エゴ人達のロック狂詩曲(前編)


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  1. 霧烟る街、ヘルサレムズ・ロット。
    今から三年程前に、アメリカのニューヨークがあった場所に一夜にして構築された、空想上の産物として描かれていた異世界を現実に繋いでいる街である。
    一歩でも街中に出れば、首と胴体がおさらばしている程度であれば重畳。
    ただ擦れ違っただけの通行人に自分自身が成り代わられてしまうのもまた日常茶飯事。
    隣を歩くのが人間ヒューマーではなく異界人ビヨンドであることは最早常識。
    現在進行形で会話している隣人、友人、知人、身内がいつのまにか殺されたのにも関わらず、それに気付かずに代わりに宛がわれた幻覚と会話をさっきまでしていました。なんて事もあったりなかったりする。
    血の雨が天気予報に組み込まれ、少し下へと潜れば臓物と血肉で出来上がった真っ赤な絨毯が敷かれていたりなんて事も。
    常に立ち込める霧によって未だに明らかにならない街の全様。
    底の僅かも見える事が出来ず深さすらも察する事すら烏滸がましい永遠のうろ
    深淵へ覗かずとも、視線も合わせず見向きもせずとも問答無用に向こう側はガン見だったりする。
    実に迷惑千万。
    華麗な眼潰しを是非とも決めつけてやりたい案件である。

    そんな渾沌極めた街ではあるものの、外と街の均衡は様々な思惑が交差しながらもギリギリの所で保たれている。
    そして均衡を保ち続ける為に暗躍する組織が此処、HLにはあった。
    その名はライブラ。
    秘密結社であり、そして今から一年程前に神界お抱え眼科医師のリガ=エル=メヌヒュトに精緻の至高品にして幾つかの義肢の一つである“神々の義眼”を押し付けられた一般人。
    レオナルド・ウォッチが所属していた。

    「運び屋“クラシカル”……ですか?」
    「うん、つい最近にもちょっとしたモノを運んでもらったりと、少しずつ関わりを増やしてコッチに気を引いている組織でね。ここHLでは“モノを運び届ける”という一点においてはこれ以上にない信用と信頼ができる運び屋なんだ」

    そう、コーヒーカップを口元に運びながらスティーブンはまだ一度も接触した事がない新入りのレオナルドに近々行われる会談相手の説明を続ける。

    運び屋クラシカル。
    その存在は、HLが出来るよりも前から風の噂程度には知られていた。
    が、その頃は所謂会員限定のみに対しての活動だった為に調べても眉唾レベルだったのだ。しかもその時からの契約者はというと、国の重鎮だったり世界規模の有数な資産家だったり。中にはレオナルドの様な何の特筆する様な要素の存在しない一般人だったりと、極々一部にして細々とした活動を行っていたのだ。
    たとえどの様なモノであろうとも、それが契約者から依頼されたモノであれば無傷で指定された場所へと届ける。
    その過程でどの様な障害があろうとも、だ。
    その仕事振りはHLで活動を始めた後も一切何も変わらず。むしろ、この渾沌を極めた街でも変わらず依頼したモノを届けるのだ。

    実際、つい最近ライブラがクラシカルに頼んだとある情報が入ったUSBの配達。
    これを配達してもらうという情報はどう頑張っても漏れてしまい、クラシカルの元に一つの団体様の刺客が送られたという情報を人狼のチェイン経由でスティーブンは知った。
    その刺客達は生憎、クラシカルの反撃によって誰一人として次の日の朝日を拝めなかったらしいが。
    一部は骨すらも炭と化し、誰が誰なのかという判別は一切つかず。また一部は、何らかの生物…蜘蛛の巣等が現場で見つかった為、恐らく蜘蛛に生きたまま餌となったらしく、ほんの僅かな食べカスの肉片と大量の血痕だけを残しただけとなっていた。
    その惨状は最早惨劇と呼べる程で、とあるビルの地下室の一部屋が丸々赤く染まり、むしろ染まっていない所を探すのが困難な程のもので。更には逃走経路として使われたのであろう下水道には、蜘蛛の巣が所狭しと張り巡らされて同じように炭と化した骨や肉片等が発見されたらしい。
    因みにその惨状を実際に写真で見せて貰ったスティーブンはというと、思わずチカチカと軽い眩暈が起きたのだとか。
    ちなみにこの時、態々クラシカルに頼んだUSBの中身はというと何てことは無い。雑費等の領収データを纏めたものである。つまりは、その時始末された刺客の団体客が命を懸けてまでの価値のある情報ではなかったというのが向こう側にとっての最大の誤算だったという事である。
    それを知る事もなく死んでいるが。
    尚、領収データが入っていたUSBはというと無事、無傷で届けられている。

    「それ、僕が一緒に行っても大丈夫なんですかね?」
    「そう謙遜する事はないよ。むしろ少年みたいに明らかに裏の人間じゃありませんって奴がいた方が向こうの印象が良くなる可能性があるくらいなんだ」
    「どういう事っすか? てか、ライブラの時点で既に裏な気がしなくも……」
    「クラシカルはね、過去にちょっとした国のお偉いさん達を殺害したという噂がまことしやかに囁かれていてね。理由は未だに不明だし、抑々その時の噂も噂だから信憑性があったもんじゃないのだけれど……。でも、実際に未だに死体一つ上がっていない人達はいるし、契約者の中に文字通りの一般人が含まれているというのが、否定しきれないポイントなんだよねぇ」
    「へぇー……」

    やれやれと首を振りながらも尚説明を続けるスティーブンに対して、レオナルドはライブラのボスの専属執事であるギルベルトお手製のクッキーを相棒の音速猿であるソニックと一緒に口に運びながら相槌を打っていく。
    総勢たったの五人で成り立っている、組織というよりかは大学のちょっとした極小規模集団サークルというレベルで少数精鋭過ぎた。
    構成員全員が本名ではなく、コードネームで呼び合っており更にリーダー格と思われる男以外は女性ときたもんだ。

    リーダー格の男は基本的には表には出てこない。
    電話で依頼をかけるにしても、実際にモノを渡す時に取りに来るのも構成員の四人のうちの一人か二人の女性である。
    コードネームはヘル。
    彼と顔を合わせる事が出来るのも、会話をする事が出来るのも基本的には契約を果たした者だけで。それ以外の人間や異界人がリーダーの顔を知ってしまっただけで、構成員の手によって口封じに消されるとうい徹底振り。
    そんな存在は認識出来るのに霞に手を伸ばしているかのように、妙に事態を掴み切れない。
    そんなリーダー格であるヘルと、つい最近になって契約に関する話にまで発展したのがつい最近の話。
    会談の会場選びは、ライブラ側が指定する場所で構わないというこれまでの情報の徹底振りに対してのこの妙な妥協。
    代わりに向こう側が指定してきたのはたった一つ。
    現時点でライブラに所属しているメインメンバー全員の会談への参加であった。
    当然クラシカルも、総勢五名全員が今回の会談に参加する事は確約されている。
    これまでのクラシカルへのコンタクトの地道な回数稼ぎからの、実った結果といえた。

    ただ、お互いのメイン面子が一カ所に同時刻に集まる訳で、スティーブンが懸念しているのはこの情報が漏れた時の刺客の数と甚大な被害にまで及んだ際の始末書の山の数と高さ。特に後者に対してで、まだ日もあるというのにも関わらずにふと想像してしまっては遠くを見てしまうのだ。
    最悪を常に数多く頭の中で計算し、張り巡らせて不利益になりそうなものを事前に振るい落とす。

    まぁ、最悪よりももっと手前に。
    何ならば今現在進行形で音速猿と一緒にスーパー執事お手製のクッキーを一緒に食べて花を咲かせている新人の神々の義眼保持者が、この後やらかしてしまうという事に、ライブラのトップツーであるスティーブン・A・スターフェイズはまだ気付かない。


    ◇◇◇◇◇


    ヘミング・リェイクタワー。
    ライブラが今回の会談の会場にと選んだライブラの息がかかったタワーである。
    これで何かしらの不祥事が発生した時の痛手はかなりのものではあるものの、逆にいえば更にこれを利用してライブラとクラシカルの二つを同時に潰そうと考える無粋な面々を潰せるだろうし。
    ライブラ側の実力もある程度は見せつける事が出来る…筈。
    前日の会議で話していたスティーブンは、ある程度の想定の上で作戦を話す。
    そして、大事なスポンサー等との会談にはライブラのツートップに護衛が一人か二人程度でいつもならば済む話も、今回の条件として向こう側からライブラの主力メンバー全員の参加があった為に、眼以外に何の取り柄もなく入ったばかりの新人レオナルドですら今回のこのビルに訪れる事になった。

    当然レオナルド以外にも、先輩でありながら微塵も尊敬の念が沸かないクズが代名詞のザップやライブラに所属していながら二児の母親であるK・Kは当然のこと。
    諜報活動を専門とする組織“人狼局特殊諜報部”に所属しているチェインですら、今回の会談に参加する事となっている。
    それはライブラに人狼が所属、乃至関わっているという事は既に向こう側はリサーチ済という事をストレートに表していて。
    それなりの隠し事は通用しないという事を、暗に突き付けられたようなものだったと説明中のスティーブンの背中には嫌に冷たい汗が流れていた事をレオナルドは知らない。

    「おーう、一丁前に緊張してんのか。まぁ、あのクラシカルの構成員はボス以外全員女だっていうし? もしかしたら、お前みたいな陰毛頭でも相手してもらえるかもな」
    「アンタ本当に最低な事しか思いつかないのな! つか、陰毛頭って言うなっつてんだろ!」
    「一々そのクソ猿に付き合う必要ないよ? レオ」

    よくドラマとかで見かける様な大きく長細い楕円タイプの円卓のテーブルが中央を大きく占める会議室。
    こういった場所に今まで縁が無かったために、思わずそわそわとしていたのを目敏くこのクズ先輩は嬉々としてつついて弄り倒してくる。そんな彼に対してチェインはその人狼と言う己の種族特徴を常に利用して、何かしらザップの頭なり手なりと踏みつぶしながら姿を現すのに今回ばかりはレオを間に挟んだ座席に座って肘をつきながら呆れた声を吐き出し続ける。

    そんな若者達のやりとりに少しの苦みを感じさせず、ニコニコと二児の母親であるK・Kは見守っていた。
    ホント若い子は見てるだけで保養だわと、すぐ隣に座っているスティーブンの姿を少しも視界に入れないように体ごと三人を眺めている。
    ちなみに、その最中に時折スティーブンが彼女に話しかける度に蒼い隻眼を吊り上げて、鋭過ぎる切れ味のある言葉を彼に容赦無く投げ付けている。普段からの彼女の彼に対する対応の為に、既にレオナルドはそこに対してそう関わる事は少なくなった。
    それでも、少しでもK・Kの気を引いてはスティーブンから感謝の念を送られたりしている所がレオナルドの人の良さを如実に表していると言えるだろう。

    「坊ちゃま、クラシカル御一行様をおつれしました」
    「うむ、入れてくれ」

    ノックが三回。
    ガチャリと厳かに扉を開けて入って来たのは、執事のギルベルトだ。
    老齢にして顔を包帯で大半を隠しているという少々風変わりな出で立ちをしているものの、ぴっちりとノリとアイロンが決まった黒のスーツにスッと真っ直ぐに伸びている背。
    その佇まいは完璧な執事そのもの。
    ギルベルトの報告にライブラのリーダーであるクラウスが一言で騒いでいたレオナルド達は直ぐに黙って、改めてきちんと座り直す。
    そして、全員の視線は全て扉の方に集中した。

    ギルベルトの案内で会議室に入って来たのは五人組。
    一番最初に入って来たのは、ギルベルトが身に纏っているスーツと比べて、値段は絶対にレオナルドの手の届かない程高価であろうスーツをこれでもかとくたびれさせて、無精髭も整えず好き勝手にさせた中年の小太りの男。正直に言って、おっさんと子供に指をさされても可笑しくない位の、スティーブンとはまた違った方向での胡散臭さを一切隠さずに曝け出していた。
    その次に入って来たのは、緩くウェーブがかかった金髪と大きな碧眼をくりくりとさせた最初の男とはまるで真逆の真面目さが入って来ただけである程度理解が出来た。雰囲気だけで察する事が出来るその生真面目さから、何故あそこまで分かり易く胡散臭い男についているのか。思わず首を傾げてしまう程度には。
    服装だって、黒と白のシンプルなサイドプリーツワンピースで白めの肌がとてもよく映えて見える。胸にはシンプルな金のクロスペンダント。

