リュカネスかもしれない。
記憶喪失ネタ。
ガノさんごめんなさい。
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さな記憶と小さな思い出




ちょっとしただけで、ネスとリュカはケンカしてしまった。
殴り合いとかはしてないけど、リュカがネスにムッとさせるようなことを言って、ネスがリュカにつかみかかった。
軽く振り払ったつもりだったのに、ネスはバランス崩して、倒れて、ぐったりした。

「…!?」

そこまでやったつもりじゃなかった。もしかして死んだ…!?と焦って、必死にネスを揺り起こす。
不安と恐怖が、リュカの心を押し潰す。

「ネス…ネスったらぁ…」

泣きそうになって、もうだめかもって思って…それでもネスを起こそうと何度も何度も…

「…ぅう…ん…」

少し呻いて、ゆっくりと目を開けた。

「ネス!」

あぁ、よかったぁ…とついついリュカの顔には笑みがこぼれる。

「ネス、ごめんね!大丈夫だった?」

とにかく謝らなきゃとなにかと必死になっていた。
でもネスはなにかときょろきょろ辺りを見回してる。
そしてネスの次の言葉に、リュカの心は凍り付いた。

「…君は…誰…?」
「…え…?」

どうやらネスは、バランス崩して倒れた際に、壁に頭をぶつけたらしい。ということは…

「…記憶…喪失…?」

考えたくはない。記憶喪失ということはほとんどの記憶が消えてるということ。
それでもリュカは落ち着いてネスに関する事を一つずつ質問した。
記憶のないネスは、数少ない記憶の中から、その答えとなるまでのヒントを時間をかけて探り当てる。
でも、彼の答えは「わからない」だった。
ネスの好きな食べ物、
ネスの生まれたところ、
ネスの知ってるはずのココロのチカラ、
ネスとリュカが出会った場所…全て覚えてはいなかった。
言うまでもなく、リュカの名前さえも…。
あまりに悲しくて切なすぎて、リュカは涙が出そうになった。
でもここで泣いてしまったら何も知らないネスはどうしたらいいかわからなくなってしまう。
そんな涙を必死にこらえた。
今のネスはなにもかもが初めての光景で、いろんな物に興味を持っている。
実際にそれを手に取ったり、窓の外を見て歓喜の声を上げたり…
リュカにとってはそんなのにはもうなんの興味も持たない。
見飽きてしまったくらい。
でも、きっと楽しいんだろうな…。

「ねぇ、見て、あれ!すっごいきれいだよ!…えっと…」

名前を思い出そうと、う〜んと考える。

「…『リュカ』…だよ。」
「そうだ!リュカ君、あれみて!」

リュカを君付けしてることに、リュカの胸に痛みが疼く。
呼び捨てで呼んだのは、確かネスが先だった。
呼び捨てにするってことは仲のいい証にも繋がる。
もうあのネスはいない…?
リュカが落ち込んでいるときも、手を差し延べてくれて、優しくて、いつも笑ってくれて、助けてくれて…
リュカにとっての憧れの人は、今となってはもう何も知らない人になっていた。
ネスとリュカの思い出さえ、何も…

そうやって過ごしているうちに、日が暮れて、夜になった。
リュカは何となく眠くて、ネスはもうすやすやと寝ていた。
寝ただけで記憶喪失が治るのだろうか…いや、その前にこれは病なのだろうか…

「…ネス…もう何も思い出してくれないの…?もうあの時のネスは帰ってこないの…?」

今日はいろんなことをネスに教えた。
それはまるで物心のついた幼い子供に言葉を教えたみたいで、なんだか切なかった。
超能力を使うのが上手で、長く、辛く、決して楽ではない旅をして、地球を救って、そしてリュカの事を助けてくれて…
それでこそ『ネス』なのに…そこにいるのは『ネス』ではない『ネス』なんだ…
リュカの頬に、涙が伝っていった。
小さなことでケンカして、あんなことを言わなきゃよかったって…
泣いてるときに、リュカは思った。
後悔してばかりだ。って…
ネスの眠るベットに顔を伏せてリュカは泣けなかった分、存分に泣いた。
泣いてるときに、誰かがリュカを呼び掛けた。
顔を上げると、ネスが不思議そうな目でリュカを見ていた。
起こしちゃった?と思ったら朝だった。
いつの間にかリュカも眠っていたらしい。

「リュカ君…そんなとこで寝ちゃったら…」
「リュカでいいって…」

やっぱり思い出してはいなかった。
もう一生治らないかも知れない…それでもネスと一緒にいられるだけでいいのかな?

