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『やっぱり、女の方が良いのか?』



不安そうに、テグンは僕に言った。



「へー。」

「…何をしてる?」

「あ、テグナおかえり。お風呂から出るの、早かったね。」

「…まぁ。」



ただ今、僕は自分のパソコンとにらめっこ中(なけなしのお給料を貯めて、ようやく買ったんだ!)。
食い入るようにパソコンをじーっと見つめていると、お風呂から上がったテグンがそんな僕を不審な目を向けながら部屋に入って来た。

僕が今、どうして食い入るようにパソコンに向かっているか…、みんな気になる?
実は最近、ファンの子たちが書いたファンフィクション、というものを読むのにハマってるんだ。

ほら、こういうのってファンの子たちがどういう絡みを期待しているのかが解るでしょ?
今のところ、僕の調査ではエンレオとレオエンは半々ってところかな。



「で、さっきから何を…またか。」

「きゃー、テグナのエッチー。」

「…煩い。」



何をしてる、という問い掛けに答えなかったからなのか、テグンが僕のパソコンの画面を覗き込む。
そこには冒頭にあったことが書かれていたので、それを見た瞬間、テグンは呆れたように目を伏せた。

他のメンバーは知らないだろうが、テグンは知っている。
僕がこういうサイトを好んで見ている、ということを。
本当はマナー的に見ちゃいけないんだろうけどね、気になるからさ。

テグンには以前、こういうものを見せたことがある。
敢えてファンの子たちが想像したやり方でセックスをしたりしているものだから、恥ずかしがり屋なテグンからしてみたらこれは厄介なものに部類されるんだろう。

嫌な予感がしたのか、いそいそと寝間着を手にして身に着けるテグン。
今日は別に、セックスしようとは思って無いんだけどなー。
明日も朝早いからね。

寝間着を着るテグンの裸体を、ジロジロと見つめる。
テグンの容姿で女の子、かぁ…。

そう、僕がさっきまで見ていたファンフィクションの小説は、テグンが女体化したという内容のもの(今僕たちの関係でテグンが下な以上、レオエンはあんまり見たくない!)。
冒頭のセリフは、その小説の中でテグンが発したものだった。

女の子のテグンかぁ…。
僕の女装よりも綺麗になりそうだなぁ、とは思うけど、やっぱり女の子の姿は想像し難い。
女の子になったテグンを見たことが無いのだから、それは当たり前のことなんだろうけど。



「…何、さっきからジロジロと。」

「んー。テグナが女の子になったらどんな感じなのかなぁ、ってさ。」

「はぁ?」



ズボンも履き終え寝る体勢が整ったテグンは、僕をジロッと睨みながら小言を言ってくる。
別にやましいものでもなんでもなかったから普通に返したけど、テグンは、理解出来ない、とでも言いたげな表情を浮かべていた。

さっき見た小説がそんな内容だったから、とテグンに言えば、馬鹿馬鹿しい、とすぐさま返ってくる。
そりゃそうだ。
あのテグンが、小説のように簡単に女装はもちろん、怪しい何かの薬を安易に飲むわけがない。

あの小説には、まだ続きがあって。
女の子の方が良いのか?、とテグンが言ったあと僕が、女の子でも男でも関係なく僕はテグンが好き、なんて甘いことを言う。

書いた子には申し訳ないが、僕はそんなことを言ったりしないだろう。
まあテグンに甘い部分があることは否定しないけど(恋人だからね)。



「もしもの話だよ。」

「…なんだ、急に。」

「もしテグナが何かの弾みで女の子になって、僕がバイじゃなくてホモだったとする。…って、ちょっとテグナ!どこ行くの!」

「…話に付き合いきれない。」



テグンにもしも話の内容を話していると、テグンは急に立ち上がり、僕とテグンの部屋だと言うのに何故かここから立ち去ろうとしていた。
そんなテグンを口先だけでなく、座っていた椅子からも離れて慌てて力尽くで引き留めると、テグンは眉間に皺を寄せてただでさえ鋭い目付きを、さらに鋭くさせて不機嫌を思いっきり露わにする。

そんなあからさまに嫌がらなくても良いじゃんか…、と思ったのは実際口にはせず。
取り敢えずテグンをベッドに座らせて僕もテグンの横に腰を降ろした。

テグナが女の子になって僕がホモだったとする、とまた言えば、ハギョナめんどくさい…、なんて怠そうに言ってきたテグン。
待って、僕、一応テグンの彼氏ポジションなんだけど。
なんでテグンはこんなに冷たいの?
いや、冷たいテグンも好きだけど。



