人としてすき。と言ったら叩かれた。
殴られたのではない、パーで、思いっきし叩かれたのだ。

窓の形に四角く型どられた日だまりから左足をはみ出して、雲雀は肩で息をしていた。いつもならその日だまりのなかで、腕を組んで椅子にもったり沈んでいるのに。そこから下りてきたことなんか、なかったのに。


俯いた顔のなかで口唇が何かもやもやと動いた。目をこらしたけど、見えなかった。遠くって分からない。

「ひばり‥聞こえない」

顎を引いていた俺の喉は閉まっていて、声を出したら胸が苦しくなった。かすれた声はかげろうみたいに揺れて消えた。聞こえないって、それ、俺の声の方だ。


「なんで君は、そういう…」


一瞬だけ拾えた言葉は何のことだか分からなかった。雲雀の肩が静かに上下する。開かれた口唇から呼吸がもれて、すうすうと音をたてる。はみ出した上靴の先だけが影にそまって灰色をしていた。ひばりって上靴に名前書かないんだなあ。場違いにもそんなことを思って、それを本人に言ってみたくなって、口を開こうとした、ら。

「僕だけだ」

いっつも、と動いた口を今度は見逃さなかった。けれどそれを伝える間もなく、意味を考える間もなく、雲雀は応接室を飛び出していった。全身が影の色になって通りすぎてった上靴に名前はなくてそれで。


分かったのは走る雲雀の姿勢がとても綺麗だったことと、叩かれた頬がひりひりすることだけだった。




あの子の特別



乙女雲雀さんと無自覚山本


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