「ネス、今日お散歩しない?」

外に出れば、何かしら思い出してくれるかもしれない。

「うん。いいよ。」


部屋を出る時、ネスは赤い帽子をかぶっていないことに気付き、

「待って、ネス。」

リュカはネスの頭に帽子を被せた。

「…?」
「いつも大事にしてたでしょ?だから被っていかなきゃ。」

何もかぶっていないネスは何か足りないし、これも思い出させる第一歩。

散歩の途中で、リュカは思い出話とはいかないものの、ここで何したんだよと語りかけた。
やっぱり思い出すそぶりは見せなかった。
いろんな所を散歩して、いろんな事を教えても思い出してくれない。
けど、ネスがリュカに…

「ねぇ、どうしてそんなに悲しそうにしてるの?笑おうよ。そうすれば楽しくなるよ?」

何も知らないネスが、リュカに気遣って言ってくれたのに、リュカはそれには応えられなかった。

「…何も…何も知らない方が幸せなのかな…忘れてしまえば、楽しく生きていられるの…?」

我慢していたのに、リュカはネスの前で泣き出した。

「リュ…リュカ君…!?」

いきなり泣き出すものだから、戸惑いを隠せずに、どうしょうもできない。
いつものネスなら慰めるのに、自分にその役目があることすら忘れていた。

「…ごめん…ネス…いきなり泣いちゃって…僕がしっかりしなくちゃいけないのに…」

涙を拭い、笑って、そして前に進む。
遺跡でネスを捜した事も話し、いろいろな冒険の話を、その場所に訪れながら話した。
でも、目的はそこではない。ネスとリュカにとって、思い出の場所。
何者かに操られて、動物たちが暴れてしまって荒れ果てた動物園。

「…ここ…覚えてる?」

忘れもしないこの場所…
ここでネスとリュカが出会ったのだ。

「ここでね、ネスが僕の事を助けてくれたの。」
「…僕が?」

こんな思い出話、ほんとは「あぁ、そうだったよね。」ってそんな風に返して欲しかった。
こんな事になったのも自分のせいだから…
これで後悔したの、何度目だったかな?もうわからないくらい後悔したから数えるのをやめた。

「…なんか…見た事ある気がする…」

壊れた檻の柵とか動物のいた宿舎を見渡しながらネスは呟く。

「ネス!思い出した!?」

少しずつ記憶が戻って来ている。それは深い闇に微かな白い光が照らし出すように、希望が見えて来た。
でも、全部無理に思い出さなくてもいい。
その時が来るまで気長に待つ。
そう喜んでいるのもつかの間だった。
どこからか重い足音が聞こえて来て、あきらかこっちに向かってくる。
その音に、リュカはあの時の恐怖が甦ってくる。

「…なに…?」

宿舎の奥から現れたのは、怒りに塗れ、血相を変えたクッパがこちらを睨んでる。
その表情を見たら今にも身体が竦み上がる。

「…く…クッパさん、どうしたんですか…?」

リュカはおそるおそる問い掛ける。

「あのガノンドロフの野郎〜…!!チーム戦で戦わないでおいしいところを全部持って行きやがって〜!!」

何かとクッパとガノンドロフは仲が悪い。
そんな二人を同じチームにチョイスしたなんて…悍ましい。
叫びながら腕をぶんぶん振り回してそこらのものを破壊していく。

「…やめてください!」

怯えるリュカに、ネスが立ちはだかる。

「なんだぁ!?敬語何て使って…お前も殴られたいか!!」

そのおごましさにネスはたじたじになる。

「…や、やめてください!!クッパさんっ!!ネスは怪我してるんです!!」

怒りが限界値になってるのか聞いてはいない。
その直後にリュカのもとに炎の息が襲い掛かる。
ネスの身体が勝手に動いた。
リュカにおもいっきり飛び付き、庇い、炎がネスの背中を焼き付ける。

「ぁあっ!!」

ネスの頭の奥から前にもこんなことがあったっけ…?
と俗に言う『デジャブ』が起こった。
転倒して、地面に額をぶつける。
ネスの頭のなかがチカチカしてる。

「ネス!!」

あの恐怖がまた起こり、不安がリュカの心を暴れさせた。
ネスの額が擦れて、血が滲む。

「…ぅ…うっ…」
「ネス…ネス!」
「…リュカ…?」

今、リュカの事を呼び捨てにした…

「…ネス…?」

ゆっくりとネスはリュカに抱きしめた。

「…心配かけちゃったね…ごめんね…」
「…ネス…?思い出したの…?」
「うん…僕はネス。君はリュカ。オネットで生まれ育ち、世界を救い、ここでリュカに出会った…。そうでしょ?」

うれしいのやら悲しいのやら、リュカはネスを抱き返した。
そして泣きながら「…ばかっ…ばかっ…さびしかったんだから…!」と訴えながらだだっこパンチする。

「さっ、リュカ。帰ってピーチ姫にハンバーグ作ってもらお!」
「うん!」
『ライフアップ』で怪我を治して、二人で宿舎に戻る。

帰ってる時、なぜか二人はなにも話さない。
ネスの記憶が戻ってきたものの、少し気まずい。
だって記憶が消える前、ネスとリュカはけんかしていた。

「あのさ、リュカ」
「あのね、ネス」

二人は全く同じタイミングで口を開いた。

「いいよ。リュカから。」
「ネ、ネスからどうぞ…」

何となくお互いの言いたいことがわかる気がする。

「せ〜ので言おっか。」
「うん。」
「せ〜の!」
「「ごめんっ!」」

やっぱりなんて思って二人は笑いあった。
宿舎に帰ってピーチ姫のハンバーグを食べて、後でクッパが二人にあやまった。
でもなんだかんだでネスの記憶が戻ってきたのもクッパのおかげかもしれない。


どうしてケンカしたのかって?
なんでだろうね。忘れちゃった。







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