トリップに よくある はなし▼



場所が五番道路から変わっての、カントー地方きっての大都会。
ヤマブキシティ。

街の中心に高くそびえ建っていた人類のシンボルとも呼ばれたシルフカンパニーは未だに解体作業が済んでおらず、成れの果てといったその哀れな姿を人の前に晒していた。
因みにシルフカンパニーに元々いたはずの社員から社長までは、あの時ロケット団側についていたというわけではなく、ヤマブキジムジムリーダーであったナツメに口八丁手八丁で騙されて乗っ取られていた事が後に発覚。現に、シルフカンパニー地下で誘拐されていたマサラの人達と共に地下闘技場にて全員が閉じ込められていたのだから。
これは、同じように閉じ込められていたマサラの人達が生き証人となっていた。
シルフカンパニーはカントー地方で主にモンスターボールを始めとするポケモン捕獲用ボールの製作を勤めていた。その為、得た利益を最近は貧しい子供達やポケモンスクールなどに寄付するという行為を行っていたのだが、その利益にロケット団に目をつけられたのが運の尽きと言えよう。本当にどんまいどんまい。運が無かったね。


そんなカンパニーの社長は、ロケット団を追い払ってくれた少年少女の四人組に感謝していた。残念ながらその内の一人は未だに彼の感謝を受け取っていないのだが。



…まぁ、その感謝を受け取っていない一人、というのが私のことなんだけれどね。
いや、これゲーム通りだというのであれば、現実無いと信じたいけれどその感謝の品がマスターボールという可能性が無いわけでは無いし、しかしもしもマスターボールだというのであれば文字通り宝の持ち腐れにしてしまうのは目に見えていることで…。
前世でゲームをプレイしている時も、ファイヤーとかミュウツーとか何度もリセットして頑張ってモンスターボールで捕まえたからね、私。ダイパでなんか、クレセリアやエムリットとかもモンスターボールで捕まえたのが密かな自慢だったりする。

と、そんなこんなを思いつつ、瓦礫の山と化しているシルフカンパニーを横目で見つつ五番道路でグリーンに見つかってから依然として掴まれている右手を引っ張られてそのままポケモンセンターヤマブキ支部へ直行。
ちなみに、ここまでの間お互いに一言も口を開いていません。
いや、お互いというのは間違いだったね。私は何度か話しかけたけど、グリーンが口を開くことがなければ振り向くことも無くそのままだったから、無言を貫いているのはグリーンだけか。


そもそも、何でこんなことになっているのか未だに疑問を抱かずにはいられないんだお!


…サーセン。調子こきましたすみません。
いや、前世で動画とかよく見ていたんだけど、それに出てくるAAのやる男の口真似をなんとなくやってみたくなっただけなんだわ。別にたいした理由とか全くこれっぽっちもないから。

と、一人悶々と誰に言っているのかも定かではなく、いやただいまこの現状から逃げ出したいからという現実逃避によってこうなったんだけれど。
そんなこんなしている間にどうもポケモンセンターについたらしく。相も変わらず右腕をグリーンに捕まれ引っ張られたまま中へと入った。
とまぁ、ここまでは特に問題とかそういったのはなかったんだけれど。中に入ってから場問題だったね。
片や前世から現世まで可愛いから綺麗まで様々な女の子達から黄色い悲鳴を上げられるほどのイケメンフェイスを持つグリーン。
片や普通の顔面偏差値の私。右腕はかのイケメンであるグリーンに現在進行形でつかまれています。この状況を見て、嫉妬の眼差しを送ってこない女子はいないだろうと最初の私は思っていたんだよ。えぇえぇ、思っていましたよ。そんな時期が私にもありました。
あぁ、現実は違ったんだ。
確かにグリーンは黄色い悲鳴が公害レベルに五月蝿くなる程のイケメンさ。まぁ、少々冷たいところもあるし話しかけづらい雰囲気を常に垂れ流しているけどね。それでも、そこら辺の大概の女子達は目で追いかけたり思わず立ち止まってしまったりする程度にはイケメンなわけ。あ、別に誇張とか尾ひれとかついてないからね。私は事実しか言わない(全てが事実とは言っていない)。

だからさ、たとえこうしてグリーンに捕まってしまっても。その嫉妬が醜い女の子達に今の現状をどうにかしてもらえると思っていたわけでして。
いや、大概嫉妬深い醜い女子ってさ、結構行動的だったりするじゃん?最近は肉食系女子が増えているとか言うしさ。え、古い?私の持つ情報は常に古いんだよ悪いか。で、話しかけられたりして、グリーンの元から離れられるかなぁとか、そんな感じの脱出作戦を一応は考えていたんだけどね。完全に他人任せな上にガバガバなやつだけど。
で、とりあえずは先の戦闘などで疲れているハクリュー達と今回は出番がなかったイワークの四匹をジョーイさんに預ける。この時、預けたときに手持ちのボールが五個じゃないということには、勿論グリーンにはバレてます。勘や目星のいい奴は本当に面倒で嫌だね。
あ、回復し終えた手持ち達を迎えに行くときに逃げればいいじゃんと考えている人。甘いよ。この時期で一番人気、タマムシデパート地下で売られているスペシャル限定杏仁豆腐よりも数倍甘い。
その程度で完全に導火線どころか本体に直で着火してしまっているグリーンから逃げられるわけがないでしょうが。