    「(……うわ、とても綺麗な人だ……。そして、K・Kさん達とは違った強そうな女性だ)」

    少々猫背気味の男と比べて、真っ直ぐ伸ばされた背が女性としてのか弱さを感じさせない佇まいだった。
    そして、更に中に入って来たのがというと……。

    「……ぇ、?」

    思わず口から零れ出た音を拾ったのは、直ぐ隣にいるザップとチェインの二人だけだった。
    そんなレオナルドに対して、訝しむ表情を揃って二人はするものの生憎レオナルドにはそれに気付く余裕は無かった。

    次にと中に入って来た残り三名。
    ピクピクと小刻みに震わせる頭頂部にある二つの耳は、猫種の獣人種の最大の特徴。ふわりふわりと僅かな空気の流れだけで揺れる腰程の長さがあるツインテールと、同じようにして揺れる二又の尻尾。
    それは、いつかの時。レオナルドがまだライブラに入るよりも前、ザップと出会うよりも前にHLでカツアゲにあっていた時に気紛れに助けてくれた彼女、その人だった。
    それだけではない、それだけだったならば流石のレオナルドも思わず声が漏れ出てしまう程動揺などしたりはしない。
    世界は広いようでいて案外狭いなんてよく言われていたりするのだ。
    ましてや、HL一つの街単位であれば存外見知った顔と頻繁に擦れ違う事だって普通に有り得る。
    問題は、知った顔が三人も連続したという事なのだ。
    二人目と三人目は、あの時カツアゲから助けてくれたキプロスと比べてそこまで言葉を交わしてはいない。
    なんだったら、所謂バイトの配達ピザで届けた事があるというだけだ。
    ただ、それがまだ一週間も経たない内の出来事だったというだけであって。
    今はフードを外しているアルビノの女性と、和装の幻想的な雰囲気を醸し出す女性。

    「ようこそ、御出で下さいました。私は、クラウス・V・ラインヘルツと申します」
    「おぅ、アンタがかのライブラの大将さんか。俺ァ、クラシカルで上で踏ん反り返ってるヘルってもんだ」
    「うむ、ヘル殿を筆頭としたクラシカルの働きの数々は聞き及んでおります。どうぞ、立ち話もなんですから、お座りください」

    ヘルと名乗った中年の男がライブラのリーダーであるクラウスと他愛のない会話をしているのがレオナルドの視界の端に映っている。
    が、生憎そんな事に気をやれる程今のレオナルドには余裕というものが完璧に欠如していた。
    仕方がない。
    何せ彼はまだ十九歳にして、裏世界の“う”の字も知らなかった誰しもが認める程の頑固で堅牢な意思と精緻な神工品の一つである神々の義眼をその両眼に移植されている以外何の特筆する事がなく普遍さを極めた一般人なのだから。
    ぷるぷると震える手を必死に持ち上げて、人差し指を部屋に入って来た最後の三人に向けて指し示す。
    傍から見れば人に対して指をさすなど失礼な行為で、辺境にして秘境の地で幼少期を過ごして来たクズの権化であるザップがそれをやらかすならばともかく、平凡な一般人であれどもザップなんかよりかはずっと真面な筈のレオナルドがそれをしようとしている事に、すぐ隣に座っているチェインも、その隣に座っているK・Kも、なんなら更にそのまた隣に座っているスティーブンも思わずギョッと目を見開く。
    その様子はまるでスローモーションの様に感じた事だろう。
    レオナルドの口からは、「あ……、あ……」と言葉にもならない無意味な音だけが零れ落ちていく。
    が、それだけで三人の鼓膜を震わせるのには充分だった。

