人種とかそういったの関係なく、人の地雷を踏み抜くのはやめましょう。
2011年5月29日(日)
ゴールデンウィークというものは意識せずともいつの間にか終わっているもの。
少なくとも商売というものは客商売でしかなく。その大量の連休が文字通りを果たしている時に喜ぶのは、まぁ基本的には大学までの学生達くらいなものでありまして。
生憎、連休というものの恩恵を働いている社会人が感じる事はまぁあまり無いんじゃなかろうか。
あ、でも医療従事者……。薬局とかだったらまだ休めたりするのかな。最近ニュースとかで在宅がウンタラとか言っていたような気がするけれど。
そんな訳で、世間一般で言うところのゴールデンウィーク。土日もいい感じに噛ませる事が出来れば、受験生ではない学生でかつバイトとかも入れまくってさえいなければ凡そ一週間くらいお休みという事も出来るだろう。
そんな日の間の俺はと言うと、休日返上で出勤して、仕事に精を出していた。
そんな俺に四目内さんは、ゴールデンウィーク中の出勤日は給料をいつもよりプラスでボーナスを着けてくれた上、こうして月末に連休をくれた。
これって、営業とか色んな意味で大丈夫なんだろうかと少し不安になる。
そもそも俺は、バイトした事ないし、一正社員として働かせてもらうのもこれが初めてなのだが。
これ世間一般でいうところのホワイト会社どころの問題じゃあ無い気がするのは俺だけじゃないはず。
まぁつまりは、今日はゴールデンウィークの代わりの連休の最終日なのだが。
河川敷すぐ側にある広場のベンチでのんびりしながらいつもの惣菜大学の特性コロッケに舌鼓を打ちつつ元気な子どもたちのはしやいでいる姿を眺めていた。
これ、不審者として見られたりしていないよね俺。
基本年中赤いジャージを着ているし、何をする訳でもなく。ただ今のご時世ではかなり最先端を走っている様に感じるスマホを手に持ってコロッケを食ってるだけだから。
それに何だかんだで二年は経っているし、四目内堂書店を利用している人ならば俺の顔を知っているはずだから。
早々に通報なんてされる事はない、はず。
心のうちでぐちぐちとこんなことを考えるくらいならば、外に出ずにベッドの上に横になって寝ている方がずっと賢いって事くらい当然理解している。
けれど、時折寝るのが苦になる時があるんだ。
毎日という訳ではない。
頻度で言うならば月に一回程度。
内容は悪夢に分類される夢。ただ、自分が死ぬというそんな夢。
本来「死」というものは、生き物として本能的に忌避するものだし。故に正直に言ってこんな夢は早々にどうにかしたいと、少なくとも俺はそう思っている。
……のだが、スマホからのネットとかで軽く調べてみるとヒットするものはどれもこれも逆の意味を持ったものばかり。
特に一番最初に目についたのは夢占いというもの。
簡単かつ大雑把に言うと、死ぬ夢というものは実は転換期を表しているらしい。
しかもその時のシチュエーションとか、死ぬ人が誰かとか、死因とかでその夢占いとしての結果が変わるんだとか。
いや、俺としてはそんなの知ったこっちゃねぇー……というのが本音だが。
例えば、死ぬのを自分自身だけに限定して死因を変えるだけでも、意味が違うらしい。
自分が殺される夢は「悪い状況のリセット」とか。交通事故で死ぬ夢は「予期せぬ出来事が舞い込む」とか。溺れて死ぬ夢は「トラブルや悩みが解決する」とか。
直近で見た焼け死ぬ夢は「感情を表に出すべき」とか今検索結果が出たわ。
その他にも色々とスマホの画面内には色んな検索結果が表示されているけれど、どれもこれも一応は「現状から良い方向に向かう」といった前向きなものが多い傾向にあるように感じた。
……だからといって、俺の中に燻っているこのモヤモヤとしたものがマシになるのかといったら、これっぽちも気休めにすらなっていないんだけど。
ただ自分が死ぬだけだったらまだしも、焼け死んだ時なんか真っ黒に塗りつぶされたアルバムも一緒になって燃えたんだけど。しかも場所がメカクシ団の味とだったし。
気分なんざ落ちる一方だし。
「……はぁ」
「あれ、如月さんじゃないっすか」
「ん?」
思わずため息を溢しながら、残りのコロッケをいい加減食べ切ってしまわないとなと考えていると、頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。
思わず顔を上げてみれば、そこには十日近く前に行方不明になっていた筈の巽完二の姿。
まぁ数日で行方は無事見つかって、おばさんも少しの愚痴を口にはしたものの無事だった事を態々店にやってきて教えてくれた。
てか、よくよく見てみればあの日、巽の事を聞きに来ていた鳴上もいてるし。
どことなく仲良さげな気もする、が。
「ちわっす。今日は休みっすか?」
「どうも、この前はありがとうございました」
「あぁ、四目内さんの気持ちに甘えて休ませてもらってる。で、二人は? 折角の休日にこんな何もないところにどうした?」
まぁ、パッと見は目的も何もなくただ外をぶらついている。つまるところ散歩と呼ばれるものだろうと当たりはつけてはいるが。
休日に外に出ずに自室に出来る事といえば、学生である彼らは精々、学校に出された宿題とか、三年生ならば受験勉強とかか?