だからこその、嫉妬深い女の子達の手を借りようとしていたのにね。
グリーンから未だに出ている憤怒の炎というか殺気というかそういうのが背後で燃えに燃えてしまっているんですわ。しかも、おまけに般若と阿修羅付き。全くもって嬉しくないですお帰りください。
そんな様子のグリーンにいくらイケメンであろうとも私に対して嫉妬をするほど周りの女の子達はドMではありませんでした。
いや、一人だけ勇者と呼んでもいいかもしれないと蚤の爪の先端を作り出している細胞程度に思った、大馬鹿女がいたわ。


顔は普通に可愛いレベル。化粧や香水とかしている風はパッと見はなかった。いや、少量適量の香水はしていたのかもしれないけど私のところまでは香ってこなかったな。
綺麗な茶髪をウェーブで靡かせていて、服装はロリ服を少し抑えた感じの本当に可愛らしいものだった。そうだね、全体を見れば人形と見間違えても可笑しくはなさそうな程可愛らしい女の子だった。個人的な感想はその服装で旅をするのは大変そうだね。
彼女を遠目で見て鼻を伸ばしている男もセンター内どころか、センターの前を通った男までもが立ち止まって窓越しに覗いていた辺りで一気に頭が冴えていったね。
たとえば、チャンピオンだとか。たとえば、有名人だとか。そういう奴だったら興味本位で見ようとする人がいても可笑しくはなかった。でも、彼女をテレビとかで見かけた事無かったしさ。

私自身もイレギュラーな存在だから直ぐに分かったわ。


『あぁ、この子逆ハー狙いか』


って。
まぁ、遠目で見た感じ完全強力な奴じゃないってのは直ぐに分かったけど。
だって、彼女の逆ハーに掛かっているのはどいつもこいつも名も知らぬモブばかり。だけども、そのモブですら全員が掛かっているのという訳でもなかった上に、彼女が一番逆ハーに掛かってほしいと思っている本命の相手、グリーンに掛かっていなかったから。

彼女がグリーンに声をかけたその丁度の時回復が終わった家族達を迎えにその場を離れていて本当に良かっと思ってる。
逆ハーに狙いに睨まれるとかこれ以上にない面倒事だし。
ま、残念な事にグリーンに逆ハー効果ってやつが一切適用されなかった上に、本人の機嫌が完全に斜めでバックに般若と阿修羅を召喚しているという状態だったからね、怪我しないうちにとっとと退散しちゃったよ。
ポケモンセンターのジョーイさんとラッキーによる適切な検査によって全快したイワークの入ったボールを手に取ったけど全く意味をなさなかった。…その逆ハー娘を追い払った後、グリーンにこってり絞られましたけど。



「にしても、相変わらずのモテ男さんだねぇ」
「何のことだ」
「昼の話だよ。結構可愛い子だったじゃん?周りの男も鼻の下伸ばしてたくらい」
「興味無い」
「全国のモブ男に謝れ」


日が真上から少し西へと傾いていた時刻から、現在は完全に日が落ちた夜。
今日はそのままヤマブキのポケモンセンターに元々あった宿泊施設にて現在グリーンと同室で適当な会話を交わしていた。
ちなみに、ジョーイさんは気を利かせてくれたのか衝立(ついたて)を持ってきてくれて、私とグリーンの寝るベッドの間に置いてくれた。まぁ、気休め程度しか効果の無いもので更に言えば元々効果はあまり期待できないものでもあるんだけど。
私とグリーンとの間に如何わしい展開にでも発展すると思った?残念でした、この小説は全年齢対応だよバカヤロー。


「お前…」
「んぁ?」


進化したてのハクリューの存在が嬉しくて愛おしくて可愛らしくて、ジョーイさん達のお陰で全開した今、あの場で出来なかったことを今ただ無心になって撫でまわしたり抱き付いたりしていた時だった。
ふと、グリーンが口を開いて声をかけてきた。まさか、まだあの小言が続いているのかと少し身構えて睨むような形でグリーンの方を見ると、昼間の怒りはどこにもなく違うのかと直ぐに気付いた。


「昼間の奴みたいなのが苦手なのか?」
「…は?昼間?」
「あの趣味が悪く旅に適していない服を着ていた女だ」
「…あぁー、とだねぇ」
「お前に人間嫌いなところがあるのは知っている。だから、ほとんど同年代の奴とかに関わらなかったんだろ?どんな噂が流れようとも」
「うん」
「(即答か)だが、それでも顔に出すようなことはしない」


昼間の女を見た時を除いて、な。
グリーンのその言葉を皮切りに部屋が一気に沈黙に包まれる。
グリーンが指摘したその内容に関して、何と答えようかと精神総年齢三十路超えの頭をフルに使いこの場を何とか切り抜けることが出来る台詞が無いかと考えるもすぐさま疲れた上に眠い為にまともに動かない頭にすぐに考えることを放棄した。


「そう、だね。あの女の子は特別“苦手”の部類に入るね。理由は言う気無いけど」
「…それが聞けただけで十分だ」
「………あっそ」



その晩のグリーンとの会話はこれにて終了。
後はお互いにすぐに寝て何も起こらなかった。起こらなかったからね!ここ、重要なので二回言いました!!


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