかし過ぎたのか、夜は逆に負けているみたいだけど)。
そしてリーダーだけでなく、リーダーの次に最年長でもあるメインヴォーカル、テグンヒョンも例外なく末っ子にはわりと甘い。

テグンヒョンは末っ子だけでなく、小さな子どもや動物にも甘いけど、俺たちには冷たい部分がある。
今はそれほどでもないが、前は本当に、俺たちに向ける視線までもが冷ややかだった。

リーダーであるハギョンヒョンのおかげもあってか、少し穏やかになったテグンヒョンはさらに魅力的で。
欲しい欲しいと願うばかりで、テグンヒョンの隣、というポジションを得る勇気は未だに持てなかった。



「テグニヒョン、テグニヒョン。ここのパートなんですけど…。」

「…ん。」



それは何故かと言えば、特にテグンヒョンと絡むダンスも無ければ特別歌のパートが俺に多いワケではないから、だ。
そんなものはただの言い訳に過ぎないけれど、話すきっかけというものはやはり大きく影響してくる。

ジェファンヒョンのように、歌のパートが多ければ…。
ウォンシクのように、ダンスパートの絡みが多ければ…何か違ったかもしれないのに、と悔やんでしまう。

けれどこれはさっきも言った通り、言い訳に過ぎないこと。
だけどこうでもして言い訳をしていないと、俺が俺じゃなくなるような気がして堪らなかった。

心と身体はこんなにもテグンヒョンを欲してるというのに、行動してくれない自分の脳を怨むべきなのか。
いや、勇気が持てないことを怨むべき、なんだろう。







ああ、神様。
今日ほどあなたを怨み、そして感謝した日はありません。

今日は個々で仕事があるメンツ以外はオフということで、オフである俺とテグンヒョンのふたりきり。
この状況は拷問か何かだと思う怨みもありながら、あまり訪れることのないチャンスに胸を躍らせる自分も居ることは否めなかった。

ソファーに座り、自分で淹れたコーヒーを飲みながら優雅に雑誌を読んでいるテグンヒョン。
何も思っていないときならば、どうして自分の部屋で過ごさないんだろう、とでも思っていただろうけど、これは少し有り難い。

今日行動に移さなければ、こんなチャンスは滅多に訪れないだろう。
どうにかして、テグンヒョンと距離を今以上に縮めなければ。



「…ホンビナ、何か用か?」

「え?な、なんでですか?」

「質問を質問で返すな。…すごく、視線を感じたから…何かあるのかと思っただけだから気にするな。」



長いことテグンヒョンを見つめていたからなのか、そこまで疎くないテグンヒョンは俺が送っていた視線に気が付いたらしい。
何か用か、と訊かれても、はい俺はテグンヒョンと親密にお近付きになりたくてその手段を必死に考えていました!、なんて馬鹿正直に言えるワケが無くて。
ちょっとはぐらかすと、テグンヒョンは話し掛けて来てくれたことも無かったことにしていた。

これはただの俺のワガママだけど、それはそれで少し寂しいのが本音。
俺はちょっとした会話でもドキドキするのに、テグンヒョンは至って冷静なのが悔しいし、寂しいんだ。

ねぇ、テグンヒョン。
俺がどんなに緊張しているか、あなたは知らないんだよね。



「…そんなところに突っ立ってないで、座れば良いだろ。ほら。」



テグンヒョンが座っているソファーの後ろに立っているのがよっぽど気になるのか、テグンヒョンは振り返って俺を横に座るよう誘ってくる。
この距離で会話をすることですら緊張しているのに、横に行ったらどうなることか自分でも解らない。

無意識の行動がこんなにも恐ろしくて、それこそ拷問と変わらないのだとは思ってもみなかった。
テグンヒョンは…あんたは知らないから、そんな行動をやすやすと出来るんだよ。



「ホンビ…ッ!?」



ずかずかとテグンヒョンの座るソファーに歩み寄る。
あまりにも足取りが荒々しかったからなのか、テグンヒョンはわざわざ雑誌から視線を外し、俺を見上げて首を傾げていた。

俺は立っていてテグンヒョンは座っているから、テグンヒョンは必然的に上目遣いになる。
それもまた俺を緊張させる行動になり、さっきから煩い心臓がまた、激しく動きはじめた。

あぁ、もう、本当に。
無意識とは恐ろしい。

耐え切れなくなった俺は、テグンヒョンをソファーに押し倒し、テグンヒョンの上に跨る。
俺の予想通りテグンヒョンは眉間に皺を寄せて、あからさまに不機嫌そうだった。



「そうやって無意識な行動をするのやめてください。」

「…無意識な行動?」

「テグニヒョンは…あんたは知らないんだ。俺がどんな気持ちかを。」



押し倒したまま、無意識な行動はやめろと訴えかける。
テグンヒョンは不機嫌そうにしながらも首を傾げるものだから、それもまた可愛く見えて仕方が無い。

俺がどんな気持ちなのか知らないんだ、と言ってテグンヒョンの手を取り、俺の胸にその手を当てる。
こうやって上から言って俺が優勢を装っているけど、心臓の鼓動はダサいくらいに煩くて。
俺が言ってることの意味が伝わったのか(まあ状況的にも普通解るか)、テグンヒョンの顔がどんどん赤く染まっていった。



「俺はあんたが欲しい。ずっと欲しくて欲しくて、堪らなかった…。」

「ホン、ビナ…。」



俺はあんたが欲しい。
自分でも笑ってしまいそうになるくらい弱々しい声が耳に届いて、なんだか情けなくなる。

俺の名前を呼ぶテグンヒョンの瞳は揺れ、なんとなくだけど迷いがあるようにも思えた。
なにを迷っているのかは知らないけれど、俺はもう、迷えるような場所には居ない。
やるのなら、この際とことんアピールしてやる。
テグンヒョン、あんたのことが欲しいんだと。

固まって抵抗すらしないのをいいことにテグンヒョンに顔を近付ける。
例えテグンヒョンに恋愛経験がなかろうと、こんな状況で顔が近付けばやることはたったひとつ。

それを解っているはずなのに、テグンヒョンは瞳を閉じて、キスをすることを待っているようにも思えた。
テグンヒョン、これを受け入れてしまったらきっと、俺もヒョンも、二度と普通という関係には戻れなくなってしまうよ?

そう思いながらも、ゆっくりとテグンヒョンに近付き、距離を縮める。
そして重なったその部分は、確かな熱を持っていた。



「…良いんですか、テグニヒョン。もう、戻れなくなりますよ。」

「…別に、良い。俺は、お前なら…構わないと思える。もうずっと前から、俺も手遅れなほど、戻れない場所に居るから…。」

「ッ!…それは良い方向に解釈しても、良いんですか?」

「…好きに、しろ。」



好きにしろ。
そう言われ、噛み付くように…それこそ、優しさのカケラも無いようなキスをテグンヒョンに落とす。

抗うことなくテグンヒョンは俺の口付けを甘んじて受け取り、むしろテグンヒョンの方から積極的に舌を差し出して来た。
こんなテグンヒョンは、レアなのかもしれない。

ずっと欲しいと恋い焦がれていたテグンヒョンが、今俺の手に入った。
そんなことを言ったらハギョンヒョンあたりが、テグンはモノじゃないよ、と言いながら苦笑いを浮かべるんだろうけど、言葉として表すのならば、まさにそう。



俺もテグンヒョンももう戻れない。




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