とりあえず明日、忍に私の家にある社長の………遺品を一緒に整理する約束をした。
事務所前で会うということにして。
明日は私がちょうど非番なのだ。

そして



私はあそこへ向かうため、歩いていた。

◇11◇

ゆっくり……ゆっくりと。急いで帰るサラリーマン達が横を通り過ぎても気にしない。
それほど虚なのだ。
私の身体が。心が。
泣きたい、泣けない。
よくわからない感情が私の身体を支配している。
こんな気持ちは何年ぶりだろう……。




ピンポーン…

「はい」

「こんな…夜遅くにごめんね……」


そうして私はいつの間にか筑紫君のマンションについていた。




「どうぞ。」
そう言って、ウィスキーをおく。
いつも自分が飲んでいるものだ。
「……いいの……?」
「ええ。少し……アルコールがきついかもしれませんが……」
「ううん。大丈夫。ありがとう」

彼女はそういって一口飲む。
それを確認したあと、自分も飲みはじめる。


正直に言うと、驚いた。

9時すぎにいきなり電話で今から行っていいかと言われ、どうしたのだろうと思っていると彼女はまるで別人のような顔で来た。

それは儚い姿で。

今にも壊れそうで。
心配すると同時に嬉しくも思った。
彼女はこの姿をみせる人を自分にしたのだ。

こんな姿は……自分以外の…誰にも…見せたくない。

壊れそうだが、妖艶で、いつもより色気が増していると言えばいいのだろうか。
少し虚ろな目はまるで涙ぐんでいるようで。
仕種もいつもの彼女らしいキビキビとした動きでなく、少し物憂げで、ゆっくりとしているところがまたなまめかしい。


「……どうしたのですか?」
「死んだの……」
「……?」
「知り合いが死んだの……」
「………」
「でもそのことを私は知らなくて……しかも一ヶ月以上も………」
「千夏さん……」
見ていられなかった。
その知り合いについて話す彼女の痛々しい姿を……
それでも彼女は止まらない。

「大好きだったのに!!大好きだったのに!!なのに…素直に泣けないの!!」
ああ……

彼女は壊れそうだったのではなく既に壊れていたのだ。

「んっ………ふっ…………」
気がつけば彼女の口を塞いでいた。

深く


深く


深く


自分に溺れてくれるように深く。

服に手をかけようとする寸前で理性で欲望をおさえこむ。

「んっ……はぁ……はぁ……」
彼女は足りない酸素を補う。
「…………すみません………」
「いいの………」

そういってこちらを彼女は涙ぐんだ目で見上げる。
「今日だけ……今日だけでいいから……」

ああ…止めてくれ……

「お願い………」

そんな風に言われたら
抑えられなくなる……

「私を抱いて?」

その言葉が理性を崩す引き金となり、


自分と彼女の身体は一つとなってソファーに沈んだ。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -