Excuse Me! | ナノ

Excuse Me!





後ろでしていた音が止まった。

(また、だ)

そう思って振り返るとやっぱりアイツは足を止めて歩いてきた道のりをじっと見ていた。
…さっきからずっとなんだよな。少し歩いて、止まって、振り返って。クラトスらしくないっていうか。いつもならまっすぐ前を向いているのに。……まあ今の行動は性格に合ってるっていえば合ってるのかもしれないけど。

「どうしたんだ?」って問いかけても首を振って何でもないってさ。
何でもないわけないのに。変なところで自分一人で抱え込んじまって。一人で傷付いて、解決しようとして。
……少しくらい頼ってほしいんだけどなぁ。











(…あれ?)

九人もいるPTだから宿の部屋を取るのもそうそう上手くいくことはないんだけど、今回は二人部屋が四つと三人部屋が一つ運良く割り当てられた。
俺たちが親子だって知ってから二人以上の部屋割りのときはだいたい俺とクラトスで組まれる。きっと親子水入らずってヤツで組まれてるんだろうな。
だからクラトスが宿によって用意されたりしてる寝着に着替えるのは何回も見たことがある。だから、分かる。


ーークラトスの首からぶら下がっているモノがなくなってることに。


アレが何なのか。クラトスにとってどういう意味を持ったモノなのか。クラトスのことを本当の意味で知った今なら分かる。分かる、から何でだろって気持ちになる。
だって、アレはクラトスにとって唯一の、だから、何で付けてない…んだ……ーー

(……そっか。そういうこと、か)

クラトスから視線を壁時計へ移す。
……夕餉までまだ幾分か時間がある。










「…見あたらないなー」

遠くまで行ってしまうと夕餉に間に合わなくなるから街がギリギリ見える範囲まで来た道を見てきたけど……。
草むらを掻き分けてもないし、もしかして誰かが取っていっちまったのかもしれない。高値で買い取れるかどうかは分からないけど、手入れがしっかりと行き届いてるしデザインも今じゃ手に入らないヤツっぽいからマニアには受けるのかも。…って、いやいや!まだ持ってかれたってわけじゃないし。
辺りもだいぶ暗くなってきたからもうそろそろ潮時かもしれない。潮時、いや、もうちょっとだけ探してみるか。










「はぁー…」

まさかウルフが持ってたなんて。


ーー探索を再開した直後に草むらからウルフが飛び出してきたまではよかった。いやよくはないのか。けどそのウルフが口にキラキラと光るものを咥えてたから気になって追いかけてみると、そいつの住処に辿り着いた。
そのウルフは咥えてたものを住処に置いて何処かへ行っちまったからちょっとだけ中を拝借させてもらって、

「…すっげー」

そしたら俺から見ても分かるほど価値があるものからただのガラクタまでたくさんの物が置いてあってビックリした。
一通り見た後にさっきウルフがものを置いたところを見るとそこには金色の見覚えがあるロケットペンダントがあった。ウルフの牙で少しチェーンの部分が壊れてしまったところがあったけど、これくらいなら直せそうだ。よし。これで解決だな。











「あー、酷い目にあった……」
「お前が遅くまで出歩いていたからであろう」

結局帰ってきたときには夕餉の時間には間に合わなくてみんなに心配を掛けてしまった。
先生からの罰を受けた証に少し痛む脇腹を摩りながらクラトスの表情を伺う。アイツは呆れた顔をしているけどでもその表情には曇りが見える。
そっ…とクラトスに近付いた。

「…?どうしたのだ」

その質問には答えないで、

「手。手、出して」

あ。律儀なひとだから両手を出してくれたんだけど片手だけでもよかったんだなぁ。
ま、いっか。そういうところも可愛らしいし。
出してくれた両手を掬い上げるような形にする。そしてそこへポケットから出したアレを落とした。
クラトスの目が開かれるのが分かる。少し震えているその手を包み込むように握る。

「ロ、ロイド…これは……」

戸惑いながら問うクラトスに俺は苦笑する。

「今日クラトスの様子が変だなって思ったんだ。何でもないって言うけどクラトスの何でもないって信用できないしな」
「そ、そうか……」
「確信に変わったのは宿屋の寝着にクラトスが着替えてたとき。首元見たらペンダントがなくてさ。ああ、そういうことかって分かったんだ」
「…だからお前はあの後出て行ったのだな」
「うん…。あ、ウルフが咥えてたんだけどそのときにチェーンのここの部分が壊れちゃってたっぽくて一応手直ししたんだけど……駄目ならもう一回やるけど」

宿に着く前に近くにあった工具屋から道具を借りて修理しといたんだ。

「いい」

クラトスは首を横に振って言う。
そしてペンダントを差し出してきた。

「クラトス…?」
「ーーお前が、ロイドが付けてくれぬか?」
「えっ」

クラトスが苦笑する。

「…どうも自分でやるには難しくてな」





「ーーどうしてコレ、落としたりしたんだ?」

ペンダントを付けながら問う。
うん。やっぱりクラトスにはコレがないとな。俺のエクスフィアと同じでこれはきっと母さんの形見なんだろう。
クラトスは少し申し訳なさそうに表情を歪めた(ような気がした)。

「……ロイドが直してくれたチェーンの部分がウルフが咥える前から実は壊れかけていたのだ。それに気付いてからは直すまでは仕舞っておこうと思っていたのだが、移動や戦闘を繰り返すうちに気付かぬまま落としてしまったのだろう」

気付いたときには遅かった。
迷惑をかけたな。すまなかった。

顔を俯かせてしまいそうになるのをクラトスの前に向き直って顔を両手で掴んで防ぐ。

申し訳ないとか思うな。父さんが俺にこれを託してくれたから俺は今ここにいられる。俺にとってもこれは大切なものなんだ。
だから謝るなよ。これはクラトスの宝物でもあって俺の宝物なんだ。

まくし上げるように言うとクラトスは目を丸くさせ、それから少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「フッ…そうだな。すまなかった、ロイド。ーーありがとう」
「おう!」










「……父さんのことは少しだけ思い出せるけど母さんのことは思い出せないんだ」
「…そうか」

クラトスはペンダントを胸元から取り出し蓋を開ける。
その中には幸せそうに笑っている家族がいた。

「……アンナの顔はこれでしか見せてやれぬが、話くらいなら私にもできるだろう」


ーー教えてよ、クラトス。母さんってどんなひとだったんだ?









.

[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -