ひびく 11にんぶんの あしおと▼



カツン、カツンと洞窟内に響き渡る足音。
発信源は足元。つまりは、私が歩いている足音が洞窟内に響いているのだ。
…というのは嘘だ。

私の履いているのは女物のスニーカー。旅をするのにゴテゴテなものなど無粋だろうという私とヒナタさんの満場一致の意見の結果だ。
もう何年も履いている為、新品で紫色の鮮やかだった色は既になく、砂汚れや土汚れ、雨に濡れ擦り切れ実に履きなれ古されたのが一目でわかる。
否、そこまで古いという訳ではないけどね、前世では物持ちは良い方だったが、旅を続けて履き続ければ物持ちの良さ云々は関係なかったって話ですわ。
汚れては、ポケモンセンターでブラシ諸々を借りては洗って新品並に綺麗にしてはまた汚れての繰り返し。
更には固いブラシの毛でゴシゴシと荒っぽく洗った結果、所々硬質な毛によって出来た小さい傷が見られる。
愛用された無二の相棒と化した靴である。

が、十一の頃からずっと履かれてきたこの靴もそろそろ限界。
十三になった現在、明らかに当時より足のサイズは大きく成長している。その為、きつくなっているんだよね。
ローファーやパンプスのような靴擦れはまだ起こっていないけどね、がそれも時間の問題なんだけどさ。今回の件が終わったら、気分転換に全身のコーディネートを変えてみるのも悪くないかもしれないと思ったのと同時に何気なく立ち止まった瞬間、先程まで洞窟内に響いていた足音も途切れる。


そんな反応をした足音の主に対して溜息がこぼれる。


「…いつの間に、この島に来たのさ、アンタ」

「私がいつこの島に来ようと、勝手だろう?」

「そうだね、その通りだわ。じゃあ、質問変える。何で私の後ろを歩いてんの」

「ただ、私の前にお前が歩いているだけのこと」

「じゃあ、何で私が立ち止まったらほぼ同じタイミングで立ち止まってんだよ」

「ふふ、それは“偶然”だろう」

「わー、ジゼルこんな意図的で作為的な“偶然”初めて出くわしたわー」


この人、本当にロケット団の首領なんですかねぇ?
ここまでお茶目なボスさん初めて見たわー。

二年前に互いにそこまで冗談無しにそこそこの相手の命を賭けた略奪ファイトをした関係のはずなのになー。
お互い様に何処でどうなってこうなったんだろうね。
私の記憶違いで無ければ、オツキミ山と現在のエンカウントを除いて二年前のシルフカンパニーの最上階が初めてのエンカウントだった筈なんだけどな。
ロクな内容じゃない会話のキャッチボールを繰り広げて、端から見ればそれはなんと異様な光景だったか。
こういうのは、当事者では分からない上に自覚無しで第三者から見てその異様に満ちた異質な雰囲気や光景に気付いたりするもんなんだよね。
生憎、私は当事者の一人だったから全く分かんない上に当時の詳細を知る第三者が居なかったからその光景を事細かく説明できないんだけど。当事者だとどうしても客観的なものを説明出来ないね。私だけなのかもしれないけどさ。

そんな、敵同士という言葉が最も私達の関係を表すという程度の微妙で曖昧な関係を持っている。
っていうのに、今こうして仲良く偶然にも一致した同じ敵を倒す為に揃って敵陣地を歩くこのまたまた異様な光景を第三者が見たらどう説明してくれるのやら。
まぁ、オツキミ山での光景も今以上に異常だったのかもしれないんだけどさ。

だって、揃って氷漬けになってたレッドを助けたんだよ?
私と、いつの間にか隣を歩くサカキが。

あー、マジで第三者の意見というか感想というかそういった類のもんを聞いてみたいわー。
本当は仲が良いんじゃないかと言われた暁には否定させてもらうけどさ。
だけど、そんな関係じゃないって事くらい餓鬼の私でも分かるんだよ。そんな甘い関係じゃないって事がさ。
そんな関係ならば今の状況もオツキミ山での事もきっと起こらなかった。“原作通り”の展開がきっと待っていて起こっていたんだと思うよ。確信はないけどね。
持ちつ持たれつ、な関係でもない。
今の私達の関係は本当に何なんだろうね。説明が難しいな、これならばちゃんと国語の授業を受けていたらよかったなぁ。超がつくレベルで今更な事だけど。


ジャリッという音とカツンという二つの音が洞窟内で響く中、遠くで鈍い地響きなようなものが聞こえてくるようになってきた。
それも一箇所ではないところからみると、どうも始まったっぽいね。
“現章”の最終決戦。
ここ最近、物忘れというか原作の知識が薄まってきているんだよなぁ。お陰様でうろ覚えの知識にまで成り下がっている始末だ。
多分、ロクな原作介入にならない。

ま、それは今に始まったことじゃないんだけどさ。


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