「こほん。…テグナはそんなときに僕がセックスを求めたら、女の子の方が良いの?なんて訊いてくる?」

「は?…それだとお前、ホモじゃなくてバイのままだろ。」

「あ、本当だ。でもまあ、なんでも良いや。取り敢えず、テグナはそういうふうに訊く?」

「………さぁ。」



どうなんだろうな。

さぁ、と言ったあと、テグンはそう続けて呟いた。
そう呟いたテグンは、僕でも目の前のポスターでもなくて、ただ、何も写さずに前を見据えている。
その横顔が綺麗だな、と思ったり。

実際に体験しないと解らないだろ、と続けてテグンは言う。
確かに、こればっかりは想像だけじゃどうにも考えられない気がする。
でも僕は、なんとなくだけど、自分が言うであろうことだけは簡単に想像出来ていた。



「小説の中の僕はね、テグナにそう訊かれたあと、女の子でも男でも関係ない、僕はテグナ自身が好きなんだ、って言ってたんだ。」

「ハギョナが?らしくないな。むしろ気持ち悪い。」

「いや待ってテグナ。ちょっと辛辣過ぎるよね。ね。」



小説の中にあったセリフを思い出しながら口にすると、テグンは本当に嫌そうに、らしくない、と言った。
僕自身、らしくないとは思うし、長年一緒に過ごしていたテグンからしてみてもやはり、小説での僕は僕らしくないらしい。
だけど、最後の気持ち悪いは要らないよ、テグンさん。

辛辣過ぎる、と僕が拗ねていると、何を思ったのかは解らないが、テグンが僕の肩に頭を乗せて、良いから何かあるなら言え、と言ってきた。
え、どうしたの、この急な甘え。

珍しく甘えモードに入ったテグンにデレデレしていると、痺れを切らしたのかテグンが脇腹を思いっきり強く殴ってきた。
テグン、腹パンは痛いよ…。

解った!言うよ!、と少し噎せながら言うとテグンは、早くしろ、と拗ねた口調で返してくる。
いや、だから今日どうしたの。
なんだかすごく、可愛いんだけど。



「僕はあんな甘いことは言わない。むしろ言えない。」

「…だろうな。」

「それに、なんであんなことを訊くのか理解出来ない。もし僕がただのホモで、男で顔が好みのテグナが好きだったらまず、女になったらそんな盛ったりしないし。逆に求められないのって辛くないの?」



僕が言いたいことは、テグンには伝わったのだろうか。
これは誤解やすれ違いになる典型的なパターンだけど、つまり、求めてる時点で理解しろ、ってこと。

僕が女の子のテグンを襲う時点で、テグン自身のことが好きなんだと解ってほしい。
実際、テグンにはバイだとしているけど、実は僕、あんまり女の子には興味が無いんだよね。
まあ、男にも興味無いから、好きになること自体珍しいんだけど。

そんな僕の事情は置いといて。
(一応)ホモの僕が女の子になったテグンを襲わなかったら、それこそテグンはショックを受けるんじゃないだろうか。
さっきも言ったけど、想像じゃ言い切ることも出来ないが。

もし、もし僕が言われたら…。
そのときは。



「何も言わないでセックスするね。不安になってるテグナすごいエロいし可愛いからそそられるもん。もっと泣かせてやりたくなっちゃう。」

「…可愛子ぶって言ってるけど、言ってること下衆いぞ。」



そう、実際の僕だったら多分、これみよがしにテグンが抱く不安を掻き立ててあげると思う。
不安を宿した瞳に涙を溜めたときのテグンってすごいエロいし、逆に僕を求めてくれるんだ。

だから馬鹿みたいにそそられるし、泣かせたくなる。
テグンにそう本心を言うと、テグンは引いたように僕から身を離した。
さっきまでテグンの頭が置かれてあった肩がスースーしていて、それこそなんだか気持ち悪い。

テグンは下衆いなんて言うけど、僕みたいな性癖な人は多いんだし、多分こう思う人は他にも居るだろう。
今度、ヨングクやジェロくんにも訊いてみようかな。
あのふたり、僕と同じ匂いするし。



「まあ、どんな姿形でも、僕はチョン・テグンを愛してるけどね。」

「カエルでも?」

「…ガマガエルじゃなかったら、まあ、我慢出来る。」

「なんだよそれ。」



女の子だろうが、男の子だろうが、僕からしてみたらどっちでも良い。
テグンが僕の下で快がって喘いで、そして可愛らしく泣いてくれたら僕はそれで良いんだ。

ああ、こんな感じだから言われてしまうのか。
性根腐ってる、って。
ま、こんな性癖を晒し出すのは、テグンに対してだけだから、他は良いんだけどね。






(テグナ、今度女装してみてよ。)

(絶対に嫌だ。)

(なんでー意外と燃えるかもよ?)

(なら、ハギョナが着れば良い。)

(気持ち悪いだけじゃん。)

(俺がしても気持ち悪いだろ。)

(いや、絶対綺麗。保証する。)

(その自信はどこから…。)




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