プラタナスの木漏れ日に

※死ネタ/老いてます※

【じゃぁ、また後で。】

「シズちゃん・・」

弱々しい声で臨也が俺の名を発する と、慣れた風に振り返り、手を握 る。 老衰しきったその声は、すでに力も 無く。 若かりし頃の悪名高かった臨也と は、比べものにならない程、当時の 面影は無くなっている。

かつては敵対していた俺たちは長年 連れ添い、歩んできた長い道のりも 思い出せば駆け足立って過ごしてき たように感じられる。 その重ねてきた物語にも終止符が打 たれようとしているのである。

先に発ってゆく者の気持ちと後に残 される者の気持ちとは、どちらがど れ程重く切ないのだろうか。

俺が考えを過らせる間も臨也の力無 き手はずっと俺に繋がれたまま、た だただ無情にも時間は過ぎていくだ けであり、何か言うことは、伝えた いことは、と探すことも許すまいと でもいっているようで。

「いつからだっけ」

急に問われた言葉の意味が分から ず、とまどうと

「俺たち、いつから一緒だっけ」

静かに、大切そうに一言ひとこと言 葉を発する。

言われて、考えてみると想像する以 上に今まで一緒に過ごした時は長 かった。

「10にもならない頃から、今この 年までだろうがよ。親と子供より連 れ添ってんじゃねぇか、テメェと は」

こういう会話はらしくないな、と苦 笑しながら問いかける。

「そうか、親子以上か・・」 と何故か嬉しそうに俺の言葉を繰り 返す。

「家族って、こんな感じなのかな」

不意に臨也がつぶやいた。臨也の家 族をよくは知らないが、一般の家庭 では無いだろうという事は薄々気づ いていたから、

「そこらの家族より連れ添ってん よ、俺らはよ。」

そう返答すると、臨也はやはり嬉し そうに微笑む。

「そっか、まさかシズちゃんの口か らそんな言葉が聞けるとはね・・」 少し調子を取り戻したのか、嫌味た らしく降格を上げ、細い目をさらに 細めてこちらを見上げる。

「そっかぁ」

どこか愛おしげに、それでいてどこ か切なげに、臨也はつぶやく。

「俺が奪っちゃったね、シズちゃん の人生」

クスクス、と悪げもなく言う臨也 に、俺は

「それを言うなら、お前の幼少時代 から青春時代から操から、何から何 まで奪ったぞ、俺は」

と意地悪く言ってみた。

すると、楽しそうに 「ちょっと、操って」

と笑いながら話す。

「全部奪ってくれてありがとうね、 シズちゃん」

意味ありげな言葉を発する臨也。

「そりゃ、どういう意味だ?」 握った手を、言葉に合わせて上下に 揺すりながら問う。

臨也はその手をきゅ、とひとたび握 り、こちらを見据えて、微笑みなが ら 「さぁね」

と言った。

ふっ、と笑い 「なんだよ」 と返した後、何も反応が返ってこな い。

臨也? と覗き込むようにして見る。

先ほどの微笑んだ表情から何も変 わっていない。

そして、 先ほど俺を見据えた目線と一寸も変 わらぬ視点。

「そうか」

一言発し、俺は臨也の手を離した。

臨也の顔に触れながら、 頬を撫で、最後に

「じゃぁな、おやすみ、臨也」

と声をかけ、まだ俺をじっと見つめ ている目を閉じた。

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