「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



ホームは水溜まりでいっぱいだった。東に向かってゆるゆると移動しているらしい低気圧は、並盛を湿らせ俺のねこっ毛をはねさせた。(これは大罪だ。ドン・ボンゴレの怒りをなめてもらっちゃ困る)
傘をさしていないからだに煙るような細かい雨が降りつけた。湿気さえなければ、例えば今日が真夏日だったら気持ちいいミストなんかになっていたと思う。けれど実際は、全身がじっとりして、クーラーの効いていなかった車内でかいた汗と混ざり合って気持ちがわるい。
浴衣姿のお姉さんが2人通りすぎていった。そういえば今日は商店街で夜市があるんだった気がする。我が家の連れてけおばけを思い出して、つい苦笑いした。連れてけくん、俺はもうコーコーセーなのですよ。(だから前ほどお前と遊んでやれないの、ごめんな。)
くったりした学生鞄の中には分厚い英単語集や蛍光のラインでいっぱいのノートが詰まっている。マフィアだって馬鹿じゃなれない仕事らしい。世知辛いことに。


(――分発、まもなくドアが閉まります…)


乗ってきた電車はまだ生ぬるい扉をぽっかり開いて停まっていた。その中で座りこんで携帯を眺める人たち、窓に凭れて居眠るだれか。
アナウンスに急かされた何人かが、階段を駆け降りて俺の横を過ぎていった。水溜まりがぱしゃんと弾ける。映り込んだ電光掲示板が揺れた。




「―相変わらず腑抜けてますね」



一瞬だった。

世界が止まって、俺の真横を過ぎた人影が呟いた。


「…むくろ」

弓なりに曲がった口が残像のように見えた。(気がした。)



ばしゃん、近くで一際大きな水音がして、振り向いて見ると恰幅のよろしい婦人が車内に乗り込んだところだった。辺りには他に誰もいない。少なくとも、奇抜な頭は見当たらなかった。


(――行き、発車します…‥)


ごうんごうん、音を立てて風が俺の隣を過ぎていく。駆け足だった階段の上のおじさんは、速度をゆっくりと落として立ち止まった。電車が過ぎて顕になっていくレールは、つやつやと赤銅色を光らせる。


「‥‥ふはっ」
噴き出した。あいつ、やっぱり賑やかなの好きなんだろうか。よりによって夜市の日に、なんて。(似合いすぎる!)
歩き出そうとしたら、右足が冷たいことに気付いた。電光掲示板を踏んづけて水浸しになっていた。奴の通りすぎざまに、うっかりして突っ込んだらしい。あーああ、ドン・ボンゴレの怒りは恐ろしいのに…。

ばちゃん!派手に音を立てて踏み出した。今日は帰ったら、連れてけと、それを言い出せない女の子と、それから家庭教師さまを商店街まで連れていってやろう。それで思いきり楽しんで、あいつをめちゃくちゃ羨ましがらせてやる。


(だから、悔しかったら、早く出ておいで)