※キャラ崩壊




どこで間違えたのかしら、どうしたら良かったのかしら。呟いてみても返事はなく、目からは慣れない液体がぼろぼろ溢れ出た。きもちわるい、きたない。こんな格好悪いのなんて許せない、あたしが跪いてあの子は悠々立っている、なんて。
がりりとコンクリートの床を引っ掻いた。赤いネイルが粉になって散った。ここにあたしも在った、確かに過ごしていたはずなのに。穴の開いてスポンジがはみ出た黴臭いソファの端にはちょこんと学生鞄が乗せられている。せっかく女の子で、学生なんだからもうちょっと飾ったらどうなのよとあたしが言ったおかげで、小さなくまのキーホルダーと水玉のリボンがついている。リボンはあたしが赤にしなさいよと言った。あたしは赤色がいちばん好きなのだ。はっきりして、強い色。他を消せそうな色。


「ごめんなさい、あなたは何も間違ってなかった」


降ってきた声はいつもより幾分か強かった。固いコンクリートに跳ね返ってあたしを直撃する。やめなさい、これ以上あたしを貶めないで。あたしを惨めにしないで。

「でもね、あの方に海のきれいさを伝えたのは私。夕焼けのきれいな次の日は晴れる事を教えたのは私。春の甘い匂いを教えたのも、私」

私は隣にいたの。

抑揚のない声にうすい胸がどす黒い煙でいっぱいになった。こんなのって有り得ない、あたしは認めない!あたしは正しかった、求められることをした、いいえ、それ以上していたはずだった。いつでも準備は出来ていたし、手をぬいたことはなかった。あの人をずっと見てた。あの人の要求通りにしていた。

「どうしたら良かったっていうの!あたしはそんなもの何も知らない…知らなかったわよ!」

物心のついた時からやつれていく母親を見てた、あたたかいご飯は週に一度、安物のベッドのスプリングがギシギシ言うのを聞いてた。街角に立って男を待って、ベッドで沸騰させて殺した。血を浴びた。あたしが知る訳ない、海も空も何も知らない、あたしの所為じゃない。そんな世界知り得なかったもの。あたしはちゃんと生きてきたもの。

「アンタには分かんないわよ…」
「そう。あなたは間違ってない。だから、私が幸福で、あなたが不幸だっただけ」
「っよくも…!!」

指先で突き返された。無様に床に飛ぶ。背中が熱を持って痛んだ。灰色の埃が舞って目を攻める。仰向けになったあたしを見ながら、彼女は言った。

「私、あなたのことが好き、MM。優しくって可愛くておしゃれで、いつも私のこと引っ張ってくれた。尊敬しているし、感謝してる。すごく、好き」
「…でも、私も骸が好き。だから、ごめんなさい」

コツリ、ブーツの音が遠ざかっていく。あぁ、確かあれもあたしが選んだ物だった。後ろに小さなリボンがついていて、その控えめな感じが、おしとやかな可愛さが、あの子によく似合うと思ったから。なのに、どうして。

「待って‥…待ってよ!!」

ぼろぼろぼろ、目から熱い滴が垂れてくる。待ってお願い置いていかないで、1人にしないで、あたしを見捨てないで。遠くから小さく、ごめんなさい、と聞こえた。あの方が私を待ってる。それきりまたコツリとしか聞こえなくなった。聞き分けの悪い子どものように泣き叫んだ。あぁ、いや、居なくならないで!髑髏を、骸ちゃんを、返して。





愛なんて死んじまえ




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