俺ならばパソコンの電源を入れて、動画投稿サイトを開いては愛ある批評とかをやっていたけれど。その他といえば、アニメ視聴に漫画や小説を読んでいたり。ネット小説をネサフしたりとかが俺の中での大体のルーティンか。
あ、後ゲームだな。
「あー、俺は四目内さんを探していた結果ここに着いたって感じっすね」
「そりゃ悪かった。あんたは?」
「俺は普通にぶらついていたらですね」
「マジの散歩かよ」
「まぁ、まだ稲羽市に来てから二ヶ月も経っていませんからね」
それを言われてなるほどと一つ頷いた。
俺なんかと違って、一般的な高校生ならば体力は常に有り余っているものなのだろうし。少なくとも来年の四月頃までの一年間はこの稲羽市に暮らすという。
たった一年。
されど一年。
高校生の貴重な一年を過ごす町なのだから、少しでも色んな事を知りたいと思うのは当然の事なのだろう。
反対に俺は、今日一日一日を生き抜く事に必死になり過ぎて、そんなきらきらとしたポジティブ思考は全くもってなかったのだけれど。
それでもなんやかんやで二年も経っているのだから、町のことをそこそこ知っているし、噂とかもそこそこ耳に入ってくる。
とにかく元ヒキニートの俺からしてみれば、主婦様方の井戸端会議は一種の秘密国家会議に匹敵するレベルの情報交換会だって事をこの二年足らずで学んだってことだ。
「ここ、先輩も座ってもいいっすか?」
「好きにすればいい。代わりに俺は変わらず飲み食いするけど」
なんせこれは俺の今日のお昼も兼ねているおやつなのだから。
いやはや、何だって休日って早起き出来ないんだろうなって思う。マジで起きれねぇんだこれが。
俺の母親は、現在体を壊して入院している。
毎日毎朝、血液検査や血圧や血中酸素濃度を計測する為のバイタルチェックというもので朝早くに入院している患者は、その為に通常よりも早く朝を起きなければならない。
そんな中で、母親は入院しているその病室の番号的に割と序盤の方に順番が回ってくるらしく。また、病棟によっては早起きが過ぎる高齢者が入院患者達の中で平均となってしまっていた場合、朝の五時とかにバイタルチェックが始まったりするところもあるのだとか。
そんな中で母親は、バイタルチェックで起こされるよりも先に自分で朝を起きているのだ。信じられない。
朝というあの微睡みの時こそ、人間という生き物の中で最高にして至高の時間だと俺は思っているくらいだ。それを自分の意思で起き上がって検尿とかも先に済ませる事が日常なんだとか。
きっと、仮に俺自身が入院する事になってしまったとしても、そんなバイタルチェックの順番が来てもはっきりお目々パッチリなんて事は一生ないだろう。
それこそ、高齢者にでもならない限りそんな未来は早々に来ないと確証とか根拠とか一切ガン無視して、休日の朝の早起きが出来る事はないだろう。
余談だが、ニート時代において俺が朝をそれなりの早い時間に起きる羽目になっていた主な諸悪の原因はあの電子の青いエネミーである。
更に更に蛇足であるが。
散々っぱら朝起きるのは嫌いだ何だと言っている俺ではあるが。働き始めた今以外でも、一応は朝に起きれている時は何度かはあるんだ。
それは主に自室にて飼っていた殿という一羽の雌兎にご飯を上げる為なのだけど。
あげた後はそのまま二度寝を決め込んだりしたもんだ。
「あ、先輩は何か如月さんに何か用とか話とかってある、んすかね?」
「いや、さっきも言ったが俺自身は散歩しているところに完二と遭遇して今に至るって感じだしな……。だから、俺の事は気にしなくていいぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
やっぱり、この二人って何やかんやでそれなりに仲が良いんじゃないかとお再確認。
ずっと右手に居座っていたスマホを一旦、備え付けの机の上に置いてコーラのペットボトルの蓋を開けて喉を潤す。
こくりこくりと嚥下しながら、このシュワシュワとした炭酸特有の感覚とその味に違和感は一切感じない。
うん、美味しい。
初めてこっちの世界のコーラを飲んだ時、あまりにも違いというものが無かったもんだから、異世界ではなく。咄嗟に俺自身が思いつかないレベルの日本の何処かの田舎町に飛ばされてしまっただけなんじゃないかと思わず錯覚してしまいたくなったくらいだった。
まぁ、異世界というか。どこか致命的なところが違うだけでその他が同じな平行世界なのか。
そこまで色んな事を考えし始めてしまうと本当にキリが無いし。化け物と揶揄された頭を持って いるだけの俺では、そんなSF的展開を生き残る主人公には決して成り得ないだろう。
