どこに辿り着ける訳でもないのに、ひたすらぐるぐるぐるぐる、町を歩き回っていた。定期的にそうしなければ、そうでなければ落ち着けなかった。並盛の隅から隅まで見渡していたい。空気を匂いを知っていて、改めてしるしをつけて回って、ここは僕のものだと確かめたかった。


ぐるぐる、ぐるぐる、足はひたすら無感動に動く。歩いているのか浮いているのかも分からなくなる。
並盛は、あの人の残した唯一のものだった。突然いなくなったあの人が、唯一残せたものだった。だから僕は見張ってなければいけない。並盛が突然暴れ出したり、去っていったりしないように。


「あれ、何してんのヒバリ?見回り?」
「‥並盛のしつけ」
「何だそりゃ、面白そうだなー」

大きなスポーツバッグを提げた奴はこれから部活だから、とジャージの背を向けた。そして数歩いったところでふと足をとめ、振り返って言った。



「ヒバリ、お疲れさま!」



去っていく背中を見ていたら、並盛の匂いを忘れていることに気付いた。鼻に残っていたのは、先ほど奴が話していた、最近店の客からもらったというミントの石鹸の香り。

どこまで分かって言ってるのだろう。一度止めてしまった足は、重くてうまく動かせなくなっていた。




雲雀さんのお父さん=並盛前市長説



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