うたた寝から覚めてみれば、いつの間にやら彼女がやって来ていて俺の預金通帳をぱらぱら捲っていた。部屋の中は山賊にでも襲われたみたいに荒れている。全く、どうやったんだか。


「ていうか、この部屋の前に見張りいたはずなんだけどよ…」

「ああ、しつこく止めてくるからちょっと眠ってもらっちゃった」

ごめんなさいね、と全く悪びれずに彼女は言う。その間も目線は通帳から離さない。ちょっと誰と話してるんだ、通帳は話さないぞ。(などと言うと、なあに親父くさい、と冷たい顔をされるのが常である。俺まだ若いのに。)とりあえず手近に落ちていた書類を片付けようと腰を上げると、今度はねぇお茶いれてよと来た。今日はハイビスカスがいいわ、当然置いてるわよね?細い指で頁を繰りながら続ける。彼女によって我がキャバッローネはそこいらのカフェなんかに負けないほど紅茶の品揃えがよくなった。俺は手にした書類をとりあえず机の余ったスペースに置いて応接セットを引きずり出す。何かつまめるものはあっただろうか。最近呼ばれた結婚式でドラジェを貰った気がする。どこにしまったんだったか。


「なあMM、別にそんな手荒なことしないでも、あらかじめ来るって言ってくれてたらちゃんと迎えるぜ?」

「ふらっと寄りたくなったんだからしょうがないじゃない。気分よ」

「ふらっと通帳見に…‥?どういう気分…」

「意外と貯まってんのね、貧乏くさい服着てるのに」

「貧乏くさいって…まあ使うの俺1人だしなあ。家庭とか持ってたら違うかもしんねーけど」

というのはつい先日ロマーリオがこぼしていたことである。最近やけにそういう方向に持っていきたがるので困る。適齢期過ぎると大変なんだぜ!と言うのは若干俺への当てこすりなんじゃないかと、白髪まじりになってしまった頭を見ながら考えてようやく気付いた。申し訳ないことをしたとは思っている。と言ってそんなに推されても相手さえいない俺は困るのだが…。


「…ねえ、このお金あたしが使ってあげようか?」


突然MMが唇をなぞりながら言った。手にはまだ通帳を握りしめたままである。

「え、いや、お前に使われたら一瞬で無くなるだろ。無理むり!」

とっさに返すとMMは少しだけ目を見開いた(気がした)。そして通帳を静かに閉じて、そう、とだけ呟く。そこでやっと今日の爪は淡いピンク色であることに気付いた。何だ、赤色以外も塗ることあるのか。


「‥いいわ、あたしやっぱ帰る」

「え、待てよお茶は」

「もういい帰るわよお邪魔しました!」

通帳を俺の顔面に投げつけブーツの踵で散った書類を踏みつけながら、足音も荒く出ていった。運悪くちょうど覚醒しかけていた見張り番は再び頬に強烈な一撃をくらい、俺は一瞬目を閉じて彼のために祈った。ご愁傷様、後でこのハイビスカスティーを代わりにやろう。



「ていうか何しに来たんだよ…?」


後日この一連をロマーリオに伝えて盛大に呆れられる羽目になるのだが、それはまた別の話である。





形成しましょう君と愛



一世一代のプロポーズ

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