クルシグ
腐向け注意!
----------
また雨か…
窓の外を見て心で呟いた。
雨の日の読書も別に嫌いではないけど。
ここのところずっと雨続きだったからなんか心がじめじめするようで…
晴れが恋しい。
でもいずれそれは嫌と言うほど晴れに出会えるんだけどね。
梅雨の季節は日が長いけど、鉛色の空が日を隠してしまって薄暗い。
「帰るか…」
ため息混じりに本を閉じた。
もはやただひとりとなっていたこの教室を後にした。
外に出て、傘を開いた。
雨の音が傘を打ち付けて少しうるさい。
だけどなんとなく心地いい。
雨音の不規則なリズムを楽しみながら、帰路をたどって行く。
「?」
ちょうど紫陽花が咲き誇る街道で、一人の少年がただずんでいた。
水色の髪がよく映える少年、シグが紫陽花をじいっと見つめていた。
傘もささずに…。
「シグ!何しているんだよ!」
いつもの如く何も考えてはいないという事は知っているのに、なぜか気になってしまって…
しかたないのさ…気になるんだもの。彼のこと。
「あ、めがね…」
ぼんやりとこちらを向いて、やる気のない声が発せられた。
クルークはさっと傘の半分をシグの頭上に持っていく。
「こんなところで何しているのさ…いくら夏場でも風邪引くだろ?」
なんて心配していても、どうせ何とも思っていない。
せっかくこのボクが心配していると言うのに…
初め見たときは、女の子かと思って…でも男の子で…という事実が衝撃的で…
それからなぜか気になってしまう。
ムシばっかし見て、その癖に何も考えていなくて、勉強なんてろくに出来なくていつも先生に怒られてばかりで…
だけどもっと彼のことが知りたくて…
だから近づいてしまうんだ。
「…で…こんなところでなにしているのさ…紫陽花ばっか見つめて…」
「かたつむり見てたの。」
別にムシでもないかたつむりなんか眺めて…なにがめずらしいんだろう。
あいかわらずよくわかんない言動にただ適当に返事をしただけ。
「シグ、またテスト0点だったのかい?」
その日はシグは先生に呼び出しを食らって説教されてたってことをアミティから聞いた。
「うん。先生に宿題出されたの。でもわかんないことばっかり書いてある。」
先生の説教なんて恐ろしいものだってのに、シグは表情変えずに紫陽花を見つめながらつぶやいた。
そして一輪の紫陽花を摘み取った。
汚れのない青色をして何ともいえない。
「ずいぶんきれいな色をしているな。」
「うん。でも紫陽花って気まぐれなんだって。」
「気まぐれ?」
「咲くところによって赤か青に変わるんだって。」
赤か青か…
そういえばこの魂もなにかシグの祖先に関係しているんだっけ…
似ても似つかぬ水色の髪の少年…
この紅い魂がもしシグに宿ってしまったら…
ボクが乗り移ってしまったときより、ずっと大きな力とおぞましい姿を持っているんだろうなぁ…
「めがね?」
何か思い悩むクルークにシグが顔を覗き込んできた。
「あ、なんだい?」
「いや…だって、めがねったらボーっとしてるんだもん。」
そんなの君に言われたくないなんて言おうとしたけどやめた。
「ねぇめがね。そんなにぼーっとしてたら帰っちゃうよ?」
そういってクルークの元から離れようと足を踏み出す。
「あ、待てよ…傘ないんだろ?シグの家までついていってやるよ。」
「ほんと?いいの?」
「かまわないさ。」
そういえば相合傘だってのを、今気づいた。
どうせ男の子同士なんだろうけど、クルークはシグがきになっている。
もしかしたら好きかもしれないし…
だからなんとなく気にしてしまう。
「めがねって僕の事すきなの?」
「はい!?」
いきなり図星をつかれたような発言だったので思わず裏声が出てしまった。
「な、なんだよ…いきなり…」
「だって…めがねって僕には優しいんだもん…」
優しい?
どういうことなんだろう…
「だってめがねさ、いつも他の人にはなんかひどい事言ったりするけど、僕にはなんか優しいの。」
たまには勉強を教えていたり、日直の仕事とか、ツキマワリの観察日記の手伝いとかしていたけど…わかるものなのか?
シグが一番わからなそうな気がするけど…
「そんなにやさしいか?」
「うん。だから優しいめがね好きだよ?」
そのシグの言葉が頭の中を駆け巡った。
でもどうせそんなのは友達としてのことに過ぎない。
「あ、あのさ…ボク…男だよ?わかってるのかい?」
「うん。知ってるよ?」
「そんな…男同士で好きとかさ…なんか…おかしくないか?」
確認の為とは言いつつ、ある意味自爆的行為。
「なんで?好きになっちゃだめなの?好きなんだからいいでしょ?」
そういってニコッと笑った。
それがなんだか愛しくて、抱きしめたくて…もうどうにでもしそうな気がしてしょうがなかった。
「でもね、めがね…僕はめがねを壊してしまいそうなんだ。」
「…?」
「この前、ヘンなめがねとあって、なんかヘンだったの。手もヘンだし…
だから僕…きっとめがねを殺しちゃうのかなって…」
「殺す?そんなことないよ…それに、ちゃんと僕がヘンにならないようにしてやるさ…」
シグはシグのままさ。
その紫陽花みたいに藍から紅になんてさせない…
だから…そのままでいて。何処にも行かないで…