巽と鳴上が喋っているのを横目に、話の内容は頭から完全に聞き流した状態でそろそろコロッケの他に買ったもう一個の方を食べようかと至高に至る。
口の中がコーラによって一度リセットされたところで、机の上に置いていたビニール袋を手繰り寄せ、中からプラスチックのトレーを取り出す。蓋が開いてしまわないように、輪ゴムで簡単に留められ。その中には串によって貫かれたビーフステーキが三本入っている。
専用にしてあの惣菜大学の店主であるおばさんは長い年月をかけて作り出した特製ソースが掛かったビフテキ串だ。
そういえば、緑色のパーカーを着た女子高生からは特に熱過ぎる程の肉への熱意を持って、称賛してくれているとおばさんは言っていたっけか。
一口、二口と食べて濃すぎない特製ソースが舌の上でビフテキの肉と一緒に踊る。
ちょっと筋張っていて、噛み終えるのに少々時間を要するけれど。それでも、うん、なるほど。
これでたったの三百二十円というのであれば、学生達にとってはとても安く手軽に食べれるもので。人気商品となるのも改めて理解できる気がする。
ただ、これは俺にとっては三本入りのもので十分事足りた。
胃の許容量は、やはり大きくなってはいてもほんの少しずつでしかなく。
だからこそこの程度で十分に俺は満足した。
正直に言うと、あの惣菜大学のおばさんは誰かに自分の作ったものを美味しく食べてもらう事に満足感を得る人だから。対して俺は空腹に対してある程度の満足感さえ得られればそれでいいから。胃の許容量はそこまで大きくはならないし、運動は全くもってこれっぽっちも好きではないし。
お陰様で未だに肉らしい肉のない、よく聞くもやし野郎に俺は落ち着いてしまうんだよな。
雨も降っていないのに、商品制作に携わってくれたからという理由で、天気の良い日であろうと関係なく割と高確率でくれる特製コロッケとビフテキ串の二種。そして、すぐに満腹感に襲われやすい炭酸んおコーラだけで十分お腹いっぱいになってしまった。
実はこれらの他にもう一つ。ビフテキコロッケなるものがまだビニール袋の中に残っているのだが、これまで今食べてしまえば、程よい満腹感から苦しいにまでなってしまう。
晩ご飯のメニューに加えられるのが決定した瞬間である。
「如月さん、ちょっと遅れてしまったんすけど。コレを……」
「あ、コレ、は……」
「っす、以前約束していた殿ちゃんのヤツっす」
「……おぉ、これが」
巽の大きな手のひらにコロンと姿を現した小さな編みぐるみ。
ルビーの様に加工されたプラスチックの赤い瞳。
首元にも可愛らしいピンク色のリボンが結ばれており、正直に言って圧倒的に女の子受けが良さそうなデザインだ。
部屋に飼っていた殿だが、白い毛並みのミニレッキスという種類のビロードの様な肌触りの毛が自慢の子だった。
それを製作前の時に巽に伝えていたのだが……。
どうぞとずっと差し出され続けていたうさぎの編みぐるみを、ようやく俺は受け取った。
編みぐるみと聞くと、もう少しこう……。特有の指触りとかあると思っていたのだが、さらさらすべすべとしたこの肌触り。え、これでおうやって実現されているんだ?
指先でつんつんとつつくと、程良い弾力で指先が押し戻される。実はビーズクッションとか、あの人をダメにするクッションとか結構好きなんだよな。
あれらよりかは弾力強めだけど。でも、これって実際どうやって作ったんだ?
思わず癖になってしまって、じっと下を向きながらしばらくうさぎの頭とかを撫でていると、頭上からくすくすと笑い声が聞こえてきた。
それに思わず反射的に顔を上げれば、笑っていたのは微笑ましそうなかおを貼り付けた鳴上その人で。
逆に製作者である巽本人はというと……。
「……」
少し恥ずかしげで、だがその目は明らかに俺からの感想を待っていた。
気に入ってくれただろうかという期待と、俺でも思わず女子子供に受けが良さそうだと一番に考えたくらいに、その可愛さに対しての大丈夫だろうかという不安がない混ぜになった顔。
どことなく、巽に犬の耳と尻尾が生えているかの様な錯覚を覚えてしまうくらいだった。
セトとはまた違った大型犬タイプだなこいつ、と思ってしまった俺は悪くない。
「ありがとな、巽」
そんな巽の様子に無意識にシンタローはふっ、と口元を緩めて礼を言った。
それに対して、分かりやすく反応してしまった鳴上と巽に。そんな一瞬の彼らの反応に、シンタローは首を傾げていつもの無表情に近い表情に戻ってしまった。
だが、その手は大切そうにきゅっと握られた、巽お手性の編みぐるみの殿があり、今後をそれを見る度に嬉しそうに微笑む姿を見かける事になるのだった。
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