スタスタと夕暮れの物静かな校内に響く走る足音。
廊下の方へと目を向ければ、ごめんと謝罪をする神童の姿。
何度見たかな、この光景。


「謝るなよ。俺は神童が大好きだから、どれだけでも待ってられるんだ」

「っ…、ありがとう、霧野」


照れながら笑う神童は本当に可愛くて、俺は待ってたかいがあったと、毎回思う。

神童の鞄を差し出せば本日二回目のありがとう、を貰った。
聞きあきるほど聞いた言葉なのに、何度聞いても心が踊る。
その一言で、その笑顔で俺は満たされる気がするんだ。


「毎回センセーに呼び出されてちゃ、神童もたまらないよなー」

「音楽の事だし仕方ない気もするんだが、毎回霧野を待たせてる事を思うと罪悪感にかられるんだ…。本当にすまない」

「こっちも好きで待ってんだから、神童が罪悪感なんて感じる必要ないだろ?神童はサッカーの事とピアノの事と、あと俺の事考えてればいーの!」

「き、霧野の事…!?」


それはちょっと…、なんて頬を染めるものだから抱き締めたくなってしまう。
可愛いって言葉だけじゃ物足りない位、本当に愛らしい。
夕日に照らされる神童の顔は余計に赤く染まる。

困り果てる神童に俺は軽く笑いながら、冗談だと告げた。


「もう…っ霧野のばか」

「でも少し位俺の事考えて欲しいな。」


悪戯にそう言ってみれば、神童は再び頬を染めていた。
目をそらして、手に持つ楽譜がぎゅっと握られるのを見て俺は首をかしげる。
黙って様子を伺っていたら、神童は俺をじっと見つめて潤んだ瞳で小さく訊ねてきた。


「さ…、3分の2くらいは…霧野の事…考えてるつもり…なんだけど、…それじゃだめ…なのか…?」

「…っっ!!」

「えっ?へっ?」


神童の仕草も表情も言葉も、神童の全部が俺の思考を停止させた。
停止した脳内で唯一出来たことといえば、抱き締める事くらい。
神童の3分の2といえば、サッカーよりもピアノ演奏の事よりも俺の事を考えてくれてるって事で、本当に嬉しかった。

日々神童の事ばかり考えてる俺と同じくらいとは言えないけど、それでも喜びは本当に大きかった。


「そんだけ考えてくれてんなら、俺じゅーぶんっ!」

「わわっ、たおれっ…―――」


ドスッ、なんて鈍い音が教室内に響く。
神童のいう通り俺の体重を支えきれなかった為、俺が神童を押し倒している形となって倒れ込んでしまった。
困惑する神童は俺のしたであたふたとしていて、言葉にはならない声をあげていた。
瞳には涙がたまっていて、俺の方も困惑する。


「ど、どっか痛くしたか!?ごめん、俺のせいで…。て、手当てしないと、」

「…ち、違う、……この、体勢が…は、恥ずかしくて…」

「な…なんだぁ…。もう、怪我したんじゃないかってびっくりしたろー」

「…そんな事言っても、霧野が悪いんだぞ…。いきなり俺に体重かけてくるから…」


神童の右頬をぷくりと膨らむ。
怒る仕草も可愛く見える俺は異常かな?
神童の髪の毛をいじりながら、俺は笑みを溢しながらごめんごめんと軽く謝った。
それでもぷくりと膨れた頬は変わらない。


「霧野…、そろそろ上から…、」

「え〜?どうしようかなぁ」


なんて意地悪を言ってみる。
怒っていた神童だったが、再びあたふたと慌て出す。
表情豊かだなぁ、と神童を見つめ微笑んだ。
笑って泣いて慌てて怒って。どれもが全部可愛くて、女子なんかよりもテレビに映る芸能人何かよりも比べものにならないくらい愛らしい。

押さえきれなくなった欲望が、目の前に映る桃色の頬に優しくキスを落とす。
それと同時に神童から出た間の抜けた声。


「ふぇっ…!?」

「ぷっ、なにその声。かわい」

「かかか、可愛くない…っ」

「ううん、神童は可愛いよ、本当に。」


指で神童の唇に触れてみれば、神童はびくりと身を振るわせた。
俺は自分の唇をペロリと舐めた後、キスを神童に要求してみたけど、実際唇へのキスは一度も経験はない。
拒絶されるのは目に見えてるけど、我慢できなくて。無理にして嫌われたくもなくて。


「キスしていいなら上、退いてもいいけど」

「え…っ」

「…………ってまあ、嫌な、」

「…じゃ、じゃあ…一回だけ…だぞ…」


ぎゅっと目を瞑って、覚悟を決めたようにそう言い放った神童。
握ぎりしめた手がガクガクと震えていて、とてもキスを望んでる様には見えない。
ハァ、と息を吐き、俺はゆっくりと神童に近づいた。

ちゅっとリップ音はするけど、触れたのは唇ではなく額。
神童もえっ、と閉じていた瞳を見開き驚いていた。
俺は神童の上から大人しく退いて、立ち上がる。


「き、…霧野…?」

「神童が本当にやってみたいと思ったときにしような、キス。…じゃ、帰ろっか!」

「え…あ…そう、だな…。帰ろう…」


手を神童に差し出して、俺はにこりと笑って見せた。

きっといつか、神童が望んだその時まで俺待ってるから。我慢してみるから。
一歩一歩一緒に歩んでいこうな?


(唇の代わりに、額にキスを…。)


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ゆりっぷる可愛すぎて好きです^q^
純粋過ぎるたっくんのせいで先に進めない蘭丸のお話でした。
いつになったらキス出来るようになるのかなw?
純粋過ぎるたっくんとか可愛すぎて禿げる^^^^((


20130216
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