    エメラルドグリーンの長い髪と同じ色をした頭頂部に生えた二つの猫耳をピクリと動かして、彼女は欠伸を惜しげも無く晒すフードの女性からレオナルドの方へと視線を向けた。
    金色に輝く大きな瞳に、長細い楕円の瞳孔。
    猫の様な目、というよりも猫の目そのものなのだろう。少し目を細めて、自分達に対して指をさしてぷるぷると震えているブルネットの天然パーマの少年を瞳に映した途端。猫の様な彼女は、瞬間詰まらなさそうだった顔を喜色一色に染め上げて、彼と同じようにして指をレオナルドに向けて指し示しながら声をあげた。

    「あー!! レオ君だにゃ!!!」
    「あっ、えっと、はい!」
    「レオにゃ、レオだにゃ〜! 元気にしてたかにゃ? また、カツアゲとかされてにゃい?」
    「おやまぁ、キティが最近ブルネットの良い子に出会ったとか言うてたけど、この間のピザを配達してくれた少年やないの。なぁ? 品ちゃん?」
    「ふわぁぁぁ……、んぁ? あー、せやな、あん時の男の子やん? アレから無事に帰れたん?」
    「は、はい! あの後、怪我とか何もしてません!」
    「ほな、重畳やな」
    「うんうん。あの時のピザ、ほんまに美味しかったわぁ。おおきに」

    床を一蹴りしただけで、大きな楕円方の円卓のテーブルを飛び越えて尻尾を揺らめかせながら、椅子に座っていたレオをエメラルドグリーンの彼女はぎゅうぎゅうと抱きしめる。
    ちなみにその間、女性に抱き付かれるなどの経験が少ないレオナルドは顔を赤く染めている。
    随分と初心で可愛らし反応である。
    それだけではない。
    シャランと簪を鳴らしながら口元を扇子で隠す和服の大和撫子も。目深に被っていたフード短い白い髪を首元で纏めているアルビノも。
    五人の内、三人がレオナルドに対して見知った反応を示したのだ。

    ひくりと、ライブラの番頭役でもあるスティーブンの口角が動いてしまうのも仕方がないだろう。何せ今回のメンバーの中で唯一接触した事のない新人だと思っていたのにも関わらず、だ。
    どういう事なのか、番頭役としてレオナルドに問い詰めなければならない。
    たとえ、レオナルドが持っている回答がライブラと接触する前に遭遇したカツアゲから助けられたのと、ピザの配達のバイトでデリバリーした時に出くわしたお客さんという程度だとしても。

    「知った顔があったようだけど、キティ。貴女は一度こちら側に戻りなさい。これから、ライブラと契約に関する話し合いをするのですから」

    パンパンと手を叩いて、場の空気をリセットする為にクラシカルのまとめ役が口を開いた事によってようやくキプロスはレオナルドから離れて、そのまま歩いて円卓テーブルの向こう側へと戻っていった。
    はぁと溜息を一つ零しはするものの、会談の場だというのにも関わらず恐らく普段と特別変わらない三人に対してそれ以上特に何もいうつもりが無いのだけはライブラ全員には伝わった。
    そんな中で、クラウスに促されたのもあって既に一番に席についているヘルモンドがガリガリと頭を掻きながら面倒臭そうな顔を晒しつつも口を開いた。

    「しゃーねぇなぁ。改めて一から自己紹介でもすっか。クラシカルでトップをしている、ヘルモンド・F・ヒットストリートだ。で、オレらん中で一等真面目を極めてるのがパイル・ぺブリック。さっき、そこの青少年に飛びついていた猫人がキプロス・キャッ―――」
    「カットだにゃ、間違えにゃいで欲しいにゃ」
    「わりィわりィ。キプロス・カット・シストラム・シロウロカンボスで、そこのアルビノフードはロール・ロンド・ロングリース。最後に大和撫子な美人がエアリエル・アエアエルだ」

    一人一人、親指で丁寧に指し示しながら、ヘルモンドの背後に立ったままの四人を改めて紹介していく。
    そして、最後に一言添えて締めだ。

    「総勢五名。これがオレらクラシカルだ」

    よろしくな、秘密結社ライブラ。
    ヘルモンドはそうニヒルに笑いながら、開幕を締めくくった。



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