「何してんの?」
「ちょっとここから飛び降りようかと。」
「自殺願望?」
「そうかもね。」
そんな奇妙な会話の元、俺と彼女は出会った。
彼女の世界が変わる時。
「何でここ?この場所は夕日がとても綺麗な場所でよくカップルが来るから迷惑だと思わない??一人でこっそり死ぬのが嫌なの?」
「夕日が好きなの。」
「ふーん」
「そして、人が驚く顔も好き。」
「それはそれは…凄いことが好きなんだね…」
「うん。いつもは私の代わりにやってくれた人がいたんだけどもうこんな面白いことはしないって。」
「足洗ったってことか。それはよかったよかった。」
「私はよくない。アイツがいたからこの世界が輝いていたのにもう輝いてない。真っ暗よ。」
「ふーん…」
「つまらなさすぎて嫌になっちゃう。だから死ぬの。」
「なら、俺が君の世界を輝かせてあげようか?」
「……は?」
「俺は19という若さで刑事。こんな驚くことはないだろ?」
「全く驚かないわ。アイツは年齢不詳、出身地不明。親だっているかわからない。そんな特殊な人間が生きてる。そんな世界には貴方みたいな普通の人も当然いるでしょう?」
「…………普通…か…」
「そ。ああでも貴方がその普通を特殊だと勘違いしている所は驚いたわね。」
「微妙な慰めありがとう。」
さて、どうやってこの自殺願望者を止めようか。
「でも……」
「!」
「…………そうね……世界にはアイツが作らなくても驚きをもつ奴が沢山いるのよね……」
「…………まぁ…ね。160cmを小さいと思っていない三十路こえたおやじやヨーグルトなきゃマジギレする奴もいるし有り得ない胃袋もった女もいるし笑顔が真剣に怖い…っていうか人間じゃないオーラまとった奴もいるし。」
最後の人間じゃないは真剣に、強調。
俺だけじゃ彼女の気を引けないから。
「そんなに面白い人がいるの…ふーん…」
「ああ!何なら紹介してやるぜ?」
「そうね…なら貴方の世界に入ろうかしら。」
「え?」
「私、刑事になるわ。」
「いや…そんな簡単に決断できる職じゃねぇ気が……」
「言ったでしょ?私は人が驚く顔が大好きなの。」
「………本気?」
「当たり前。来年警視庁に就職するからよろしく。じゃあね。」
気付けば彼女は崖の先から道の真ん中に移動していた。
「そういえば、貴方ここは有名なデートスポットって言ってたわよね?」
「ああ。」
「ならどうして貴方は一人でいるの?」
「………」
「見え透いた嘘は己がいかにバカかを露見するだけよ?」
彼女は朱い夕日の眩しい光をあびながら、にっこりとそう言い残すとその場を去った。
来年彼女を警視庁でみかけ俺が驚くのは言うまでもない。